
鎖骨の下が痛い場合は、胸郭出口症候群や気胸の可能性があります。痛みが長引く場合は、症状が重篤化する前に、病院を受診することをおすすめします。本記事では、鎖骨の下が痛い場合の原因となる疾患や、その他の要因について解説。鎖骨下の痛みで悩んでいる場合は、参考にしてください。
目次
鎖骨の下が痛いのは「胸郭出口症候群」かも?
鎖骨の下が痛い原因となる疾患で多いのは、胸郭出口症候群です。ここでは、胸郭出口症候群の病態や原因、症状、受診科目についてお伝えします。
胸郭出口症候群とは
胸郭出口症候群とは、首から腕にかけて伸びる神経が、首や鎖骨、腕の付け根で締め付けられて発症する症状です。また胸郭出口症候群は、締め付けや圧迫が起きる部位に応じて次のように分類されます。
症候群名 | 障害される部位 |
---|---|
斜角筋症候群 | 前斜角筋と中斜角筋の間(首の側面) |
肋鎖症候群 | 鎖骨と第1肋骨の間にある肋鎖間隙(鎖骨の下) |
小胸筋症候群(過外転症候群) | 小胸筋の肩甲骨烏口突起停止部(胸の外側) |
障害を受ける部位が鎖骨の周辺に集中しているため、胸郭出口症候群になると、鎖骨の下に痛みを感じることがあります。
胸郭出口症候群になりやすい人や原因
胸郭出口症候群になりやすい人は、なで肩の女性や重いものを持ち運ぶ重労働者、胸筋の鍛錬に余念がないトレーニーなどです。
また、長時間のパソコン作業やスマホ操作で背中を丸めた猫背姿勢を継続させると、胸郭出口症候群を発症しやすいと考えられます。
つまり、首から腕にかけて伸びる神経の途上にある筋肉の緊張が、胸郭出口症候群の原因となり得るのです。重労働者は、肩に重量物を担ぐ習慣があると、胸の周辺にある緊張した筋肉が神経を締め付け、胸郭出口症候群を発症すると言われています。そのため、胸郭出口症候群のことを別名で「バックパック症候群」もしくは「リュックサック症候群」と呼ぶことがあります。
胸郭出口症候群の症状
胸郭出口症候群の症状は次のとおりです。
- 腕や指先のしびれ
- 肩甲骨周辺の痛み
- 鎖骨周辺の痛み
- 手の握力の低下
- 手の筋肉が萎縮して、手の甲の骨が浮き出る
- 虚血により腕が蒼白になる
胸郭出口症候群を放っておくと、筋肉委縮により、日常生活に支障をきたすこともあります。そのため、医療機関にて処置を受けたり、原因となる習慣を止めたりすることが大切です。
何科を受診?
胸郭出口症候群が疑われる場合は、整形外科にてレントゲン検査や徒手テスト、MRI検査を受けて判断を仰ぐとよいでしょう。
息を吸うと鎖骨の下が痛い場合は「気胸」の可能性
息を吸った際に鎖骨の下が痛いのは、空気を取り込む際に肺が拡張することで、痛みを感じている可能性があります。肺が拡張するときの痛みは、気胸が原因なのかもしれません。ここでは気胸の病態や原因、症状、受診科目についてお伝えします。
気胸とは
気胸とは、肺に穴があいて胸腔へと空気が漏れ出す症状です。胸腔とは、肺を覆う臓側胸膜と肋骨を覆う壁側胸膜の間に存在する空間のこと。正常であれば、胸腔は陰圧に保たれ隙間がありません。
しかし、肺に穴が空くと胸腔内の陰圧が陽圧に変わり、隙間ができて肺がしぼむのです。しぼんだ肺は自力では膨らむことができずに、空気を取り込めなくなり、呼吸をしづらくなります。
酸素を取り込めないと酸欠になり、死に至ることもあるため注意が必要です。
気胸になりやすい人や原因
気胸になりやすい人は、次のとおりです。
- やせ形の男性
- 長期の喫煙歴があり、肺気腫を患っている人
- 肺疾患の既往があり、肺に弱い部分がある人
やせ形男性の場合は特別な原因はなく、突然肺が破れて気胸になります。原因不明の気胸は「自然気胸」と呼ばれます。
一方で、肺気腫やその他の肺疾患で気胸になる場合は、肺の弱くなった部分が破れて気胸になるのです。気胸の発症に何らかの要因が絡むことから「続発性気胸」と呼ばれます。
その他にも、ストレスとの関係を指摘されることも。ストレスで起こる気胸は、免疫の低下による炎症で、肺が破れやすくなったことが原因と言われています。
気胸の症状
気胸は鎖骨の下に出る痛みが特徴で、その他にも次のような症状を伴います。
- 息苦しさ
- 息の吸いにくさ
- 呼吸困難
呼吸に関連した症状が現れ、呼吸困難が重篤化するとチアノーゼやショックなどの症状に見舞われるのです。
適切な処置が行われると予後は良好ですが、緊急を要する場合に適切に対応しなければ、死に至ることもあります。
何科を受診?
