(画像=※写真はイメージです/PIXTA)

マスクや手洗い・うがい、アルコール消毒などの「コロナ対策」が功を奏し、コロナ以外の感染症が激減しています。近年増加傾向にある性感染症も、コロナ禍で減ったとされる感染症の1つ。しかし「コロナ禍で性感染症が減った」というのは、本当に正しいのでしょうか? アメリカを例に、近年の性感染症の動向や、感染者が減ったとされる真因を見ていきましょう。

目次

  1. コロナ禍の治療事情…クラミジアを治せずにいる患者さんの例
  2. 年々増える性感染症…アメリカではたった5年で梅毒が74%増加
  3. 治療できる病気なのに「感染者が絶えない」背景
  4. コロナ禍の性感染症、確かに「報告数」は激減したが…

コロナ禍の治療事情…クラミジアを治せずにいる患者さんの例

「また排尿時の痛みが出てきました…」診察室に入るなり、そう話す一人の若い男性。ちょうど2ヵ月ほど前にも同じ症状で受診し、その際の検査でクラミジア陽性とわかった、その男性でした。

抗生剤を内服してから2週間から3週間の間に再検査をして、治療がちゃんとできたかどうか確認するようにお伝えしたものの、受診されず。

実は、新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減ってしまったこともあり、そのうえ、新型コロナウイルス感染症の流行でクリニックを受診することがなかなかできなかったといいます。さらに、パートナーにクラミジアが陽性だったことを伝えることができなかったようで、どうもピンポン感染を引き起こしてしまっているようでした。

「再検査のために受診してくださいね」とお伝えしたのですが、残念ながら今回も受診されていない様子です。新型コロナウイルス感染症の流行で受診控えをしてしまうようなら、性感染症の検査キットをインターネットで自費注文し、自分自身で検体を取って郵送すれば、匿名で検査結果をすぐに知ることができるサービスがあることもお伝えしたので、そういったサービスを利用してくれていることを願うばかりです。

年々増える性感染症…アメリカではたった5年で梅毒が74%増加

性感染症とは、30種以上に及ぶ細菌・ウイルス・寄生虫が性交渉によって媒介されることで感染する疾患です。細菌であるクラミジア、淋病、梅毒、寄生虫である膣トリコモナス、ウイルスであるヒトパピローマウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、B型肝炎の8つが主な性感染症の原因だと言われています。

米疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、2019年の米国で確認されたクラミジア・淋病・梅毒の症例報告数は過去最多の250万件を超え、6年連続で記録を更新しました。その中で、最も多かったのはクラミジア感染症の約180万件。2015年から19%増加しました。次いで多かったのが、淋病の約61.6万件。2015年から56%の増加となりました。梅毒は約13万件。2015年から、なんと74%の増加でした。

治療できる病気なのに「感染者が絶えない」背景

性感染症の中で最も感染数の多いクラミジア感染症は、感染した人の精液や膣分泌液が、性器や泌尿器、肛門、口腔に接触することで感染します。女性の場合、おりものの増加、不正出血、下腹部の痛みや性交渉時の痛みなどの症状が見られ、男性の場合、排尿時の軽い痛みや尿道のむず痒さが現れます。しかしながら、男女ともに無症状のことが多く、特に女性の90%以上は無症状であるとも言われています。

これらの性感染症は、抗生物質を内服することで治療することができます。たとえばクラミジア感染症の場合、アジスロマイシン(商品名ジスロマック)1g(500mgを2錠)を1回内服します。

大切なのは、パートナーと共に抗生剤を内服して治療をすることです。どちらか一方が治療するだけでは、完治前に性交渉をすることによって相手に感染させてしまうため、ピンポン感染を引き起こします。実際、感染していることをパートナーに打ち明けることができず、感染を繰り返してしまうケースは後を絶ちません。

ただし厄介なのは、性感染症は初期症状を自覚しにくいということです。感染していることに気づかず、未治療のまま放置されているケースが多々ある可能性も十分に考えられます。慢性感染の状態となってしまう結果、男性の場合は前立腺炎や精巣上体炎、女性の場合、卵管炎や腹膜炎などを引き起こします。精子や卵子の通り道を塞ぐことにつながり、不妊の原因の一つになってしまうのです。

コロナ禍の性感染症、確かに「報告数」は激減したが…

米国では2015年から増加傾向にあった性感染症。2020年3月13日に国家非常事態が宣言された米国での新型コロナウイルス感染症のパンデミック時における性感染症報告の傾向が、CDCによって2021年7月に発表されました。

なんと、2020年3月から4月の間に、性感染症の報告数が2019年の同時期と比較して、50%(クラミジア)、71%(淋病)、および64%(梅毒)と劇的に減少していたのです。しかし、4月以降、報告数は増加に転じ、12月12日時点で、2019年と比較した2020年の性感染症の症例累積合計は、クラミジアは14%低く、梅毒は1%低いものの、淋病は7%高かったことが報告されました。

CDCによると、2020年3月から4月の間に性感染症の報告数が劇的に減少した理由として、スクリーニングの削減(多くの医療クリニックは、直接の訪問を制限するか閉鎖された)や資源が限られたこと(多くの州および地方の保健部門の性感染症を担当していたスタッフは、通常の性感染症の責任から新型コロナウイルス感染症の対応に変更され、性感染症の追跡能力と報告に影響が及ぼされた)に加え、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐことを目的とした外出禁止令が性行動に影響を及ぼし、結果として、性感染症を減らした可能性があるといいます。

日本でも、性感染症の増加は新型コロナウイルス感染症の流行前から指摘されていました。新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、日本でも性行動に影響が及ぼされた可能性は十分に考えられます。今後、新型コロナウイルス感染症を含む新たな感染症の流行が生じたときに、性感染症にどうアプローチすべきなのかを考えるためにも、性感染症が増加に転じたのか、減少に転じたのか、しっかりと検証する必要があるでしょう。

山本佳奈先生
山本 佳奈(やまもと・かな)
ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医

1989年生まれ。滋賀県出身。医師。四天王寺中学校・高等学校卒業。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。
ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島市)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。
著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある。