最終更新日:2022年7月6日
まらりあマラリア

こちらの記事の監修医師
グローバルヘルスケアクリニック
水野 泰孝
概要
マラリアは、ハマダラカという蚊が媒介するマラリア原虫によりおこる感染症です。亜熱帯・熱帯地域を中心に、世界中100カ国あまりで流行しています。その中でも、サハラ以南のアフリカ・大洋州の熱帯地域、東南アジアの国境地域、南米アマゾン河流域が主な流行地です。年間3~5億人の感染者がみられ、200万人の人が死亡します。アフリカにおける死亡例が90%を占め、サハラ以南のアフリカで5歳未満の子供が毎日3,000人マラリアで亡くなっているほど深刻な病気です。マラリア原虫の一種である三日熱マラリアは熱帯ではない韓国や中国でも時にみられます。流行地への旅行者が帰国後に発症する輸入例も多く、年間3万人ほどみられています。日本では最近の輸入例が年間50∼70例くらいですが、2000年には150例ほどみられました。適切な診断がなされずに死亡する例もみられます。したがって流行地から帰国した発熱患者は必ずマラリアを疑うべきです。日本では、マラリアは検疫感染症に指定されています。まれですが輸血や針刺し事故での感染事例もあります。
原因
マラリアはマラリア原虫の感染でおこります。ヒトに感染するのは、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫の4種類が主なものですが、サルに感染するサルマラリアもヒトに感染することがあります。この中で、熱帯型マラリア原虫による熱帯熱マラリアは悪性マラリアと呼ばれ、早期の診断と適切な治療が施されないと短期間で死に至ります。世界のマラリア感染者の50%、死亡者の95%が熱帯型マラリアによるものです。マラリアは、マラリア原虫をもつメスのハマダラカの吸血により感染します。ハマダラカに刺されることにより、幼虫(スポロゾイト)が血液に入り、肝臓に移行して分裂増殖します。その後、スポロゾイトが再び血液中に入り、赤血球に寄生して破壊し続けます。そしてマラリアに感染したヒトをハマダラカが刺し、他のヒトへ広めるというサイクルを繰り返すのです。
症状
潜伏期は、熱帯熱マラリアで約12日、四日熱マラリアで約30日、三日熱マラリアと卵形マラリアで約14日くらいです。ただし、三日熱マラリアでは感染しても肝臓で休眠体(ヒプノゾイト)になるサイクルをとりますので潜伏期以上に無症状のことがあります。潜伏期後、悪寒戦慄とともに発熱がみられ、その後、発汗とともに解熱します。この熱発作は間隔を空けてみられ、四日熱マラリアでは72時間ごと、三日熱・卵形マラリアは48時間ごと、熱帯マラリアでは不定期に出現します。発熱以外の症状は、全身倦怠感、頭痛、関節痛、筋肉痛、悪心、嘔吐、腹痛、下痢などです。4種類のマラリアの中では、熱帯熱マラリアが重症化しやすく悪性マラリアと呼ばれます。マラリア原虫は、赤血球に寄生して全身に広がり、多臓器不全を起こします。重症化すると、脳症、急性腎不全、肺水腫、ARDS、DIC、重症貧血、低血糖、黒水熱などを合併して死にいたる病気です。
検査・診断
熱帯・亜熱帯地域から帰国後の発熱ではマラリアを疑うことが重要です。血液検査では、血小板減少、ビリルビン増加などが初期からみられ、症状が進むと貧血がみられます。血液塗抹標本を作製しマラリア原虫を見つけることが標準的ですが、慣れていないと診断が難しいことがあります。外国では迅速診断キットが普及していますが、キットの精度が確かではないこともあり、日本では認可されていません。PCR法による診断も可能ですが、実施できるのは一部の研究室に限られます。
治療
マラリアの急性期には経口薬で治療します。アルテミシニンを含んだ複数の抗マラリア薬の合剤がよく用いられます。重症マラリアは注射液で治療します。早期診断・治療により後遺症なく治癒しますが、診断・治療が遅れると死に至ることもある救急疾患です。
予防/治療後の注意
