オンライン診療の先進国 中国の事情を覗いてみた

中国でのオンライン診療における取り組みは、新型コロナウイルスが蔓延する前より行われてきました。
当然日本よりも早く、多くの制度が整備・着手されています。
そんな中国のオンライン診療と関連事情を改めて覗いてみました。
目次
1.そもそも中国の医療事情は
2.中国のオンライン診療事情とその取組
3.日本より全然進んでいる中国のオンライン医療サービス
4.オンライン診療が広がらない日本
1.そもそも中国の医療事情は

日本人には馴染みのない中国の医療事情について、簡単にまとめてみました。
●病院階級制
中国の病院は、機能、役割、インフラ整備などにより三等級に分類されます。
医療水準は三級病院が最も高く、一級病院が最も低くなります。つまり各等級で3つに分類されているのです。
三級の病院は、各省の中心地やそこそこの大都市、そして沿岸部の大都市に集中しています。
中国に駐在していた日本人から、「人民病院」と言われている病院がこれです。地域間によって格差は大きいようですが、基本的には全て総合病院です。
三級の大病院は設備や医師の人数、病床の数が充実しているのですが、中国の病院全体の8%くらいしかないのですが、診療件数は全国の50%以上を占めています。
中国には、日本で言うところの「町医者」と呼ばれる民間病院や診療所が殆どありません。大規模な総合病院が中心となるため、気軽に診察してもらうのは大変です。総合病院はどこも患者数が多く、診察を受けるまで相当時間が掛かります(地域によりますが、診療所には民間もあります)。
●料金前払い
そして、日本との大きな違いがあります。それは料金先払い制なのです。
病院に行くと、先ず外来受付で受付を済ませ、その時に門診料を支払います。日本で言う初診料のようなものですが、数十元程度です(100元は約1700円位)。
その後病状に合わせて受診科を指定されて、診察を受けます。受診後は会計で診察料を支払い、薬局で薬をもらいます。
因みに救急車も有料です。救急車が病院に到着すると、救急車の運転手から料金を請求されます(それなりに高いらしいです)。
現在の中国の裕福な状況を見ていると、およそ社会主義国家とは思えませんが、国が違えば、医療システムも違うものなのです。
●中国の医療保険

日本には、世界に冠たる医療制度があります。みんなに健康保険があります。
中国には保険制度はありますが、地域によって異なり、どの病院でも適用できるわけではありません。
居住地や身分制度などによっても違います。さらに料金も一律ではありません。当然ですが、日本の健康保険証は使えません。
●中国のお医者さんの報酬は低い?
因みに中国の医師の平均年収は、地域にもよりますが、日本の医師の大体10分の1くらいです。
中国では医師の兼業が、2015年ごろから解禁されたことにより、医師の副業も少しずつ広がっているようです。この副業がオンライン診療の拡大要因の1つでもあります。
日本と比べて、少し息苦しく見える中国の医療事情ですが、これが中国のオンライン診療を加速・発展させる要因ともなっています。そこに新型コロナウイルスの拡大が大きく影響することになるのです。
更に社会主義体制ですから、突発的発令によって、コロコロと変わりますので、ここに記したことも、明日には変わっており、地域による違いも大きなものがあります。
2.中国のオンライン診療事情と取組み

●やっぱり五か年計画
中国は五カ年計画で、モバイル、クラウド、ビッグデータ、IoTなどの新しいインターネット技術と既存の産業を結合させる国家戦略により、金融、物流、医療などの再構築が進められました。
それにより、「インターネット×医療」も推進されます。5G通信システムに大きく投資したこともオンライン診療の拡大に影響します。
●医療への不満
中国の医療体制について、地域間の医療格差による不満は、今日に始まったことではありません。
中国では新型コロナウイルスの感染拡大以前から、オンライン診療やオンラインでの処方薬販売がスタートしていました。
国土が広く十分な医療を受けられない地域も少なくない中国では、オンライン診療に対する期待が大きく、政府も2019年に処方薬の販売を解禁するなど、普及を後押ししてきました。
●オンライン診療は新型コロナウイルスで大きく発展
中国ではオンライン化の発展により、中国国内の患者さんが、従来の診療方法から変わってゆくことを想定して、医療関連事業を新たに展開してゆくことになります。
そこに新型コロナウイルスの感染拡大が発生したのです。これを機にオンライン診療を開始する病院や医療アプリが増加し、一般市民へのオンライン診療が一気に拡大します。
患者の急増に医療体制や整備が追いつかなくなると、当然医療崩壊が懸念されます。そうなると、オンライン診療のプロバイダー各社が急速に動き出しました。新型コロナウイルスの感染拡大が、診療のオンライン化の発展要因となってしまったわけです。
●あの流行地武漢を救ったオンライン診療

