抜歯
(画像=PIXTA)

虫歯の治療は、進行の程度や担当医の治療方針によって大きく異なってきます。虫歯治療の際、歯を「抜く」のか「抜かない」のか……その驚きの判断基準について、吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニックの吉田格代表が解説します。

目次

  1. 虫歯も歯周病も細菌感染
  2. 使える歯はどこまで残ってる?
  3. 顕微鏡の実用化で歯を残す技術は格段に進歩した
  4. まだまだある!歯を保存する方法
  5. どうしても抜歯しなくてはならない歯もある
  6. 「無理な歯の保存」も増えてきた
  7. 親知らずはあとで使えるかもしれない
  8. 歯を抜くのか抜かないのかは歯科医の引き出しの多さで決まる

虫歯も歯周病も細菌感染

歯の自覚症状のない異常、すなわち慢性の感染とはそんなにあるものなのでしょうか? 実は、これが結構あるのです。

歯科で扱う大きな疾患の代表は虫歯と歯周病の2つで、どちらも簡単にいえば細菌感染です。

細菌の影響で歯本体が破壊されるのが虫歯で、歯を支える骨が破壊されるのが歯周病です。建物にたとえれば、壁に穴が開くのが虫歯で、地盤が緩んで建物が傾くのが歯周病です。

本記事では主に虫歯が原因で感染が拡大しすぎた場合についてお話しします。

使える歯はどこまで残ってる?

痛みの出どころが歯のなかの神経であれば、とりあえずその神経をとれば痛みは引いていきます。

この場合は歯本体がまだたくさん残っていることが多いので、それを土台に人工物を乗せて復元します。これを補綴(ほてつ)といい、歯科の仕事の大きな部分を占めます。

問題なのは残った歯の量が少なすぎる場合、そして感染源が歯のなかにとどまらず周りにまで進行し、治療しても感染がとりきれない場合です。

どちらも歯の神経はすでになく、以前何らかの治療介入がされていた場合がほとんど。ですからまず、歯のなかの感染をできるだけ除去する根管治療(歯内治療)から始める必要があります。

根管治療は非常に問題が起きやすく、感染がない使える歯にするのが難しい治療です。

もう一方、残った歯の量が少なすぎる場合ですが、虫歯の部分はもう“歯”ではありませんので、過不足なく削りとる必要があります。

その結果、まだ十分な量の歯が残っていて、さらに根管治療で感染源をとりきることができれば補綴することができます。

ところがその補綴に要求される精度はかなり厳密なもので、精度の悪い補綴は早期に再感染したり脱落したりしてしまいます。

多くは神経をとった歯ですから、虫歯が拡がっても痛みがでません。ボロボロになった挙句、人工物がポロッととれたり、別な理由で痛みがでたりしてやっと本人が気づくのです。

ということで歯を抜くのか、抜かないのかの判断は、感染源を除去しきれるか、そしてそのあとにどれだけ健全で使える歯がいい位置に残っているかで決まります。

ところがこの抜くのか抜かないのかの線引きは、歯科医院によってかなり違うのです。同じ歯を見て抜歯という先生もいれば、使えるという先生もいます。いったいなぜでしょうか?

顕微鏡の実用化で歯を残す技術は格段に進歩した

実はその背景には、歯科でも顕微鏡が実用化してきたことと、自由診療の普及があげられます。

顕微鏡

1997年ごろ、歯科界に顕微鏡が出現し、歯科治療は大きな変革期を迎えました。口のなかは見えるようで見えないところが多いのですが、そこを明るく拡大し、見て確認しながら治療できるようになったのです。

つまり顕微鏡を適切に用いることで、以前なら抜歯の対象になっていた歯のうちの一部を、保存できるようになったのです。さらに、治療を録画し、患者さんに説明できるようにもなりました。

たとえば上の動画のように歯の頭がなくなり健全な歯が歯肉のなかに埋もれてしまった場合、抜歯を勧められることが多いです。しかし顕微鏡をよく見ながらの治療なら感染源が過不足なく除去でき、なおかつかなりの精度で補綴することができるようになります。

また根管治療は、顕微鏡をもちいることで、訓練すれば誰でにも良好な結果をだせるようになったのです。

しかし、顕微鏡は設備投資額が大きいことに加えて、顕微鏡を使う治療は正確さを求めるために時間がかかります。さらに、スタッフも含めて練習が必要で導入ハードルが高いため、まじめにやると健康保険では大きな赤字になります。

現在、根管治療を自由診療でおこなう歯科医院が増えているのはそのためで、同じく自由診療であるインプラントを考える前にぜひ検討していただきたい方法です。

また、進行しすぎた感染は根管治療をおこなっても除去しきれないことがあるのですが、歯根尖切除(しこんせんせつじょ)といって感染源が集中している歯の根っこの先端を手術でカットし、歯をそのまま使っていこうという方法があります。

かつて、この手術は成功率が芳しくなかったので、積極的にはおこなわれてきませんでした。しかし顕微鏡を用いることで成績が格段に向上し、再び注目されるようになりました。

