早産に“未知の危険因子”?――reverse analysisを用いた検証

はじめに

 今回は、「初回妊娠時における産科合併症」と「次回妊娠時の早産」の関連を、出生コホートを用いて検討した論文1)から、著者らがreverse analysisとして行った解析手法を解説します。

早産とその発症危険因子

 妊娠37週未満での出産である早産は新生児死亡の最大の要因であり、各国で大きな課題となっています。早産の最大のリスク因子は、「早産の既往」です。

 一度早産が起こると繰り返しやすいという早産の特徴は、母体または胎盤などの妊娠環境に潜在的な発症因子の存在があることを示唆しています。

潜在的な未知の交絡因子について

 早産のなかでも妊娠34週未満の出産には、胎盤機能不全に関わる妊娠高血圧腎症、胎盤早期剥離、胎児発育不全、子宮内胎児死亡などの合併症の発症が大きな影響を及ぼします。これらの疾患の発症により、何らかの潜在的な早産危険因子(=未知の交絡因子)が、胎盤機能不全を介して早産を引き起こす可能性が考えられます。

 つまり、早産と胎盤機能不全に関わる産科合併症には、ともに未知の交絡因子が影響するという仮説が立てられます。

論文の概要

ノルウェーの大規模出生コホートデータベースを解析

 論文では、ノルウェーの一般住民を対象としたMedical Birth Registry(1967年から収集されている妊娠16週以降の全分娩データ)が用いられています。データベースには、患者基本情報(年齢やBMIなど)、病歴および妊娠出産歴、生活習慣(喫煙歴など)、妊娠前および分娩前の情報、妊娠中および分娩中の合併症、胎児および出生児の転帰が含まれます。

研究対象者と調査期間、主要アウトカム

 対象者は1999~2015年の間に単胎児を2回出産した女性30万2192例として、初回正期産分娩の女性(28万4225例)を主解析としました。

 主要アウトカムは2回目の分娩での早産(妊娠週数20~36週で分娩した出生児または死産児)としました。

 このほか、「胎盤機能不全に関連する産科合併症」として妊娠高血圧腎症、胎盤早期剥離、死産、新生児死亡(産後28日以内)、標準身長・体重より小さい出生児を含めました。

主解析の統計手法

 log binomial 回帰分析を用いて背景因子を調整した上で、初回妊娠時の胎盤機能不全に関連する産科合併症と2回目の妊娠時の早産との関連について、相対リスクを算出しました。

reverse analysis:注目する危険因子と主要アウトカムの交換

 研究の背景には、胎盤機能不全に関する産科合併症と早産は同じ危険因子が引き起こす、との生物学的仮説がありました。この仮説を検証するため、著者らは主解析で注目した「危険因子(=産科合併症)」と「アウトカム(=早産)」を逆転させ、最初の妊娠での早産を危険因子として、2回目の妊娠時の産科合併症発症との関連を評価しました。結果として両者に双方向性の関連が認められると「共通した潜在危険因子」が示唆されることになります。

結果:産科合併症と早産に双方向性の有意な関連あり

 1回目の妊娠時に認められた5つの産科合併症は、2回目の妊娠時の早産増加との有意な関連が認められました(本論文のTable 2、Fig 2を参照)。

 そして、reverse analysisでは、5疾患中3疾患で統計学的に有意性が認められ、1回目の妊娠で早産となった女性は、2回目の妊娠時に産科合併症を発症する確率が高くなりました。

私の視点

周産期コホートデータベースの理想的な一つの形

 この研究で用いられたノルウェーの出生コホートデータベース2)は、産科・新生児領域の研究の上で非常に質の高いデータベースです。ノルウェーの出生数は年間6万人程度ですが、全分娩を対象とした悉皆的なデータベースを数十年間にわたり構築していることは特筆すべき点です。さらに患者基本情報、病歴および妊娠出産歴、生活習慣、妊娠・分娩前の情報、妊娠・分娩中の合併症、胎児・出生児の転帰が記録されているため、研究には最大限の活用可能なデータベースです。また、母体に振られたIDによって国の統計データとも連結が可能で、教育歴や経済状況などの社会経済的地位も調整変数に含められることは大きな利点です。周産期研究の従事者として、理想的なデータベースだと考えています。

 残念ながら、日本では現時点で出生に関する悉皆コホートは存在せず、母体と新生児の詳細情報が連結されたデータベースもないため、このような臨床研究を行うことは非常に難しいです。

明確な時間的前後関係を上手に活用したreverse analysisと未知の交絡因子

 この論文を通じ紹介したいトピックは、reverse analysisです。著者らは、生物学的側面から練られた研究デザインを基に、「確実に時間的前後関係が把握できる妊娠・出産」というイベントを用いて、「早産と胎盤機能不全に関連する産科合併症に共通して影響を及ぼす潜在的危険因子」の存在を突き止めました。この「潜在的危険因子」は、これまで得られなかった「未知の交絡因子」の可能性もあり、大規模データベースやリアルワールドデータを活用した今後の臨床疫学研究に大きな影響を与える可能性があります。

 臨床研究では2つの因子間の関連性の検証はよく行われますが、2つの因子間の双方向性の関連の検証は容易ではありません。なぜなら、これには「両者に共通する潜在的な危険因子の存在」を仮説として、「時間的な前後関係を明確に把握できる別個のイベント(今回の論文では妊娠・出産)」をデータから得る必要があるためです。

 妊娠・出産のイベントは、上記のような特徴をもつ好例です。PubMedで「reverse analysis」を検索すると、直近10年間でわずか15文献しかヒットしませんが、臨床研究はさらにその中の約半数です。その他のreverse analysisの例には、親族間の早期胃がん発症リスク3)、うつ病と筋力低下との関連4)、親族間の多発性硬化症と筋萎縮性側索硬化症との関連5)、トリグリセライドの遺伝的リスク6)などの報告があります。

 このように、いくつかの条件を満たす研究テーマとデータソースが得られれば、reverse analysisとして2つの因子の双方向性の関連の検証が可能です。このような手法の臨床研究が、新たな基礎研究のアイデアにつながり、未知の交絡因子の存在、例えば遺伝子異常などの一部を解明する手がかりとなるかもしれません。