新型コロナウイルスの大流行地となった湖北省の武漢市では、患者が病院に殺到し、供給体制が追いつかず、医療現場は大混乱しました。この混乱は死亡者増加の原因になったと言われています。
中国政府は、武漢の医療機関の負担を軽減するため、中国医師協会にオンライン診療による後方支援を指示しました。
オンライン診療の普及に向けた土壌が整いつつあった中国では、既に完成されていたネットサービスに、各地方政府や病院がネットサービスを導入することになり、医療のオンライン化を急速に進みます。
そうすることで、自宅からオンラインで病院と相談できる仕組みを整備し、外出による感染リスクの軽減を目指したのです。
●全土で進展するオンライン診療
上海市では、2020年に市内の大規模総合病院(公立病院)が運営主体となってオンライン化し、「インターネット病院」が登場しました。
オンライン診療も様々で、各科ごとにチャットルームが用意され、テキストと画像・電話・ビデオチャットでやりとりできるようになっています。
診療科によってオンラインに対応する医者一覧が表示され、医者と相談方法と予約時間も選べます。
上海インターネット病院の先駆けとなった中山病院
※「中山」とは中国では孫文を意味することが多いです。
●無人薬局の登場
処方薬の発送・到着の遅れの問題も、最近では当日配達や保険の適用なども徐々に改善され、日々進歩を続けています。
また、無人薬局、薬の自動販売機、タブレット端末によるリモートでの薬のアドバイスなど、「未来薬店」と称する店も出現しています。
このように中国では、「オンライン診療+処方薬の配送のサービス」など、各地方の状況にアレンジされて、現在も進展しつつある状況です。
薬の自動販売機(広東省)
●広い中国で今後も進展するオンラインサービス
各地の公立病院でも、インターネット医療サービスを次々に開始しました。今やインターネットサービスをしていない公立病院は無いとまで言われています。それに伴って、関連費用が医療保険の適用対象に徐々に組み込まれている状況です。
最近では様々なところで改善が行われていますが、とにかく国土が広いので、特に僻地(へきち)と言われている場所が国中にありますから、リモート診療を受けられる環境整備が日々進化している状況です。
中国のオンライン診療は、今後も中国全土で普及してゆくことは間違いなく、それと共にサービスの利用に対する保険の適応ルールや取扱も改善されてゆくと思われます。
●コロナショックで追い詰められた結果
中国のオンライン診療が拡大した背景とその要因は、やはり新型コロナウイルスが大きく影響していることは疑いの無いことです。
コロナ禍で日本以上に一般市民の移動・外出が厳しく制限され、経済活動だけでなく、あらゆる局面でリモート化が推奨され、当然の如く、病院での院内感染のリスク回避は進められました。
それは、病院利用者の「対面診療」が当たり前であった意識を、根本的に変えて行く必要性に迫られた結果なのではないでしょうか。
3.日本より全然進んでいる中国のオンライン医療サービス

中国でのオンライン診療を売りにするサービスは、コロナを期に突如として出現したわけではありません。オンライン診療市場拡大の土台づくりが、2015年前頃から着々と進んでいたのです。
●オンラインサービスの普及をコロナが後押し
中国では、新型コロナウイルスの感染拡大以前から、オンラインでの診療や処方薬販売が始まっていましたが、新型コロナウイルス感染拡大により、地方政府や病院がネットサービスを導入することで、新たなオンライン医療アプリや病院が増え、様々なネットサービスが登場し、医療のオンライン化が急速に進みます。
その結果、一般市民の利用は一気に拡大しました。
自宅からオンラインで病院にオンラインで直接相談できたことで、外出の削減と感染拡大防止を実現します。
また医師の兼業が解禁されたことで、大手IT企業を中心に活発な投資が行われ、オンライン診療の市場規模は、約10倍(約1600億円以上)に成長したと言われています。
●BATによるサービスの向上
中国ではオンライン診療サービスを提供する企業の数は1000社以上とも言われています。
代表的なものとして、いわゆるBAT (百度:Baidu、アリババ:Alibaba、テンセント:Tencentの中国大手IT企業の総称)を中心とした中国を代表するIT企業が、オンラインサービスを拡大させる役割を担っています。
そして中国当局主導で、オンライン診療に対応できるだけのインフラ整備が行われたことで、Wechat(中国版LINE)、アリペイなどのサービスで一般消費者の生活に深いレベルで浸透してゆきました。
BATはあくまで「民営」企業です。そのため、サービスについては各社でバラツキがあり、予約待ち、地域のよる公的医療保険の適用、還付基準が定まらないなど、必ずしも安心して利用できる水準でなかったことが多々あったようです。
「着手は早いが、トラブルも多い」。中国では珍しくありません(誰かに怒られそう)。
●今後の中国オンライン診療市場の方向性は

