優秀なマネージャも意外と知らない「褒め方」の理論
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せっかく褒めたつもりの一言が、相手を力強く支えることもあれば、開き始めたツボミをしぼませてしまうこともあります。効果的な「褒め方」について、日テレHR代表の大澤弘子さんが解説します。

目次

  1. 簡単そうだけど奥が深い「褒める」方法
  2. 「褒め方」には2種類ある
    1. YOUメッセージとIメッセージ
  3. 褒めないけど重要なもの
    1. 確実に承認を届ける「フィードバック」

簡単そうだけど奥が深い「褒める」方法

「褒める」ということには、コーチングやカウンセリングでいうところの「承認」というものが関わります。

「豚もおだてりゃ木に登る」という言葉がありますが、人間は、ゴハンをもらって芸を覚えるものではありません。褒めて伸ばそうというブームもありましたが、「そんなに褒めたら逆に『これでいいんだ』と思わせてしまって相手の成長への情熱を阻害するのではないか」「そもそも自分は褒められた経験が少ないから頑張ってきた」というような思いを持つ方もいるでしょう。褒めるというのは、簡単そうに見えてなかなか奥が深いことです。

我が子でも、スポーツや音楽を教えている生徒さんでも、会社で共に働く部下でも、できればその人のポテンシャルを最大に引き出して、その人も幸せになる褒め方で応援したいものですよね。ほんの一言が、人を支えることもあれば、開き始めたツボミをしぼませてしまうこともあります。関わり方によって相手を伸ばしたり潰したりする結果を招くのです。

今回は、コーチングの視点から、できるだけ日常生活に活用できるようにシンプルに「褒め方」についてお伝えします。

「褒め方」には2種類ある

最初にクイズです。小学校6年生の子ども(あなたのお子さんでも生徒さんでも、想像しやすい相手でイメージしてください)が、あなたの元に走ってきて言いました。

「テストで80点とったよ」

この子はあまり勉強が好きになれず、テストは大抵50点前後を行ったりきたりしていました。この時、彼を「褒めてあげたい」と感じたとして、あなたはどのような言葉をかけますか?

・A:80点もとったんだ!すごいじゃないか!優秀だなぁ ・B:感激だよ〜!とってもうれしいなぁ

これまでいろいろな方に同じ質問をしてきたのですが、「思わず、Aの方を言ってますね」という方が圧倒的に多いです。「Aを言って、その後、Bも言っている気がします」という方もいらっしゃいます。皆さんは、いかがでしょうか。

YOUメッセージとIメッセージ

まず初めに明確にしておきますが、AもBも、良い/悪いということではありません。どちらも相手を「承認」していること、そしてポジティブに捉えていることは同じです。コーチングの目線では、どちらも相手を「褒め」ていることに入ります。では、どこがちがうのか?

・Aが「評価」しているのに対して、 ・Bは「事実」を伝えている

という点です。もう少し詳しくいうと、

・Aの主語は「相手」である ・Aでは、主語(相手)に関する、解釈(判断や評価)を提示している ・Bの主語は「わたし」である ・Bでは、主語(わたし)に起きた変化をそのまま伝えている

という違いがあります。日常会話の中で、「褒める」というと一般にはAの言葉が近いです。これは「YOUメッセージ」と言われるものです。主語が「相手」なので「YOUメッセージ」。

「よくがんばったね」「立派だね」と言われたら、嬉しい人が多いでしょうが、この「YOUメッセージ」は、実はカラブリすることがあります。

80点とった子に、「すごいね、よくがんばったね」と言ったとします。その子が、本当に奮闘して達成した結果であれば全く問題なし。「見ていてくれたんだな」と言われた方はあなたへの好意や信頼をアップするでしょう。

でも、たまたまヤマをはったところが当たった80点であったり、本人としては本気で100点を狙いに行っていたのに、予想外に20点も足りなかったことを悔しいと思っている場合はどうでしょうか?

