最終更新日:2022年3月22日
マスクなしの日常は遠い?…忍び寄る「ステルスオミクロン」の脅威
こちらの記事の監修医師
ダナ・ファーバー癌研究所
郭 悠

新型コロナウイルスの感染予防対策は、国ごとに取り組み方が様々です。本記事では、ボストンにあるダナ・ファーバー癌研究所の研究員である郭悠氏が、アメリカやイギリスをはじめとした各国の感染予防策や研究成果を通して、日本がこれからどう生活を変化すべきか、また、現在水面下で拡大してきている「ステルスオミクロン」の脅威について解説します。
オミクロン株の出現で日常生活は「新たなフェーズ」に
日本で2022年初頭より始まった新型コロナウィルス感染症(COVID-19)流行の第6波は、新規の変異株である「オミクロン株」の出現により、これまでにない広がりをみせています。
しかし、今回の流行もこれまで同様に、2月はじめに10万人/日の新規感染者数をピークに、緩やかですが感染が縮小傾向にあるように思われます。
これは、われわれ人類がこれまで手をこまねいて事態を傍観していた訳ではなく、ワクチンや治療薬開発に加え、個々人ができるマスク着用をはじめとした予防策を真剣に講じてきた証でもあります。
とはいうものの、現時点では一連のCOVID-19パンデミックの先行きがみえないのも事実です。
そこで今回は我々の生活をどう変えていくべきか考えるために、アメリカやイギリスをはじめとした各国の状況、マスクによる感染予防策の緩和状況、ステルスオミクロン株(BA.2株)の各国での報告および最新の研究成果を紹介します。
「ブースター接種率」が低いアメリカ
アメリカでのワクチン接種率は、2022年2月時点においてたとえばミズーリ州では55%(ブースター接種率22%)、コロラド州では69%(ブースター接種率34%)と低い地域もありますが、国家全体では12歳以上の接種率は73.3%(ブースター接種率44.9%)でした。
少なくともワクチンを接種している人の割合は日本と同程度ですが、ブースター接種率が低いのが特徴です。
アメリカでの新規感染者数は1月に30万人に達したあと、3月には3万人に減少していますが、それにともない新規ワクチン接種率はワクチン供給が限られていた2020年12月と同程度まで落ちているといわれています。
ブーストワクチンを接種しない人のなかには、「COVID-19に感染したので免疫を獲得している」と考えている人がいますが、Harvard TH Chan School of Public Healthの疫学研究者Bill Hanageがいうように、既感染者も獲得した免疫反応は低下していくため重症化しやすくなっている可能性があります。ブーストワクチンは必要です。
いち早く予防策緩和を進めているイギリス
イギリスは2月にCOVID-19に対する規制を緩和させました。Boris Johnson首相は検査陽性者の自主隔離要請、接触者調査、無料迅速テスト施行の取りやめを発表しました。
同首相は「コロナウイルスと共に生きることを学び、我々の自由を制限することなく我々自身や他の人たちを守っていく」とコメントしています。
イギリスでは12歳以上のワクチン接種率が84.9%(ブースター接種率65.7%)と高いことも緩和策の一因としています。
他にもデンマークやオランダなどが同様に規制を緩和していますが、その一方ニュージーランドや香港ではこれまでにない感染流行がみられ、対応に追われています。
アメリカで進められている「マスク着用自由化」
アメリカのCDC(The Centers for Disease Control and Prevention)は新しいガイドラインのなかで、半数以上に当たる低~中程度のリスクの州でマスク着用は「もはや必要ない」としました。
これはおよそ70%のアメリカ人が含まれることになりますが、CDCのRochelle Walensky所長は、ワクチンや既感染による免疫獲得、検査の向上、新規治療の普及などから重症化リスクが下がったことを根拠としています。
一方でハイリスクの人やその家族はマスクを含めた十分な予防策を取ることを喚起しています。
また、多くの学校ではマスク着用が求められていますが、CDCは、子供は重症化リスクが低いことから、感染流行地の学校のみマスク着用での生活を勧めています。
現在、屋内でのマスク着用を義務付けているのはハワイのみとなっており、専門家のあいだでは早すぎる規制緩和策に懸念の声が上がっています。
水面下で広がっている「ステルスオミクロン」
オミクロン株の亜型であるBA.2株は2022年1月末ごろに検出されました。検出が難しく「ステルスオミクロン」と呼ばれ、主流であるBA.1株よりも感染力が強く、ワクチンや治療効果が低い可能性が示唆されています。
しかしアメリカではアイオワ州、メイン州、オクラホマ州以外の全土で検出されているものの「1,400例程度」に留まっており、これは全体の報告例の0.5%以下に当たります。
報告例のもっとも多いカルフォルニア州でも262例と少数のため、CDCはこれまでの変異株と有病率は大差ないとしています。
一方で規制緩和策を取っていたデンマークのほか、ブルネイ、ジョージア、ネパールといった国々ではBA.2株が深刻なアウトブレークを引き起こしました。
実際、デンマークのStaten Serum Instituteは、BA.2株はBA.1株に比べ感染力が30%上昇しており、ワクチンによる予防効果に対しても免疫逃避能があることを報告しています。
しかし、興味深いことに、ワクチンを接種した人ではBA.1株もBA.2株も感染力は強くないとしています。
さらに日本の佐藤佳先生、池田輝政先生らの研究グループもBA.2株はBA.1株に比べ40%感染力が強く、特に肺でのウィルス増殖能が上がっていることを報告しているなど、重症化には注意しなければなりません。
「マスクなしの生活」は非現実的
- ワクチン接種率は日本と同程度のアメリカは、ブースター接種率が低いにもかかわらずマスク着用を自由化している
- イギリスは、ワクチン接種率、ブースター接種率ともに高いことから予防策を緩和している
- 予防策を緩和していたデンマークなどでステルスオミクロン株(BA.2株)がアウトブレークを起こしている
- 日本の研究でもBA.2株の感染性の増強、重症化メカニズムが報告されている
これらのことから、いまだステルスオミクロン株の情報は少なく、これまでのようにまったくマスクが必要ない生活に戻ることは現実的ではありません。
しかし、ワクチンや治療薬による効果も明らかになってきており、予防策を緩和することは可能です。
今後も各国の状況を参考に我々の生活スタイルを順応させることが重要と考えられます。
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こちらの記事の監修医師
ダナ・ファーバー癌研究所
郭 悠
近畿大学医学部卒業、熊本大学大学院 エイズ制圧のためのトランスレーショナル研究者育成コース卒業。初期研修終了後、HIV・膠原病診療に携わり、HIVの抗体研究で医学博士を取得。その後、ワクチン開発を目指したHIV・新型コロナウィルスの中和抗体研究をしながら、現在はアメリカ国立癌研究所指定癌センターのひとつである、ダナ・ファーバー癌研究所に勤務。また、一般内科医として診療にあたり臨床での現状やニーズを意識しながら、臨床応用を目標とした免疫学、ウィルス学研究を心掛けている。
「難しいことを難しく言うのは簡単だが、難しいことを簡単に言うのは難しい。」がモットー。
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