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【第10回】「待ち時間が短いクリニック」が使っている業務連絡の「神器」

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2021年12月16日

「日本一忙しい小児科医」と言われる筆者が1日に診る患者数は平均200人。一般の医師にとっては1日100人でも驚異的な数字です。なぜ、これだけの患者を診ることができるのか? それはムダを最大限カットするために様々な工夫を行っているからです。本稿ではその工夫の一例として、紙カルテとシールを使った、アナログながら超効率的な伝達術を見ていきましょう。

電子カルテ、紙カルテの「併用」で業務を効率化

ここ数年で、カルテの電子化が進みました。厚生労働省の「電子カルテシステム等の普及状況の推移」によれば、2008年における一般診療所の電子カルテシステム導入率は14.7%だったのに対し、2017年には41.6%に上昇しています(図表1)。

[図表1]電子カルテシステム等の普及状況の推移出典:厚生労働省「電子カルテシステム等の普及状況の推移」

しかし私は、今も紙のカルテを電子カルテと併用しています。そのほうが、スタッフとの伝達効率を高められるからです。

例えば、ある患者にインフルエンザの疑いありと判断した場合、私はカルテに「インフルエンザ」というシールを貼ります。

すると私の後ろに位置している看護師は、シールを見た瞬間、すぐにインフルエンザの検査キットを準備します。そして私が患者にインフルエンザの検査をすると伝えるときには、すでに検査が始められる状態になっています。

ものづくりの現場では、ムダを省いて業務効率をさらに高めるために「カイゼン活動」を行います。その一環で、前の工程が遅れてスタッフが手持ちぶさたな状態になる「手待ち」、作業と作業の間に空き時間ができる「手すき」、いったん進んだ工程を後戻りさせる「手戻り」、予定どおりの製品がつくれず修正する「手直し」といったムダを極限まで減らすための工夫をするのです。

こうした考え方を取り入れることは、医療現場にも必要だと私は考えています。旧来の手順に含まれていたムリ・ムダ・ムラを減らすことで、診察を効率化し、時間短縮につなげるのです。

古いやり方を無批判に受け入れず、より良い方法はないかと常に模索しましょう。そうして効率化が図れれば、クリニックの経営に寄与するだけでなく、スタッフのムダな動きが減って働きやすい職場がつくれたり、患者の待ち時間が減って満足度が高まったりするなどのプラスをもたらします。

電子カルテには、検索性の高さ、情報共有の容易さ、場所を取るカルテ棚が廃止できるなどたくさんのメリットがあります。一方、局面によっては、電子カルテより紙カルテのほうが優れていることも多いのです。

紙カルテとシールの活用で「ワクチン接種ミス」を阻止

それでは私の院の「紙カルテ+シールによるコミュニケーション術」について、具体的に説明していきます。

図表2は、事務スタッフの近くに用意されている「ワクチンシール」です。こちらは、事務スタッフから私と看護師に連絡をするために使っています。

[図表2]事務スタッフから看護師、医師(筆者)に伝達するためのワクチンシール(実物)「ヒブプレ(=ヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンの同時接種)」、「4種(=4種混合ワクチン)」といったワクチンシールのほか、「母子手帳忘れ」シールなども用意。

事務スタッフはワクチン接種を希望する患者が来院すると、母子手帳を確認し、その子どもに接種しても大丈夫か確認します。そして接種可能な場合は、カルテにワクチンシールを貼って診療室に持参するのです。

看護師はシールを確認すると、接種スケジュールに問題がないことを確認後、シリンジにワクチンを充填。私自身も最終確認を行い、看護師から注射器を受け取って接種をします。

こうすることで、口頭やメモを使って連絡するよりもはるかに短時間で、ミスなくワクチンの接種を完了できます。ワクチンは健康な人に接種するので、絶対に間違いが許されません。

4種混合ワクチンの予防接種を希望した患者に誤ってヒブワクチンを打ってしまったら、言い訳はいっさいきかないのです。そこで、事務スタッフ、看護師、私でトリプルチェックを行い、万全を期しています。私の院では、ヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンの同時接種(ヒブプレ)、4種混合ワクチン、麻疹・風疹混合ワクチン(MR)、日本脳炎ワクチンの希望者が多いため、これらのシールを多めに用意しています。

内科の場合は、風疹ワクチンや大人用の肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)などのシールをたくさんつくっておくと、業務効率を高められます。

ワクチン以外では、「母子手帳忘れ」のシール(図表2の写真内右下)も用意しています。母子手帳を忘れた患者が来院した場合、看護師は、接種日やワクチンのロットナンバーが記されたシールを作成し、あとで母子手帳に貼ってもらえるようにします。この作業を忘れないようにするため、シールを用意しているのです。

医師から看護師、事務スタッフへの伝達もシールで完結

図表3は、診察室の近くにあるボードです。ここに用意されているシールは、私から看護師に連絡するために使います。看護師への依頼内容は多岐にわたるため、ほとんどのシールはボードに1枚だけしか貼っていません。

[図表3]医師(筆者)と看護師間の伝達用シール(実物)
ただし、同じシールは何枚も事前に用意しており、私があるシールをカルテに貼ったら、同じ種類のシールを看護師がボードに補充する仕組みになっています。