「すごいね、よくがんばったね」と満面の笑みで言われても、「こいつ、わかってねーな」「何が『がんばったね』だよ」「結局、いつも僕じゃなくて結果しか見てないんだな」と感じてしまうことになります。反抗期だったりすると、「褒めてんじゃねーよ、何も知らないくせに」とあなたに対する予想外の反発が起きることも想定されます。

YOUメッセージには「80点はすごい」「50点はダメ」という「あなたの主観的な評価」を相手にぶつけることにもつながります。実は、幼少期に「YOUメッセージ」で育つと、他者からの評価や社会の価値観に合っている「すごいこと」を達成しようとする気持ちが大きく育つ傾向があります。その一方で、自分自身の気持ちを顧みて、自分なりの目標設定したり行動をしたりする意識が減ってしまうといったリスクも持っています。

一方、Bはと言うと、こちらはYOUメッセージに対して「I(アイ)メッセージ」と言われるものです。評価をするのではなくただ自分の感情を伝えるメッセージです。

自分が過去に「褒められて嬉しかった」経験がある人や、「褒めてあげたい」という気持ちが強い時は、「こんなので大丈夫かな?足りるのかな」と不安に感じられると思います。

確かに、褒めて褒めて!と思って80点を持ってきた相手の場合は、「すごいね!一気に●点も上がったんだね。そんな子、他にいないよ!」と言われたい子どももいるでしょう。どちらが正しいという話ではありません。

ただ、「YOUメッセージ」が外側への視点や思考を育てるのに対して、「I(アイ)メッセージ」は、相手の潜在意識に浸透する傾向が強いと考えられています。その結果、子どもの中に残る実感としては、点数が何点上がったという事実以上に、「自分がお母さん(あなた)を喜ばせることができた」「自分は大好きな人を幸せにできる力があるんだ」と確信する気持ちです。

これは心のつながり、愛情のつながりを生み出します。自己肯定感のベースとしても大変重要な要素になってきます。

褒めないけど重要なもの

もうひとつ。人が本来もつ力を、伸びやかに発揮して成長していくための関わり方として、褒めないけど重要なものについて、お伝えします。

確実に承認を届ける「フィードバック」

これは、フィードバックと言われるものです。企業や組織における人材育成の現場では、近年、特に重視されている言葉なので、耳にする機会が多い方もいらっしゃるでしょう。

「フィードバック」とは、評価を交えず、みたまま、ありのままの相手の様子を言葉にして伝えるものと定義されています。フィードバックは「褒める」のではないけれど、相手に対する確実な承認を届けるものです。

前出の子どもの例で考えてみましょう。この子に「フィードバック」をするとしたら、

・テストで80点をとったね ・毎日、勉強机に向かっていたね ・テストの当日の朝もノートを見直していたね

という感じです。見てきた客観的な事実をそのまま伝えていますよね。身近な人に自分が見ていてもらえること、自分をそのまま受け止めてくれる人がいることは、確実に相手の中に承認を届けます。

この承認が、自分で自分を大切にする気持ちを育てます。困った時は見ていてくれる人に相談していい、きっと力になってくれるという信頼の感情も育てます。つまり、周りの大切な人との間に愛情や繋がりを感じる土台となるのです。

日々の言動をしっかり見て観察し、心に留めたら、そのことを伝えるのが「フィードバック」です。これはあなたが相手に愛情を持ってつながっていることを伝える力になります。この愛情の繋がりができると、サジェスチョン(提案)なども、相手の耳に届きやすくなるでしょう。

周囲の人から充分な「承認」をもらっている人は、初めてのことでも未知の世界に遭遇したときも、落ち着いて自分の頭で考え、行動する意欲を持てるようになります。失敗しても、自己卑下したり嫉妬に狂ったりすることが起きにくくなります。心の繋がりを感じ愛情を感じることは人の成長の土台になるのですね。

顔を見るなり「あれしたら?」「これしたら?」と指示や提案を浴びせるのではなく、日常の観察から始めて、フィードバックを重ね、I(アイ)メッセージを伝えて、本人の感じ方や考え方に耳を傾ける。こんな関わりかたを少しずつ始めて行けたら、関係性が代わり、相手の成長を支援できるメンターに変わっていけますよ。

大澤 弘子
大澤 弘子(おおさわ・ひろこ)
国家資格キャリアコンサルタント 日本青少年育成協会認定教育コーチ(中級)
日本テレビでプロデューサー歴25年。各界の著名人を取材し、誰しも「自分の軸」に気づいて殻を破る転換点があると知って感動。史上初のNHKとの共同制作実現、タレントと視聴者が「ワーキングマザー」として交流するサークルなど、TV番組の枠を越えた取り組みを推進。2016年、慶應義塾大学大学院SDM研究室・前野隆司教授に学び「最大の成果を出すチームに共通する力」を導く。2019年「日テレHR」スタート。上場企業の人材育成に従事。2020年には全国170,000人の人事パーソンが選ぶ「HRアワード」受賞。サラリーマンこそ「キャリアビルディング」意識が必要と考え、人材育成コンサル・研修・個別コーチングも多数。
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