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知られざるコロナ後遺症「感染後肺線維症」

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2021年2月15日

 国立病院機構近畿中央呼吸器センターでは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を多数受け入れてきた。当院は国立病院の呼吸器センターということもあって、COVID-19罹患中・罹患後の呼吸器系検査の敷居を下げている。

 COVID-19患者の検査で問題になるのは、間質性陰影を色濃く残した症例である(写真)。特発性器質化肺炎、あるいは皮膚筋炎/多発筋炎関連間質性肺疾患のような陰影がみられ、ウイルス量が減少しても後遺症が残ることがある。

写真. 間質性陰影を残したCOVID-19患者(自験例:退院後40日)

(倉原優氏提供)

 深刻な症例では特発性肺線維症のように慢性経過をたどるような陰影を残すことがあり、息切れにより再受診する症例もみられる。

 COVID-19による後遺症は通称〝Long COVID”といい、息切れや倦怠感などの長期間継続を主徴としており、国内でも数多くの症例報告がある(Open Forum Infect Dis 2020;7:ofaa507)。退院後約2カ月の時点でも、38%にX線異常がみられるとした報告もあり(Thorax 2020年11月10日オンライン版)、息切れの原因は肺炎の残存あるいは肺炎による線維化と考えられる。

 どのような患者が線維症を残すのかは不明であり、研究報告もほとんど見られないが、以下、短報(Letter)を紹介する(J Infect 2020年9月28日オンライン版)。

ポイント1:重症肺炎から回復した81例を線維化群と非線維化群に分け比較

 中国・湖北省の2つの病院で行われたケースコントロール研究。2019年12月19日~20年3月5日の間新型コロナウイルスと診断された患者のうち、重症肺炎から回復した81例を登録し、線維化群(42例)と非線維群(39例)に分けた。

 患者の入院期間中央値は26日と長期間である。パンデミック当初で退院基準が厳しく長引いた可能性はあるが、医学的に1カ月近く入院していたとすれば重症といえるだろう(当院の軽症・中等症患者の入院期間中央値は12日)。

 回復者81例は退院後、最低3回の胸部CT検査が実施された。退院後から直近の胸部CTまでの期間中央値は58日だった(四分位範囲25~46日)。

ポイント2:線維化群では炎症性バイオマーカーの上昇が長期間みられる

 線維化群は非線維化群に比較し、高年齢(P<0.001)、男性の割合が高い(P=0.036)、基礎疾患を有している割合が高かった〔少なくとも1疾患(78% vs. 41%)、糖尿病(31% vs. 23%)、高血圧(40% vs. 23%)、慢性肺疾患(21% vs. 7%)、慢性肝疾患(19% vs. 13%)、心血管および脳血管疾患(29% vs. 15%)〕。また、線維化群では入院時発熱率が高い(P=0.034)、入院前の発熱期間が長い(P=0.001)、息切れが強い(P=0.024)ことも特徴としてみられた。

 線維化群のバイオマーカーは発症後に好中球、CRP(C反応性蛋白)、LDH(乳酸脱水素酵素)が長期にわたり上昇した状態が続いた(図)。COVID-19の感染拡大当初、重症化の予測因子はリンパ球減少とされていたが、この研究からは好中球の方が線維化を長引かせる因子であることが示唆される。当院でも重症化した症例でリンパ球値が際立って低い印象はない。

図. 線維化群と非線維化群のバイオマーカー比較

(J Infect 2020年9月28日オンライン版)

 非線維化群では炎症性バイオマーカーの値が早く正常化し、その多くは4週以内である。炎症が継続する群と早く正常化する群に分かれる理由は明らかではないが、宿主要因が関係すると推察される。

考察:肺にとって厄介な線維化を伴う炎症

 肺の線維化が生じたCOVID-19患者は肺機能が損なわれていることが示された(Eur Respir J 2020; 55: 2001217)。全肺気量や拡散能が低下するため、”うまく息を吸えない”感覚の息切れが残ってしまう。COVID-19の重症患者では、炎症性バイオマーカー以外にも、TGF-β、TNFα、IL-6の値の上昇が報告されているが(J Med Virol 2020年10月27日オンライン版)、線維芽細胞増殖因子(FGF)の亢進状態と言える。

 肺機能が低下した状態が長引くため、線維化を伴う炎症は肺にとって厄介な問題である。重症呼吸器症候群(SARS)でも、肺野に線維化が認められると報告され(J Virol 2017; 91: e00182-17)、剖検にて罹患早期から線維化が認められた。ウイルス性肺炎の後遺症として線維化するのは、SARSで初めて証明されたが、SARSとCOVID-19は毒性や致死率が異なるとはいえ、同じコロナウイルスであることから、同じ機序でCOVID-19が肺の線維化を起こすことは想像に難くない。

 このようなウイルス性肺炎後の肺線維症に有効な治療薬として、TGFを主に抑制するピルフェニドンや、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体、FGF受容体、血小板由来増殖因子(FDGF)受容体を阻害するトリプルキナーゼ阻害薬のニンデタニブが、有効かもしれない(Eur J Clin Pharmacol 2020; 76: 1615-1618)が、現時点で大規模臨床試験の結果は発表されていない。

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