最終更新日:2021年8月27日
肝機能障害とは?原因と症状、治療法を解説|生活習慣の改善が重要
こちらの記事の監修医師
ティーズ 内科クリニック
土山智也
肝臓はよく沈黙の臓器と言われますが、多少の悪化では自覚症状が出てきません。そのため、特に自覚症状がなくても定期的に健康診断や人間ドッグを受けることが非常に重要です。今回は肝機能障害の症状や原因、治療法などについて解説します。肝機能障害の予防につながる生活習慣についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
肝機能障害とは
肝機能障害とは、何らかの原因によって肝細胞が障害を受け、炎症が起こり、肝細胞が壊されてしまうため、血液検査で肝機能の異常値を示すことをいいます。
何らかの症状が現れているかどうかに関わらず、肝機能障害を表す数値が出る場合もあります。多少の肝機能障害なら自覚症状がないこともあり、知らず知らずのうちに負担を与えている可能性があります。
毎日お酒を飲む習慣がある方や不規則な生活を送っている方は十分注意し、定期的に健康診断を受けることが大切です。
肝臓の働き
約1~1.5kgある肝臓は人間の体の中で最も大きな臓器で、生命活動を維持するために500以上の働きをしています。なかでも肝臓の重要な働きとして、代謝、有害物質の解毒、胆汁の生成、分泌があります。
代謝
人が摂取した食べ物は胃や腸で分解されますが、胃や腸の壁から血液に吸収された栄養素の多くは肝臓に運ばれます。そして、肝臓で貯蓄された栄養素は各器官や臓器が必要とする栄養素に分解され、血液をめぐって全身に送り出されます。
このように、栄養素を体内で利用しやすい形に分解・合成する働きを代謝と呼びます。
有毒物質の解毒
肝臓にはアルコールや薬剤、体内で発生するアンモニアなどの有害物質を分解して無毒化する解毒作用もあります。そして、無害化された物質は尿などと一緒に体の外へ排出されます。
しかし、肝機能が低下すると体内に有害物質がどんどん蓄積され、脳が障害されてしまうことも少なくありません。
胆汁の生成・分泌
肝臓は、脂肪の乳化やタンパク質を分解しやすくする「胆汁」を生成・分泌する働きがあります。胆汁は脂肪やタンパク質が腸から吸収しやすくするだけでなく、コレステロールを体外に排出する際にも必要です。
胆汁にはビリルビンという色素が含まれていますが、肝機能障害によって胆汁の流れが悪くなるとビリルビンが体内に蓄積します。その結果皮膚や白目が黄色くなる「黄疸(おうだん)」という症状が現れます。
肝機能障害が起こると風邪に似た症状が出る
肝臓は極めて再生能力が高いため、70%切除しても元の大きさまで戻り肝機能も同程度に回復します。そのため、肝機能障害が起こっても初期段階では自覚症状が出ないことがほとんどです。しかし、進行すると以下のような風邪に似た症状がみられます。
- 全身倦怠感
- 食欲低下
- 嘔気
- 黄疸
- 体のむくみ
上記のような症状が出現している場合は肝機能障害がかなり進行している可能性があります。そのため、自覚症状がなくても定期的に健康診断や人間ドッグを受けることが重要です。
ここまで肝機能障害の症状について解説してきましたが、以下では肝機能障害の原因について紹介していきます。
肝機能障害のおもな原因と治療
肝機能障害の原因はさまざまです。ここではおもな原因と治療法について解説していきます。原因が何であれ、肝臓の病気は慢性に進行すると最終的に肝硬変や肝不全に行き着く可能性があるので早期発見が重要です。
ウイルス肝炎
ウイルス肝炎は、肝臓がウイルスに感染したことによる自己免疫反応によって細胞が障害され、炎症を起こす疾患です。肝炎を引き起こすウイルスはおもにA型、B型、C型、D型、E型の5種類ありますが、そのほとんどがB型肝炎ウイルスかC型肝炎ウイルスです。
- A型肝炎
カキなどの貝類や海外旅行先での飲食によって感染します。急性肝炎の原因になりますがほとんどは重症化せずに自然治癒し、慢性化することはありません。
- B型肝炎
B型肝炎ウイルス(HBV)は輸血や出産、性行為、入れ墨、注射器の使いまわしなどによって感染します。日本ではワクチンによって感染は減少していますが、成人で感染すると急性肝炎になります。
B型肝炎ウイルスの治療ではインターフェロンや核酸アナログ製剤によってウイルスの活動を抑え、肝臓の障害が進行するのを防ぎます。
- C型肝炎
C型肝炎ウイルス(HCV)は輸血や血液製剤、入れ墨によって感染し、肝炎になります。約30%はウイルスが排除されますが、約70%は慢性肝炎に移行し、肝硬変や肺がんに進行する最も大きな原因です。
ただ、現在の医療現場で使用されている輸血用の血液や血液製剤は厳密に検査されているため、感染は報告されていません。C型肝炎ウイルスの治療では、経口薬によってウイルスを90%以上排除できると言われています。
- D型肝炎