妊産婦、免疫不全状態の人は重症化しやすいため、特に注意が必要です。流行地では、蚊に刺されないような工夫が必要です。DEETやイカリジンを含有した防虫スプレーの適宜使用、長袖・長ズボンを着て肌の露出を減らし、夜間の外出を控えてください。流行地への滞在が1週間以上の場合は、予防薬の内服を検討してください。日本ではメフロキン、アトバコン・プログアニルが予防薬として承認されており処方可能です。

こちらの記事の監修医師
グローバルヘルスケアクリニック
水野 泰孝
〇診療科:内科・感染症内科・小児科・アレルギー科・トラベルクリニック
【学歴 】
私立駒場東邦中・高等学校(1982-1988)
昭和大学医学部医学科(1988-1994)
東京慈恵会医科大学大学院医学研究科(熱帯医学専攻)(1998-2003)
長崎大学熱帯医学研究所(1999)
(Diploma in Tropical Medicine)
タイ王国マヒドン大学熱帯医学部(2001)
(Diploma in Tropical Medicine & Hygiene; DTM&H)
バングラデシュ国下痢症疾患研究所(2002)
(Workshop on Emerging and Re-emerging pathogens)
連合王国ロンドン大学公衆衛生・熱帯医学部(2005)
(Travel Medicine Short Course)
【職歴】
東京慈恵会医科大学付属病院 臨床研修医(1994-1996)
東京慈恵会医科大学付属柏病院・第三病院 小児科助教(1996-1998)
東京慈恵会医科大学付属病院 感染制御部 診療医員(2003-2004)
国立国際医療センター(現:国際医療研究センター)国際医療協力局 厚生労働技官(2004-2005)
国立国際医療センター病院 国際疾病センター(現:国際感染症センター)厚生労働技官(2005-2010)
外務省 在ベトナム日本国大使館 一等書記官兼医務官(厚生労働省より出向)(2007-2009)
国際協力機構(JICA)感染症顧問医(2009-2017)
厚生労働省羽田空港検疫所 非常勤医師(2011-2019)
東京医科大学病院 感染制御部・渡航者医療センター 准教授(2010-2018)
東京医科大学病院 感染制御部 部長(2013-2015)
東京医科大学病院 感染症科 診療科長(2013-2015)
東京医科大学病院 国際診療部 部長(2016-2018)
一般病院・診療所 非常勤医師(2017-2019) 東京都(杉並区、新宿区、葛飾区、世田谷区、千代田区、調布市)、神奈川県(横浜市、川崎市)、千葉県(松戸市、流山市)、埼玉県(所沢市、三郷市、蕨市、羽生市、吉川市、上尾市)、栃木県(真岡市)、群馬県(渋川市)、茨城県(古河市)、山形県(庄内町)、岩手県(奥州市)、北海道(旭川市、釧路市、月形町、江差町)、熊本県(天草市)
【役職】
日本感染症学会評議員
日本熱帯医学会評議員
日本化学療法学会評議員
日本渡航医学会評議員
日本臨床寄生虫学会評議員
日本小児科医会国際委員長
国際協力機構海外協力隊派遣前訓練 感染症講師
株式会社 わらべや日洋ホールディングス釧路工場 嘱託産業医
株式会社JM 嘱託産業医
社会福祉法人ちとせ交友会 嘱託医
株式会社 電通 感染症対策アドバイザー
東京都三鷹市 感染症対策アドバイザー
認定資格
日本感染症学会認定感染症専門医・指導医
日本小児科学会認定小児科専門医・指導医
日本アレルギー学会認定アレルギー専門医
日本医師会認定産業医
日本感染症学会推薦インフェクションコントロールドクター(ICD)
身体障害者福祉法指定医(免疫機能障害)
国際渡航医学会認定医(CTH® )
米国熱帯医学会認定医(CTropMed® )
一般旅行業務取扱管理者
PADIスクーバダイビングインストラクター(OWSI)
日本臨床内科医会認定医(~2013)日本人間ドック学会認定医(~2014)日本温泉気候物理医学会温泉療法医(~2015)日本化学療法学会抗菌化学療法指導医(~2017)