境界知能
(画像はイメージです/PIXTA)

知的障害にはあたらず、支援も受けられないが、生きづらさを抱えている…。自身が「境界知能」であることを、大人になってから知る方も多いと言います。あまり知られていない「境界知能」について、精神科医の岡田夕子氏が解説していきます。

目次

  1. 小学校のテスト、あなたは何点ぐらいとれていましたか?
    1. どんなにがんばっても「30点〜40点から上がらない」人たちがいます
  2. 知能指数(IQ)とはなにか
    1. IQ70以下は知的障害とされる可能性あり
    2. 知的障害にも入らず、平均点もとれず、自尊心だけ傷つけられていく「境界知能」
  3. 「境界知能」における3つの問題点
    1. ①療育手帳をもらえず、支援の対象となりにくい
    2. ②「普通の人」の中で「普通の人」として働くことで不適応を起こす
    3. ③自分に自信が持てなくなる
  4. 社会で広く「認識されること」が重要課題

小学校のテスト、あなたは何点ぐらいとれていましたか?

みなさんは小学校のフルカラーのテストのことを覚えていますか? 自分が何点ぐらいとっていたか、覚えているでしょうか。

「どんなに悪かったとしても、70点は常にあったよね」という方が読者の方の大半を占めるのではないでしょうか。中には「ほぼ100点ばかりだった」なんて方もいるかもしれません。

小学校のテストは、そういった楽しい思い出と共にある方が多いのではないかと思います。

どんなにがんばっても「30点〜40点から上がらない」人たちがいます

しかし、このフルカラーのテストをどんなに一生懸命解いても30点、40点しかとれない子どもも存在します。

満点に近い点数ばかりとれていた方からすると、「あのテストでそんな点数はとれっこない!」と思うかもしれません。

でも、みなさんのクラスの中にも何人かは存在していたはずで、統計的な数値で見れば、35人クラスの下位5人に該当します。

彼らは手を抜いているから低い点数になっているわけではありません。一生懸命に宿題をやって、きちんとテストを受けているのですが、周囲からやる気がないとみなされて悲しくなってしまうこともあるようです。

知能指数(IQ)とはなにか

IQ70以下は知的障害とされる可能性あり

まずは知能指数(IQ)について説明しておきましょう。

「彼はIQ160でMENSAの会員だ」といった言葉を、テレビなどで聞いたことがあるかもしれません。でもIQの平均値って、いくつかご存知でしょうか?

IQは100を中心に正規分布を示します。IQ85–115の間に約68%の人が収まり、IQ70–130の間に約95%の人が収まります。ですから、160というのは95%から外れた異常値になります。ただ、高い方の異常値は基本的に困ることはないですよね。

では、70以下の人はどういう扱いになっているでしょうか。

こちらは「知的障害」と呼ばれる方たちになります。数値によって「最重度・重度・中等度・軽度」と分かれ、療育手帳という手帳をもらい、支援学級や支援学校などを利用することができます。

支援学校では就労支援や障害者雇用、就労のための実習など、手厚い支援を受けられます。

知的障害にも入らず、平均点もとれず、自尊心だけ傷つけられていく「境界知能」

今日、問題にしたい境界知能の人とは、IQ70〜85程度にあたる、異常値ではないけれども数値的には全体的に低い人たちのことです。

彼らは、知的障害にはあたらないので普通学級で過ごします。みんなが80点、90点を当たり前のようにとっていくテストで30点、40点をとり、どれだけ努力してもその差は埋まることはありません。

しかし境界知能についての理解が一般的に浸透していないこともあり、「勉強ができないやつ」といった烙印を押されてしまいます。

普通学級で小さくなって過ごすことになるかもしれませんし、いじめの対象になってしまうこともあります。

境界知能の方たちにとって、支援なしに小学校の授業を理解するのは難しいことです。テストの点数が悪いことに自尊心を傷つけられていきます。

「境界知能」における3つの問題点

ここでの問題点は3つに集約されます。

①療育手帳をもらえず、支援の対象となりにくい

最近は境界知能の子でも支援学級を使える場合がありますし、発達障害や二次障害などが重なっていくと、いずれ「精神障害者手帳」を取得することはできるかもしれません。

しかし療育手帳がないと、高等支援学校の入学資格は得られません。専修学校などの選択肢もありますが、就職において一番サポートが手厚いのは高等支援学校です。

生きづらさを感じていても支援が受けられず、社会的に孤立してしまうことがあります。

②「普通の人」の中で「普通の人」として働くことで不適応を起こす

小学校において、成績が下位15%にあたった境界知能の人たちが一般就労をすると、どうなるでしょうか。

他の人と同じ結果、同じ能率を求められたらなかなか難しいと、想像がつくのではないでしょうか。仕事でつらい思いをしたり、叱責を受けたりして精神を病んでしまう方も多くいます。

③自分に自信が持てなくなる

彼らは常に成績下位15%として過ごしてきました。どうがんばっても下剋上することはできない…と感じてきたことで、「自分はできないのだ」「がんばっているのに」といった思いを必要以上に抱いてしまいます。自尊心を持てないと、人生を明るく楽しく過ごすことが難しくなります。

社会で広く「認識されること」が重要課題

「境界知能」の方たちはIQの数値と制度の狭間で、障害者就労をすることにはならないうえに、自尊心を育みにくい環境にいます。でも、どんな人にも輝ける場所はあります。

輝ける場所を見つけられる、あるいは作ることのできる社会となれたら最良ですが、まずは境界知能という言葉を知り、理解していただけたらと思います。

また、勉強や仕事が思う通りにできず、「なぜうまくいかないのだろう…」と悩んできた人は、境界知能と名前がつくことで安堵することもあります。

早期発見のためにもやはり、社会で広く認識されていく必要があるのです。

岡田夕子先生
岡田 夕子(おかだ・ゆうこ)
ひだまりこころクリニック 名駅エスカ院/五十嵐こころのクリニック 精神科医

精神保健指定医・日本精神神経学会専門医・指導医。
滋賀医科大学卒業後、小児科医・産業医として働いたのち精神科医になる。単科精神科病院での勤務を経て、現在は名古屋市のひだまりこころクリニックで一般精神科外来を行いながら、京都府京田辺市の五十嵐こころクリニックにて児童精神科医として10代の診療にあたっている。Web上ではみずき@精神科医の名前でTwitter、YouTubeを中心に発信・啓蒙活動を行なっている。