D型肝炎ウイルス(HDV)は、複製をするためにはB型肝炎ウイルス(HBV)を必要とするため、HBVと同時に重複したときに感染が成立します。このウイルスは血液や体液との接触で感染します。HDVとHBVの重複感染では、HBV単独よりも重症化の進展を加速させます。D型肝炎に対する有効な治療は現時点ではありませんが、B型肝炎の予防接種で予防することはできます。
- E型肝炎
E型肝炎は豚や猪、鹿などの動物が持っているウイルスによって感染します。以前は発展途上国に多いと考えられていましたが、近年は日本でも感染が確認されています。
E型肝炎はワクチンがないので、生肉を食べないことが予防策です。E型肝炎は慢性化せずほとんどが自然治癒しますが、食欲不振などに対する薬の投与を行うこともあります。特に妊婦さんは重症化しやすいので注意が必要です。
自己免疫性肝炎(AIH)
自己免疫性肝炎は免疫の異常が関係して肝臓に障害が起こる疾患で、多くの場合は慢性化します。自己免疫性肝炎を発症するのは50~60代の中年女性が多い傾向がありますが、若い女性や子ども、男性の発症も珍しくありません。
自己免疫性肝炎は原因不明の指定難病となっていますが、治療には副腎皮質ステロイドという飲み薬が有効です。
原発性胆汁性胆管炎(PBC, 旧原発性胆汁性肝硬変)
原発性胆汁性胆管炎は免疫の異常が関係して肝臓内にある胆管が破壊されて慢性的に胆汁が停滞してしまう病気です。以前は肝硬変へ進行するまで診断を付けることが難しかったことから原発性胆汁性肝硬変と呼ばれていましたが、近年は早期診断が可能となったことから、現在の名称に変更となりました。無症状の方も多いですが、皮膚のかゆみを訴えることが特徴でもあります。血液検査でALPやγ―GTPといった胆汁うっ滞を示す項目の高値を来します。原発性胆汁性胆管炎も発症するのは中年期以降の女性に多い傾向があります。
原発性胆汁性胆管炎も指定難病となっていますが、治療にはウルソデオキシコール酸(ウルソ)という飲み薬が有効です。
アルコール性肝障害
アルコール性肝障害は、常習的にアルコールを飲んでいる人に発症する疾患です。長年アルコールを飲み続けると、痩せている人でも肝臓に中性脂肪が溜まり、炎症を引き起こすことがあります。
そのまま大量飲酒を続けると重症の肝障害を発症し、治療せずに放置すると肝硬変や肺がんに進行する場合もあります。
アルコール性肝障害の場合、何よりも禁酒することが最も効果的な治療法です。禁酒によって約30%の患者の肝臓は正常化しますが、10%は悪化して肝硬変へと進行してしまいます。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:ナッフルディー)
非アルコール性脂肪肝は飲酒を適量の範囲にとどめても、まったくアルコールを摂取していなくても発症する疾患です。原因は肥満や急激なダイエット、糖尿病、脂質異常症、高血圧、閉経などがあり、以下のふたつの種類があります。
- 非アルコール性脂肪肝(NAFL:ナッフル)
単純に幹細胞の中に脂肪がたまっている状態のことで、ほとんど進行しませんが、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などの危険が高まります。
- 非アルコール性脂肪肝炎(NASH:ナッシュ)
脂肪肝から徐々に悪化する肝臓病で、治療しなければ肝硬変や肝がんなどに進展する恐れがあります。非アルコール性脂肪性肝疾患の治療は生活習慣を改善していくことから始め、肝硬変や肝がんなどに進展しないような予防がメインとなります。
薬剤性肝障害(薬の副作用)
薬剤性肝障害は薬の副作用として幹細胞や胆管が障害されて発症する肝障害です。おもに抗生物質や抗がん剤、解熱鎮剤などが原因となりますが、漢方薬や染毛剤、健康食品、サプリメントなどが原因となった例もあります。
薬剤性肝障害は軽度にとどまることも多いです。しかし重症化すると急性の肝不全など危険な状態になる恐れもあります。治療法は原因となった薬物の使用を中止します。その後も肝障害が蔓延する場合は胆汁酸製剤や肝庇護剤、ステロイドなどを使うケースもあります。
代謝性肝疾患
肝臓は鉄や銅などのミネラル分を調整する働きもあります。しかし、肝臓に障害が起こるとさまざまな臓器に鉄や銅が過剰に蓄積して障害をきたし、鉄過剰症やウィルソン病を発症することがあります。
代謝性肝疾患は比較的まれでしょう。しかし進行した場合は肝移植を行うこともあります。原因は遺伝であることが多く、将来的には遺伝子治療が期待される分野です。
健康診断で肝機能障害を指摘されたとき【値の見方】
健康診断の血液検査で肝機能障害を指摘された場合は、飲酒が原因と分かっていても医療機関を受診することをおすすめします。ここでは、健康診断結果において肝機能障害の項目が表す意味や値の見方について解説します。
検査項目 | 解説 | 正常値 |
GOT(AST) | 心臓や肝臓、腎臓、筋肉など多くの細胞に含まれる酵素。肝臓の組織に障害が起こるとGOTが血液中に増加。肝炎や肝硬変、心筋梗塞などで高値になる。 | 8~38IU/l |
