きちんと伝わる「スピーチ」の条件と練習法
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きちんと伝わる「スピーチ」とはどのようなものか?また、上手く話すにはどんな練習をすればいいのか?テレビ番組の制作を長年作ってきたプロデューサーの目線から、日テレHR代表の大澤弘子さんが解説します。

目次

  1. 「何が言いたいのかわからない」を回避したい!
  2. 伝わる話にするコツ
  3. (1)捨てる
  4. (2)話す順番
    1. 未来
    2. 過去
    3. 現在
  5. (3)時間内にゴールする

「何が言いたいのかわからない」を回避したい!

18歳の女子高生とお話しする機会がありました。こんなご相談でした。

受験に備えての準備としてはもちろん、日常から人に話をすること、自分のことをお伝えするのが下手です。でも徐々にそのような場面が多くなってきました。言いたいことは頭に浮かんでくるのですが、話している間に、あちこちに飛んでしまって、結局「何が言いたいのかよくわからなかった」と聞いてくれた方から指摘されることも少なくありません。自分でも「そうだろうなあ」と思うダメな出来栄えです。どうやったら、何が言いたいのか分かりやすく、まとまりのある話ができるのでしょうか?

わかります。その気持ち。何か質問を受けて、それに答えていくと、良かれと思って一生懸命話しているうちに、話があちこちに飛んでしてしまって、自分でも「あれ?何の話でしたっけ?」となることは、誰しも経験があるのではないでしょうか。学生さんのみならず、毎日、上司や同僚、お客様とお話をしているビジネスマンでも同じです。

今回は、テレビ番組の制作を長年つくってきたプロデューサーの目線から整理してみました。「話す」ということについては、「出役(でやく)」であるアナウンサーやタレントさんの方がスキルがあると思いますが、構成したり、伝える内容の整理をしたりすることについては、制作者として試行錯誤を繰り返してきたので、そんな経験からまとめます。

伝わる話にするコツ

実は、唯一無二の「正解」はありません。その人の「持ち味」もありますし、流暢に話せるから「伝わる」ということでもありません。朴訥(ぼくとつ)とした話し方のトップセールスマンもいますし、アナウンサーが全て話し上手ということでもありません。

要は、話す力、トーク力とは、「場数」であり、聞いてくれた人からのフィードバックをもらって素直に受け止め、改善していく。この繰り返しによって鍛えられるのです。「筋トレ」と同じですね。正しい努力をすれば、誰もがうまくなります。

と言っても、人前で話す日が間近に迫っている人にとっては、練習すれば上達するというだけでは、救いがないですね。「コツ」というか、留意点のようなもの、また考える順番のようなものがありますので、お伝えします。

(1)捨てる

話があちこち飛んでしまうときは、大抵の場合、不要なところが多いです。自分にとっては大事なことかもしれませんが、「聞く人」が大事なところ、興味があるところを残してあとは捨てましょう。

ただ、ここで誤解しないでください。「手短に!」と言っても、短い文章で無駄なくそれだけを伝えると考えすぎると、「対話」になりません。AIがアンケートに答えているような受け答えは、聞いている方も面白くありませんよね。例えば、「大切にしている言葉はありますか?」と聞かれて、「はい、あります」「いいえ、とくにありません」だけで回答を終わってしまっては、対話としてかなりレベルが低い。聞いてくれた人への愛情もゼロです。

さすがに一言のみの回答でOKと思っている人はいないでしょうが、入社試験の面接をしていたりすると、こちらの質問に対して「XXXXXです」と自分の回答を言った後、「はい、答えましたよ」という感じで、黙ってしまう人が、結構な確率でいらっしゃいます。

これは、聴き手(質問してくれた人)にとっては、つまらない。もうちょっと対話として、一緒に楽しんでくれる思いやり、サービス心が欲しくなります。 質問者が聞きたいのは、あなたの「大切にしている言葉」そのものだけではないのです。

どんな言葉なのか(質問に対するズバリの回答部分)は最低限の回答で、そこから先です。それは何か?質問した人の「真意」を想像してみてください。質問した人は何が欲しいのでしょうか。

それは、「なぜその言葉を選んだのか」「その言葉を大切にしている背景には、あなたのどんな経験や思いがあるのか」です。要するに、あなたのことを知りたいわけです。

「どんな考え方や、どんな感情を持った人間なのか」に迫りたくて、たまたま「大切にしている言葉は?」と聞いただけなのです。だから、ある言葉について話している時に「あ、あの言葉も大事にしているな」と閃いたとしても、それは余計な情報になってしまう可能性が高いですね。

ひとつの言葉を伝えたら、その言葉にまつわる話をしていく。詳しく聞きたいのは、その背景です。たくさん言葉を挙げる必要はありません。どんなことを経験して、どんなことを感じたから、その言葉をあげたのか。そこが伝わればOK。それ以外の部分は、一旦、捨てましょう。

(2)話す順番

話す順番にも正解はありませんが、「よい話」にするコツはあります。あくまでもひとつの手法にすぎませんが、いつも話がこんがらがって何を言いたいのか自分でも分からなくなってしまう人のために、1つのヒントとしてお伝えします。話の順番を、未来→過去→現在で構成すると、整理しやすいのです。

先程の例で解説してみましょう。「大切にしている言葉はありますか?」「はい、XXXXです」。その後「未来」から話し始めます。

未来

「未来」とは明日のこと、数ヶ月後のこと、10年後など、そのスパンは色々でOKです。「今」から先、自分がこうなっていきたいと願っていること、目指している方向、憧れている「未来」を最初に話します。

「大切にしている言葉は?」という質問に「為せばなる」という言葉を挙げた人を例に解説します。

「為せばなる」という意識をもって生きている自分が、未来、どんな人になっていたいのかを伝えてください。例えば「初めてのことに出会ったときこそ、恐れずにやってみる人間でありたいと思っています」とか。

「為せばなる」という言葉の意味は、誰しも大まかには同じイメージで捉えていますが、その言葉に対する評価や印象は、実は人それぞれです。昔、あまり好きになれなかった先生の口癖だったら?悪い印象を持つ人もいるかもしれませんよね。

言葉のみではなく、あなたがその言葉で目指している未来の自分の姿=ゴールを、相手に伝えることが大切です。

過去

そして次に、「過去」にいきます。

「実は、中学生の時に、こんな経験がありました」という、あなた自身の過去の経験を話しましょう。自分がリアルに体験したことです。聞いている人が、その場面を映像としてイメージできるように、工夫して伝えてみましょう。音や匂い、暑い寒いなど五感を交えて話すと想像してもらいやすいです。出来事だけではダメ。その時の自分の感情(喜怒哀楽)や考えたことなどを入れてください。

「へえ、君は、そんな経験をして、そんなふうに感じられる人なんだね」と伝わることが大事です。「聞いてほしい」「伝えたい」というまっすぐな気持ちで、過去の体験を話しましょう。

現在

仕上げに「現在」です。だからいま、未来へ向けて「何を始めているか」を話しましょう。
「為せばなる」を実践しようと、こんなことを意識していて、実際にこんな行動をしています、という具合です。

今はまだ成果が出ていなくても、思っているだけではなく、既に「行動」を始めていることが伝えられると、言葉に説得力が増します。思っているだけは人を感動させないのですね。いつも人の気持ちに届くのは、具体的な「行動」です。

聞いている人は、あなたのことを、主体的だなあ、積極的だなあ、自分で自分の道を進める人だなあ、と感じやすいです。まとめると、

  • 未来:どんな姿をイメージしているのか、やってみたいことや自分自身の理想の姿
  • 過去:どんな体験があって、どのように感じ、考えたから、その言葉を大切にしているのか。ここに、オリジナリティがでます。経験が日常の些細なことでも、全く問題ありません。あなた自身が本当に体験したこと、その時の感情をリアルに話せばOK
  • 現在:過去の経験と思考があって、未来へ向けて努力している、進んでいる、成長しようと行動を開始している「現在」を伝えられると完璧

何を考え、どのように並べれば良いか、伝わりましたでしょうか。最後の3つ目は「時間」の感覚です。

(3)時間内にゴールする

質問してくれた人(=聴き手)が負担にならない時間、ものたりなさを感じてしまわない時間、ちょうど心地よくて、「対話」を楽しいと感じられる時間の感覚を身につけましょう。

どうすれば、それが身につくか。これは、「やってみること」で徐々に掴めるようになります。1人で作文して「いい文章に仕上がった」と思っていても、それは机上の空論です。永遠に伝わりません。推敲して整えた文章をもとに、誰か他者に実際に話してみましょう。聞いてもらって、感じたことをたくさん言ってもらいましょう。

「え?そこ分からないの?」
「ああ、そこは退屈だったか…」

など、自分1人では気がつかなかったことにたくさん気づくことができます。
それを素直に受け入れて、ブラッシュアップしていくのが最も良い方法です。
何の準備もせずに、(2)で設定した「未来→過去→現在」を、いきなり話してみると、きっと、やたらと長くなります。無駄が多いからです。

それを、録音したり、文字起こししてみたりしてください。客観的に見ることができます。改めて、聴き手の気持ちになって、いらないところをカットしてみましょう。

この作業を何回かやると、ある程度、いい長さに整ってきます。ここで、仲の良い友達や家族に話して、聞いてもらってください。できれば、「過去」の出来事を知らない人、その場にいなかった人が良いです。

聞いてもらったら、

  • 分かりにくいところあった?
  • 質問したくなるようなところはなかった?
  • 長く感じたところはある?もうちょっと聞きたいと思ったところは?

など質問をして、率直に答えてもらいましょう。これを行うと、適度な時間内に、話のゴール=結論まで、話しきることが出来るようになってきますよ。

プロの話し手がなぜ上手いか分かりますか?この作業をたくさんやっているからです。アナウンサーは自分が出演した番組の録画を必ず見直しています。新人時代は、先輩にもみてもらって、違和感のあるところ、改善した方がいいところについて、忌憚のないフィードバックをもらっています。

いろんな人に聞いてもらって、フィードバックをもらいましょう。何度も話しているうちに、話がこなれて、相手のリアクションが来やすいところ、ウケの悪いところなどが、必ず見えてきます。

最後に一つだけ!絶対にやらないでほしいことがあります。

それは、書いたものを暗記して話すことです。これはもう「対話」ではありません。言葉が死んで、せっかくのオリジナリティある体験談も色褪せてしまいます。もったいないので、やめましょう!

大澤 弘子
大澤 弘子(おおさわ・ひろこ)
国家資格キャリアコンサルタント 日本青少年育成協会認定教育コーチ(中級)
日本テレビでプロデューサー歴25年。各界の著名人を取材し、誰しも「自分の軸」に気づいて殻を破る転換点があると知って感動。史上初のNHKとの共同制作実現、タレントと視聴者が「ワーキングマザー」として交流するサークルなど、TV番組の枠を越えた取り組みを推進。2016年、慶應義塾大学大学院SDM研究室・前野隆司教授に学び「最大の成果を出すチームに共通する力」を導く。2019年「日テレHR」スタート。上場企業の人材育成に従事。2020年には全国170,000人の人事パーソンが選ぶ「HRアワード」受賞。サラリーマンこそ「キャリアビルディング」意識が必要と考え、人材育成コンサル・研修・個別コーチングも多数。
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