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最終更新日:2022年10月14日

かんせいのうしょう肝性脳症

こちらの記事の監修医師
沖縄県立中部病院
山田 航希

概要

肝性脳症は、肝臓の働きが弱まることにより解毒作用が低下し、毒素を含んだ血液が脳に入ってしまうことで生じる意識の変化です。また肝臓の働きが弱まっていなくてもシャント(門脈-大循環の短絡)があることによっても生じることがあります。主な症状は、軽度なら気分の変調や昼夜の逆転などですが、進行すると意識レベルの低下や錯乱、ついには意識を失い、昏睡状態となり、この状態まで悪化すると多くは死に至ります。肝性脳症の診断は、意識レベルの確認、肝臓病など持病の確認、感染症や薬など肝性脳症の誘因となる原因の確認をおこないます。肝性脳症では腸からの腸内の環境を整えたり、便通をよくするお薬などを使用し、不要な毒度が過剰に血液に入らないようにするための治療をおこないます。肝性脳症の予防のためにはタンパク質制限・適度な運動・便秘予防・禁酒が必要です。肝性脳症は主に肝硬変の患者に生じるため長期にわたって治療が必要になります。

原因

腸から吸収された物質は血液で運ばれ肝臓を通過し、血液中の毒素は肝臓で取り除かれます。ところが、肝硬変の場合は、肝臓の働きが弱まることにより解毒作用が低下したり、血液が肝臓を通らずに脳に入ってしまい(門脈-大循環の短絡)、毒素が取り除かれないままで脳に達します。その毒素の侵入のため脳の働きを損なわれ、意識状態の変化が生じます。これを肝性脳症あるいは門脈大循環性脳症とよびます。肝性脳症は主に肝硬変など慢性の肝臓病や、肝硬変に伴う門脈圧亢進症でおこる病気です。門脈とは血液を腸から肝臓に送る血管であり、門脈圧亢進症とは門脈の血圧が高くなった状態です。急激に肝臓の機能不全に陥ってしまう急性肝不全でも肝性脳症を生じることがあります。腸内細菌が作り出したアンモニア・芳香族アミンなどのタンパク質が分解されることにより生じる毒素が影響すると考えられています。肝性脳症を起こす誘因として、感染症・薬をちゃんと服用しないこと・消化管出血・脱水・タンパク質の過剰摂取・便秘・アルコール・鎮痛薬・鎮静薬・利尿薬などがあります。

症状

肝性脳症の主な症状は意識レベルの低下と錯乱です。初期には論理的な考え方ができなくなったり、判断力が低下したりします。他にも、性格や行動の変化・気分の変化・睡眠のサイクルの乱れ・抑うつ・不安・怒りっぽくなる・集中力の低下、動作や話し方の緩慢、場所・日時の感覚がわからなくなることもあります。などがみられます。客観的な所見として、特有の匂いのする呼気や、手を小刻みに羽ばたくような動き(羽ばたき振戦)などが特徴的です。進行すると意識を失い、昏睡状態となり、そこまで進行してしまうと多くは死に至ります。

検査・診断

肝性脳症の診断は、症状の確認、慢性の肝臓病など持病の確認、感染症や薬など誘因の確認などをまずおこないます。血液検査で高アンモニア血症や慢性の肝障害を認めることが多く、他の病気を鑑別するために頭部・腹部CTやMRIで検査することもあります。また脳波検査で脳活動の異常を検出する場合もあります。高齢者の肝性脳症は、認知症やせん妄との鑑別が難しいこともあるため、注意が必要です。

治療

肝性脳症では腸から毒素を取り除く治療をおこないます。まずラクツロースで便を柔らかくし排便を促すことで、腸の内容物を取り除く治療が重要です。またラクツロースはビフィズス菌を増やし、アンモニアをつくりだす悪玉菌を減らす作用もあります。さらにビフィズス菌がつくる有機酸はアンモニアを吸収しやすくします。これによりアンモニアが減少するため、一石二鳥の治療法です。リファキシミンなどの抗菌薬を使用して腸内で毒素を作り出す細菌を減らすこともあります。分岐鎖アミノ酸製剤の点滴静注により、意識レベルの改善、アンモニアの低下をうながす治療もおこなわれます。

予防/治療後の注意

肝性脳症の予防のためにはタンパク質制限・適度な運動・便秘予防・禁酒が必要です。肝性脳症を来す慢性の肝臓病ではエネルギー欠乏をおこしやすいため、頻回食と就寝前軽食が推奨されます。感染症の早期治療も重要です。また慢性の肝臓病が存在するため食道静脈瘤を合併することも多く、定期的に内視鏡検査し、必要に応じて治療が必要です。肝硬変のような慢性の肝臓病では肝性脳症を繰り返すことが多く、継続的な治療が必要となります。

こちらの記事の監修医師

沖縄県立中部病院

山田 航希

日本内科学会認定専門医
日本消化器病学会認定専門医
日本内視鏡学会認定専門医
日本肝臓学会認定専門医


自治医科大学卒業後に、沖縄県立中部病院にて内科初期後期研修終了。離島診療所勤務を経て消化器内科専修研修後、肝疾患の臨床分野で武蔵野赤十字病院、トロント大学総合病院多臓器移植科 肝臓移植内科でのクリニカルフェローシップを経て現在、沖縄県立中部病院の多忙な臨床現場で奮闘中。消化器、肝疾患での学会発表、執筆多数。