まだまだある!歯を保存する方法

顕微鏡がなくても、ちょっと工夫すると歯を残せる方法があります。それが矯正的挺出(きょうせいてきていしゅつ)です。

矯正的挺出

上の写真のように歯にゴムやスプリングをかけて、残ったわずかな歯の根っこを使える位置にまで引っ張りあげる方法です。

それから、場所が難しくて歯根尖切除ができない場合は抜歯になりますが、そのまま捨ててしまうのではなく、抜歯した歯を目で見て感染源を除去し、また元に戻す再植(さいしょく)という最後の切り札があります。

本当に抜歯しますので、そのときの力で歯が損傷したらもう使えません。最終手段の条件付きの施術となりますが、うまくいくと劇的な改善を見込めます。

一度歯を抜いて綺麗にしてまた元に戻す再植術(https://y-dc.org/minimal-intervention/tooth_replantation.html

どうしても抜歯しなくてはならない歯もある

これほど技術が進んだ現在でも、残念ながら歯を保存できない場合があります。

よくあるのが、神経をとった歯が一刀両断に真っ二つになること。これを歯根破折(しこんはせつ)というのですが、こうなると細菌がヒビに入り込み、抜歯しない限り除去できません。

ここで躊躇していると感染で骨がどんどんなくなっていき、のちに入れる義歯(入れ歯)が不安定になりやすかったり、インプラントにすることが難しくなったりします。ですから歯根破折が見つかったら、痛みがなくても行動を急がなくてはなりません。

かなり特殊な方法ですが、割れた歯を接着剤で固定するという方法があります。しかし結局感染が除去しきれない、物を嚙む(荷重をかける)と早晩また割れるなど信頼性が乏しいので、個人的にはおすすめしていません。

歯を抜く抜かないの選択肢はここには書ききれませんので、以下をご参照いたければ幸いです。

セカンドオピニオンもう一つの意見を聞いてみよう(https://www.y-dc.org/wp/information/second_opinio

「無理な歯の保存」も増えてきた

顕微鏡が普及してきたのはいいのですが、それを過信した無理な保存でトラブルになるケースも目立ってきました。感染源が慢性の状態で残っているのに、補綴まで完了させているのです。

抜歯したくないという患者さんの気持ちを優先した結果とは思いますが、患者さんの我儘を聞くのではなく、患者さんの命や将来の利益を優先に考えるべきで賛成できません。

もちろんすぐ抜歯を勧めるのは問題ですが、逆にどんな歯でも保存できるようにいっているところがあれば気をつけなくてはなりません。

CTと顕微鏡がある時代ですから、セカンドオピニオンを求めて数件の歯科医院へ意見を聞きにいくのがよいでしょう。

親知らずはあとで使えるかもしれない

親知らずは奥の狭いところに無理やりはえてくることが多く、磨けない部分があると手前の歯を障害するので、抜歯の対象になりやすい歯です。

ただし歯の神経(歯髄)には幹細胞が豊富にあるので、専門施設で凍結保存しておけば、将来自分が大きな事故や病気になった時に利用できるようになっているかもしれません。

もちろんこの先再生医療がどう進歩するかはわかりませんが、抜いて捨ててしまう前に考えてもいいオプションです。

また親知らずは、歯の移植の供給元になれるかもしれませんので、多少無理をしてでも残しておく場合もあります。

歯を抜くのか抜かないのかは歯科医の引き出しの多さで決まる

結局歯を抜くのか抜かないのかの線引きは、担当の先生の引き出しの多さと治療方針に大きく左右されます。

よくある話が、抜歯してインプラントを勧められたが、他の歯科医院での顕微鏡を用いた治療で問題なく保存できた、というもの。

根管治療など歯の保存メニューが健康保険だけの場合は、選択肢が少ないということですから、抜歯になるケースが増えざるをえません。自由診療で根管治療をやっている歯科医院で、改めて診断してもらうことをおすすめします。

また、もし抜歯しインプラントを勧めてきた歯科医院がインプラントをやってきた本数実績などを高らかに掲げているなら、同様にインプラントにならずに救った歯の本数や、他の先生に紹介した数を聞いてみたらいかがでしょう。

いまの歯科治療には多くの選択肢があります。健康保険に拘らずに中立的な立場から治療方法を見渡せば、安全に歯を残す方法が見出せるかもしれません。

少しでも長く歯を保つためにも、複数の歯科医院を受診して、安全に多くの歯を残す努力を欠かさないことが大切です。

吉田格
吉田 格(よしだ・いたる)
幅広い知識・技術を中立的な立場から提供する、歯科自由診療専門医。
レーザー・顕微鏡・栄養療法を歯科医療に取り入れ、健康保険だけでは解決困難な治療を手がける。

1985年 日本歯科大学新潟歯学部卒
1997年 吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニック開設(東京都中央区)

【所属】
日本レーザー歯学会 (認定医 理事)
日本顕微鏡歯科学会 (認定指導医 理事)
日本抗加齢医学会(指導医)
臨床分子栄養医学研究会(認定指導医)


【著書】 インプラントのすべてがわかる本(保健同人社)

吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニックHP
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