GPT (ALT) | 肝臓や腎臓、膵臓の細胞の膜にある酵素。アルコール性肝炎や肝硬変、肝臓がん、脂肪肝などで高値になる。 | 4~43IU/l |
γーGTP | 肝臓や腎臓、膵臓の細胞の膜にある酵素。アルコールの摂取量に敏感に反応。肝臓や胆道に異常があると、いち早く上昇する。 | 男性:~86IU/l 女性:~48IU/l |
アルカリフォスファターゼ(ALP) | 体内のほとんどの臓器や骨に広く分布する酵素。肝炎や胆管閉塞、骨新生で高値になる。 | ~354IU/l |
乳酸脱水素酵素(LDH) | 体内のほとんどの臓器の細胞に分布する酵素。肝臓病や心筋梗塞、白血病などで上昇。 | 120~442IU/l |
総たんぱく (TP) | 血清中の総たんぱく量。栄養障害や肝機能障害、腎臓障害などで値が変動。 | 6.5~8.5g/dl |
総ビリルビン (T-Bil) | ヘモグロビンの代謝産物で、胆汁色素の主成分。肝臓疾患や胆道疾患で上昇。 | ~1.2mg/Dl |
アルブミン | 血液中に最も多く含まれているたんぱく質。肝臓・腎臓の障害や栄養不良などで値が低下。 | 3.5~5.3g/dl |
肝臓病の予防につながる生活習慣改善法
肝臓病は生活習慣と密接な関係があるので、予防するには日頃の生活習慣を見直すことが
大切です。以下では肝臓病の予防につながる生活習慣の改善法を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
過剰な飲酒を控える
肝臓に負担をかけないためには、過剰な飲酒を控えて週に2日は休肝日を設けましょう。ビールなら1日に中瓶1本、ワインならグラス1日2杯、日本酒なら1日1合が適正飲酒量です。
また、5日連続飲酒して2日休肝するのではなく、2~3日ごとに1日休肝日を作るようにしましょう。
適度に有酸素運動をする
非アルコール性脂肪性肝疾患の改善には適度な有酸素運動が有効です。筋トレなどの激しい無酸素運動ではなく、ゆるめのウォーキングやジョギングなどを1日30分程度行うのがおすすめです。
栄養バランスの取れた食事を心がける
肝機能障害の予防には、主食や主菜、副菜が揃った栄養バランスの良い食事を心がけることも有効です。たんぱく質はアミノ酸に分解されますが、肝臓で利用されるには8種類のアミノ酸が揃う必要があります。そのため、1日30品目以上の食品を摂ることが理想です。
余分な薬や食品添加物の摂取を控える
薬をたくさん飲むと、それらを分解するために肝臓が働かなくてはならないため負担が大きくなります。そのため、余分な薬や漢方薬、食品添加物、サプリメントはなるべく控え、自然食品を使った手料理を食べましょう。
肝機能障害の早期発見には定期的な健診が必須
肝臓は全体の3分の1の大きさになっても生きていける再生力を持っています。そのため、健康と思っていても3割の人が健康診断で肝機能障害が見つかるとも言われています。
年齢を重ねると知らぬうちに肝臓に負担をかけていることも多いので、1年に1度は血液検査を受けて肝臓の状態をチェックすることが大切です。
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こちらの記事の監修医師
ティーズ 内科クリニック
土山智也
〇病院名 :ティーズ 内科クリニック
〇医師 :土山智也
〇アクセス:石川県金沢市松村4-308
〇診療科 :消化器内科
〇経歴:
1970年生 医学博士
平成8年3月:金沢大学医学部医学科卒業
平成15年6月:金沢大学大学院医学系研究科卒業
【賞与】
平成15年4月:第16回日本消化器病学会奨励賞受賞
平成17年11月:第56回アメリカ肝臓学会 Young Investigator Award受賞
【資格】
日本内科学会 認定医・総合専門医
日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医
日本消化器病学会 専門医
日本肝臓学会 専門医
ファイナンシャル・プランナー2級(国家資格)
【経歴】
金沢大学医学部(第一内科)、富山労災病院(内科)、福井県済生会病院、金沢大学医学部附属病院(第一内科)、金沢赤十字病院、金沢有松病院、国立病院機構金沢医療センター (消化器内科)、金沢大学医学部附属病院(消化器内科助教)、金沢大学がん高度先進治療センター(現がんセンター)助教、石川県済生会金沢病院(消化器科医長)
平成21年6月:ティーズ 内科クリニック医院長(現職)
http://www.t-s-naika-clinic.jp/
【著書】
「かかりつけ医は選ぶ時代」
「自分の命は自分で守る 読めば得する医学の真実」
「医師から痩せなさいと言われたら最初に読む本」
「知ってると100倍得する! 医療のキホン」
仮想待合室型オンライン診療対応の医療機関募集中
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