現在、中国のネット大手であるBAT以外にも、大手保険会社なども参入して、それぞれ展開する大型プラットフォームを中心に類似のサービス、病院独自のオンラインツールも数千種類も存在しています
代表的なものには、アリババグループの「阿里雲医院」、JD.comの「京東健康」、テンセントグループの「好大夫在線」「微医」、大手民間保険平安グループの「平安好医生」などがあります。
今後もプラットフォーマー間での競争は激しくなることは間違いなく、大規模な淘汰と統合が起きるにことになると見られています。
●中国人の「生の声」
中国のオンライン事情について、いろいろと述べてきましたが、ここは一つ、直接「生の声」を聞いてみようということで、中国の知人数名に聞いてみました。皆、都市部と地方を良く知る方々ばかりで、社会人としても立派な方々です(中にはお金持ちもいます)。
以下、生の声を簡単にまとめてみました。
・国立、個人問わず、オンライン診療は行われているが、地域によって差がある。
・コロナの影響で、オンライン診療そのものは増加したが、大都市圏の人口の30~35%くらいではないか。
・利用者は50代以下のスマホ利用層で、高齢者は利用しない。やはり、若年層の利用者が中心である。
・診療する前のオンライン審査については、直接病院、診療所を訪問せずに受けられることはとても便利。
・大学病院やその他の大きな病院でオンライン診療の導入率は高いが、個人経営の病院では、まだ少ない。
・メディアで取り上げているほど、対応性は高くはない。24時間対応は意外と少ないようである。
(少しずつ改善されてはいるらしい)
・総合案内サイトと言えるようなものは、あまり役に立たず、個々でサイト対応している診療所が多い。
・料金は面診もオンラインも同じ。
・薬の送料はまだ有料が多い。
・他の端末での受診防止やその他違反防止のため、受診時に顔認証を行っているところが多い。
・初診のオンラインは許可されないところがまだまだ多い。
・本当に普及・利用率が高いのは、大都市圏だけではないか。
やはり、浸透していることは確かです。受診には、審査、口座の登録、顔認証は当たり前で、いろいろと防止対策も進んでいるようです。
都市部に住んでいる人達は、回数、頻度は別にして、殆どの人が、一回以上は利用したことがありました。
今や中国ではオンライン診療は当たり前。オンライン診療をしていなければ、総合病院(大病院)とは言えないとのことです。
中国では処方箋で購入した薬の配達代が地域によって異なりますが、大体20元(日本円で約340円)くらい掛かるそうです。その事について、中国人からは「高い!」という言葉が目立ちます(なぜかこの事に立腹している方が目立ちました。確か中国では、食事の配達は無料が当たり前だからなのでしょうか?)。
4.オンライン診療が広がらない日本

●一方日本は
さて日本では、2017年にオンライン診療はスタートしました。2020年の4月に「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」の中で、オンライン診療の活用促進の方針が閣議決定されました。
新型コロナウイルスの自宅療養者向けに、パソコン画面などを使うオンライン診療が日本では未だに広がらない状況です。
2021年8月19日の日本経済新聞に「オンライン初診ほぼゼロ」という記事がありました。日本経済新聞が情報公開請求で得たデータによると、2021年1~3月の初診からのオンライン診療の利用頻度は、35道府県で人口10万人あたり月1回未満とほぼゼロでした。
●なぜ日本で広がらないのか
これまで対面診療の必要性がオンライン診療の普及を妨げていました。それが規制緩和されたのですが、
日本医師会もいろいろと懸念して、オンライン診療の拡大には慎重な姿勢でした。
開業医などで構成する日本医師会は、誤診で訴えられる恐れや診療動画の流出などを警戒し、オンライン診療には消極的です。また医師からは「手間がかかる」といった声も聞かれます。
政府は、新型コロナの自宅療養者らに対して電話やオンラインで診療した場合の報酬を2倍超に引き上げ、医師に前向きな行動を促しますが、それでも医療機関の動きは鈍いように見えます。
●中国から学ぶことになるのか

中国では医療のオンライン化によって、慢性病患者を通院から在宅に変えることが出来ました。その結果、
医療スタッフのストレス軽減と、コロナウイルスの感染拡大防止にも多くの役割を果たしています。
中国のオンライン診療の拡大において、政府は裏方として医療のインフラ整備に徹し、医療保険や制度面での
監視・整備を担い、BATを始めとする有力企業に市場形成を任せています。
日本と中国では医療の仕組みが異なるため、一概に全てを導入することはできないですが、スタート後の柔軟な調整やスピード感のある政府の対応や関わり方は、参考にしても良いのではないでしょうか。
中国は現在の発展と社会環境の改善において、多くを日本から学び、取り入れてきました。かつて日本が欧米から学び、取り入れることで独自に発展してきた事と同じ過程を経て、現在の中国の発展があります。
●もっと日本も
アメリカや中国などの海外ではオンライン診療が急速に拡大しています。日本も政府や地域が一体となって促進する取り組みが不可欠です。
「日本には日本のやり方がある」と言われそうですか、日本の医療も長きに渡り、様々な対応によって医療環境が改善してきた実績があります。日本には素晴らしい医療体制があるのですから、オンライン診療の普及が、「まだ先のこと」にならないよう、国や医療関係者に期待したいものです。
【参考引用】
日本経済新聞
山谷剛史の中国デジタル事情コラム 「中国から学ぶITトレンド」
中国オンライン診療市場概況/呉勝龍
(c)CGTN Japanese/AFPBB News