気胸が疑われる場合は、内科や呼吸器内科、呼吸器外科でレントゲン検査やCT検査を受けるとよいでしょう。重篤化を防ぐためにも、早めに医療機関を受診してください。
リンパが腫れて鎖骨の周辺が痛くなる
鎖骨の下が痛くなるのは、リンパの腫れが原因の場合もあります。リンパに炎症が起きると、しこりができて鎖骨の周辺に痛みを伴う場合があります。
鎖骨の周辺にできた腫れが悪化する場合は、ウイルスや細菌などの感染症、悪性リンパ腫の可能性があるため、すぐに病院を受診するようにしましょう。
肩こりによる筋肉の痛みで鎖骨の下が痛い場合
鎖骨の下が痛い場合は、胸郭出口症候群や気胸、感染症、疾患の疑いがあるため、まずは医療機関を受診しましょう。
医療機関を受診した結果、原因が分からなかったり、肩こりが原因だと医師に言われたりすることもあります。その場合は、猫背や巻き肩が鎖骨下の痛みの原因である可能性があります。ここでは、猫背や巻き肩について解説するので、参考にしてください。
猫背や巻き肩で鎖骨の動きが悪いことが原因
猫背や巻き肩で鎖骨の動きが悪いと、鎖骨周辺が痛くなることがあります。猫背や巻き肩は、大胸筋や小胸筋といった胸の筋肉が緊張して、肩が前方へと引っ張られた状態です。
鎖骨周辺の筋肉が固まってコリができている可能性があり、それが痛みを発している可能性があります。
また、背中側の筋肉が弱くなり正しい姿勢を保てないのも猫背の一因。運動不足の生活習慣により、肩回りの筋肉や関節が固まって、鎖骨周辺の動きも悪くなっています。血行が悪化したため、鎖骨周辺の筋肉に痛みを感じるのです。
猫背や巻き型への対策
ここでは、猫背や巻き肩の対策について次の方法をご紹介します。
- 背中の筋肉を鍛える
- 姿勢を正す
- 日常的に運動を行う
まだ実践していない方法があれば、ぜひお試しください。
背中の筋肉を鍛える
背中の筋肉を鍛えると、肩甲骨を正常な位置にキープしやすくなり、デスクワーク中も正しい姿勢を維持しやすくなります。
背中の筋肉を鍛えたい場合は、懸垂がおすすめです。それが難しい場合は、懸垂バーの替わりにタオルを両手で持って、肘の曲げ伸ばしをして腕を上下に動かすトレーニング法もあります。
姿勢を正す
猫背を予防するには、常に正しい姿勢を意識することも大切です。とくに、デスクワークが長時間に及ぶと疲れが出るため、猫背になりがち。
姿勢が崩れる場合は適度に休憩を挟んで、可能な限り胸を張った正しい姿勢で椅子に座るようにしましょう。
日常的に運動を行う 日常的に運動を行うと、肩回りの血行を促進できるため、鎖骨回りにある筋肉の血液循環を促せます。血行の改善により鎖骨周辺の筋肉の血流も正常に保たれるため、痛みを予防できるでしょう。
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、身体全体の血行を促進できます。また、運動時の腕振りで肩回りの筋肉を程よく刺激すると、鎖骨周辺の筋肉の血流改善に役立ちます。有酸素運動を中心に、日ごろから運動習慣を取り入れてはいかがでしょうか。
息を吸うと鎖骨の下が痛い場合はまずは病院を受診しよう
鎖骨の下が痛い場合は、胸郭出口症候群や気胸の可能性があるため、まずは病院の受診をおすすめします。とくに、気胸は緊急を要する場合があります。そのため、息を吸うと鎖骨の下が痛む場合は、すぐに病院を受診するようにしましょう。
受診をしても、痛みの原因が判明しない場合や、肩こりが痛みの原因である場合は、猫背や巻き肩の改善により、痛みを軽減できる可能性があります。
今回紹介した方法を参考にして、猫背や巻き肩を改善してみてください。

リウマチ、整形外科
資格
日本整形外科学会専門医
日本リウマチ学会専門医
日本リウマチ学会指導医
日本アフェレシス学会専門医
略歴
広島大学医学部卒業
●イシャチョククリニックページ
●東京リウマチクリニック