シールのなかには、「溶連菌」や「マイコプラズマ」などの病名も含まれています。これは私の院で迅速検査が可能な感染症で、私がこれらのシールをカルテに貼った瞬間に、看護師は検査の準備を行います。

図表4は、ある患者に関する指示を8枚のシールでまとめた事例です。これらのシールは私が紙カルテに貼り、看護師に渡します。

[図表4]医師(筆者)と看護師間の伝達用シール(実物)

そして看護師は「検尿と尿培のシールが貼られているから、この患者の検体は捨てず、きちんと培養に出さなければダメだな」などと確認して作業を行います。

その後、カルテはシールが貼られたまま事務部門に届けられます。

そして事務スタッフは、「後診療なしのシールが貼られているから、会計が終わったら患者を帰宅させていいのだな」「スパイロのシールが貼られているから、『スパイログラフィー等検査』の保険点数を取らなければいけないな」などと確認する流れです。

図表5は、私の診察デスク上にあるモニターで、ここに貼られているシールは、私から事務スタッフへの連絡用です。「抗菌」とは小児抗菌薬適正使用支援加算を忘れずに取るよう伝えるもの、「(か)」とは小児かかりつけ診療料算定のための、かかりつけ同意書にサインしてくれる可能性が高い患者だということを伝えるものです。

[図表5]医師(筆者)と看護師間の伝達用シール(実物

看護師の「医師からの指示を待つ時間」をカット

私の院がシールを使ったコミュニケーションを行っている理由は、4つあります。

1つ目の理由は「手待ち時間の短縮」です。

例えば、溶連菌が流行している学校に通う子どもが、発熱とのどの痛みを訴えて来院したとします。この場合、患者が溶連菌にかかっている可能性は極めて高いでしょう。

ところが一般の医療機関では、医師がその場で診察を行ったあとに看護師に溶連菌検査のオーダーを出し、看護師はそこから検査の準備を始めるというやり方を採ります。これでは、医師の指示を受けてから看護師が検査準備をするため、時間がムダになってしまいます。

一方私の院では、「学校で溶連菌が流行っている」という問診結果が書かれたカルテを見た瞬間、私がカルテに溶連菌のシールを貼ります。

すると、それを見た看護師はすぐに溶連菌検査の準備を始めるのです。

そして、私が患者に「溶連菌の検査をしてみましょうか」と案内するときには、すでに準備が終わって検査に入れる態勢ができています。

シールを使えば、看護師や事務スタッフとの連絡に費やす時間が大幅に短縮できます。

例えば看護師に「Aちゃんは溶連菌の疑いが強いので、これから検査の準備をしてください」と伝えると数秒かかってしまいますが、シールを貼るだけなら1秒くらいしかかかりません。その分、診療時間も短くなるのです。

口頭指示だと起こりがちな「伝達ミス」を回避

2つ目の理由は、ミスの危険性を下げることです。口頭で指示を伝えようとすると、言い間違いや聞き間違いをすることがあり得ます。

一方、シールなら伝え間違いの危険性は小さくなります。

また、各シールには色分けがされていて、シールを貼る側も読む側も、「このシールはXXの指示だな」と直感的に理解できます。

このとき注意したいのが、シールの色分けです。

例えば、「心エコーや腹エコーなどの診察方法に関するシールは〇色、溶連菌やマイコプラズマなどの病名はX色」などのようにカテゴリーごとに色分けをしようとすると、看護師が直感的に理解できずうまくいきません。「心エコーは〇色、腹エコーはX色、心電図は△色」のように、同カテゴリー内で色分けをするほうが分かりやすいです。

患者とのコミュニケーション密度が大幅アップ

3つ目の理由が、患者とのコミュニケーションに注力できることです。カルテにスタッフへの指示などを書き込むときは患者から目が離れますし、看護師に口頭で連絡するとき、同時に患者に話し掛けることはできません。

しかしシールを使えば、患者に話し掛けながら看護師・スタッフに指示を出すことができるのです。

私は治療中、常に患者かカルテのいずれかを見ています。指示を出したり治療器具や注射器などを受け取ったりするときも看護師は見ず、患者に話し掛けたり様子を観察したりすることに集中しています。看護師に指示を出す時間を最小限に抑え、その分を患者に振り分けることが私の基本方針です。私の一人あたり治療時間は平均2分半と短いのですが、患者とのコミュニケーション密度は濃いため、多くの人から好評を博しています。

[図表6]医師(筆者)が効率的に検査器具を受け取る様子

「患者に聞かれたくない話」をスマートに伝達

そして4つ目の理由が、患者に聞かれたくないことを、看護師やスタッフだけに伝えられることです。

例えば、自院をかかりつけ医にしてくれそうな患者がいた場合、事務スタッフが小児かかりつけ医の制度について説明し、患者から承諾書をもらう必要があります。

でも、患者が目の前にいる状態で「この人からかかりつけ医の承諾書をもらって」などと伝えるのは、いかにもいやらしい印象を与えます。そこで私の院では、前述の「(か)シール」をカルテに貼ることで伝達をすることにしています。

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