メンタルトレーニングが必要なのはアスリートだけではない!「自分の心と向きあう」ことの大切さ
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本ではメンタルケアやメンタルトレーニングと聞くと、「心の病気?」とネガティブに考えてしまう人や、「スポーツの世界だけでしょ?」と他人事のように感じる人も多いかもしれません。本記事では、フィギュアスケート選手の小松原美里さんが自分の心と向きあうことの大切さを語ります。

目次

  1. メンタルトレーニングとは
  2. 自分だけで乗り越えることばかり考えていた
  3. 自分では心が強くなっていると思っていた
  4. 朝のコーヒーがメンタルを安定させてくれるように
  5. はじめようと思った時点ですでに心の変化は起きている

メンタルトレーニングとは

メンタルトレーニングとは、最高のパフォーマンスと健康を導くための準備で、身体的な部分にかかわらない全てのトレーニングのことです。

トレーニングでは、自分と向き合う力、集中力、感情などを育てていきます。自分の心が折れたときはもちろん役立ちますが、「何もないとき」に準備しておくことによって、何か課題に直面したときやつらいことがあったときに「やっていてよかった」と強く実感できることでしょう。

トレーニングを受けたからといって、すぐに身に付くわけではありません。しかし、常に心がけることで、自分の心と体をよりよい方向へ導いていけるものであると考えています。

自分だけで乗り越えることばかり考えていた

現在、私はフィギュアスケートのアイスダンス選手として活動していますが、これまでの人生で、さまざまな経験をしてきました。

9歳でスケートと出会った私は、当初シングルスケーターとして活動し、自分の夢に向けて一心不乱に練習に取り組んでいました。全日本ジュニア選手権への出場を果たすなどの結果も残してきましたが、度重なる怪我、人間のいやな一面、見たくない現実と向き合う出来事があり、人生で初めて「夢を諦める」という経験をしたのです。

15歳からは競技をアイスダンスへ転向し、日本国内はもちろん、海外へも拠点を移し競技を続けていました。スケートを続けることは楽しかったですが、大切な人との別れや病気、他者からの評価等によって、心が折れてしまったこともありました。

私を支えてくれていた家族と友人には、今でも感謝しています。しかし、当時の私は人を頼ることが下手で、自分だけで乗り越えることばかりを考えていました。周りの人たちが経験してこなかった、よりパーソナルな悩みが多かったのも、それが理由かもしれません。

自分では心が強くなっていると思っていた

そんな私ですが、メンタルケアに関しては、子供の頃からネットで調べたり、本を読んだりして自分なりに解釈し、競技や日々の生活に取り入れていました。当時の私は、それだけで十分だという認識でいたのです。

メンタルトレーニングと出会うことになったのは、2018年夏の練習中の転倒により、脳しんとうを患ったことがきっかけです。翌年に控えていたNHK杯を欠場し、競技どころか日常生活すらままならない状況でしたが、当時の私は、「1日1日ベストを尽くし、自分の最良を目指せば、オリンピックに繋がる。」と信じていました。

しかし、リハビリのなかで先生から、「絶対にオリンピックに行く!」というもっと強い気持ちを持つべきだと指摘されました。自分では強くなっていると思っていた自分の心は、周りから見れば、弱いままだったのです。そこから「自分のことをもっと知りたい」と思い、プロの目線で第三者からの意見をもらいたいと思うようになりました。

そんなときに、偶然スケート連盟がメンタルトレーナーを呼び、トレーニングを受けさせてくれる機会がありました。そこで現在のメンタルコーチに出会い、トレーニングをはじめることとなります。

メンタルトレーニングでは、研究されたベースを活かしてアドバイスをくれるので、プロの意見として受け止めることができ、しっかりと決まった時間、自分のメンタルと接することができました。

朝のコーヒーがメンタルを安定させてくれるように

メンタルコーチと出会い、「常に自分の心の状態を把握する」ことがパフォーマンスの発揮と目標設定、そこに対するアプローチの仕方を考える上で重要であると改めて知りました。これは、スポーツ以外でも、大事なクライアントとのプレゼンや就職活動中の面接等でも同じことがいえると思います。

とはいっても、その場でいきなり心の状態を把握することは難しく、普段の生活のなかで、常に自分に関心を持ち、注意を向ける習慣を取り入れることが必要です。

本当に些細な習慣ですが、私がはじめに取り入れたのは、「自分貯金」です。これは、自分が嬉しいと感じることをしてあげて、「チャリン!」と貯金箱にお金を入れるかのように、自分が喜ぶことを貯めていくのです。私の場合は、コーヒーが大好きなので、朝に一杯のおいしいコーヒーを飲んだときに、心のなかで「よし、今日も自分が喜ぶことをした!」と思うようにしています。

トレーニングを受ける前の私は、練習以外のことをすると、自分を責めるというマインドになっていました。しかし、今ではこのような幸福感を自分に与えてあげることで、心を安定させることができています。

他には、ライフラインを作成しました。人生の起点となったことを線グラフにし、当時の気持ちの上げ下げを目で見て、これまでの人生を振り返るのです。当時は「人生のどん底と思っていたこと」も、「今から考えればそれ程大したことなかったな」と思ったり、逆に「あのときが人生の最高潮だと思っていたけれど、もっといいことがあったな」と振り返ることができています。

今と昔の自分の価値観の違いを見ることができ、目標設定やその目標に対する取り組み方を考える参考にもなります。それ以外にもたくさん「自分を知る」ための方法がありますが、それはまた今後詳しくお話ができればと思います。

はじめようと思った時点ですでに心の変化は起きている

トレーニングを受けてからは、今の自分が一番自分らしいと感じています。過去に起こったつらいことも、「今の自分ならあのときほど悩まずに対処できた。」とも思えるのです。

この記事を読んで、メンタルトレーニングを実践してみようと思った方には、すでに心の変化は起きています。普段の生活のなかで少しでも「自分を知る」習慣を持ってみてはいかがでしょうか。

平松類先生
小松原 美里(こまつばら・みさと)
フィギュアスケート選手
幼い頃は野球少女だったが、同じ地元のスケートである高橋大輔に憧れ、9歳からシングルスケーターとしてスケートをはじめる。全日本ジュニアに出場するなど成績を残すが、怪我の影響などもあり、もともと観るのが好きだったアイスダンスに転向。
海外に拠点を移し、イタリア代表として活動したが、パートナー解消を3度経験し、出会ったのが現在のパートナーである尊。
日本代表を目指すことを決意しトレーニングしていたが、2018年夏、練習中の度重なる転倒で脳しんとうを起こし、一時は下半身の麻痺に加え言語障害も発症した。
通院していた病院で出会ったパラ競技の選手から刺激を受け、懸命のリハビリで2019シーズン中に復帰し、出場した全日本選手権では優勝を飾った。
私生活では、ビーガンを取り入れ、地球や環境にやさしい生活を心掛けている。またファッションやメンタルヘルスなどスポーツ以外にも感度が高く、SNSや講演を通して、自分のライフスタイルをシェアしている。