最終更新日:2023年1月12日
人体最強の免疫「NKT細胞」の可能性

こちらの記事の監修医師
伊東くりにっく
伊東 信久

がんの治療法というと、昔も今も3大療法といわれる手術・放射線・抗がん剤が主流です。これらの精度も技術も向上しており、以前には助からなかった病態の人でも命が救われているのは確かです。しかし、それぞれにメリットとデメリットがあって完全とはいえないのが現状です。 そのなかで第4の治療法として注目されている「免疫療法」。なかでも注目され始めているのが、理研免疫再生医学(理化学研究所発のベンチャー企 業)によって研究・開発された「NKT細胞標的治療」です。 本記事では、「NKT細胞標的治療」における「NKT細胞」について詳しく解説していきます。
「がんの3大療法」の限界
現在、がんの標準治療には、「外科療法」「放射線療法」「化学(薬物)療法」の3つがあり、これらは「がんの3大療法」と呼ばれています。 「外科療法」は がんを根こそぎ切除する手術は、完治させるうえで最も有効な方法で多くのがん種でステージIIまでが有効とされています。しかし、切除できるのはあくまでも肉眼で確認できる範囲です。 手術と同様に「放射線療法」の場合も、がんがその臓器にとどまっていれば、完治も大いに期待できます。 しかし、転移があったり、がんが進行したりしていて手術や放射線療法を行えない場合は、全身療法である抗がん剤などの「化学療法」しか方法がなくなります。 化学物質によって細胞分裂の周 期に作用して増殖を抑え、がん細胞を破壊する治療を「化学療法」と呼び、主に抗がん剤を指します。薬が効いている間はがんが縮小したり、増大したりするのを防げますが、長く使用しているとがん細胞が耐性をもつようになります。 薬の種類を変えたり、複数の薬を組み合わせたりしますが、化学療法はがん細胞だけではなく正常細胞にもダメージを与えるため、多くの場合できつい副作用を伴います。 こうした副作用で患者の体のほうが限界となり、がんに負けてしまうケースも少なくあ りません。
第4の治療法として注目される「がん免疫療法」
免疫療法はその名のとおり、免疫システムを利用して体内の異物(がんやウイルス、細菌など)を排除する治療法です。 もともと自分の体に備わっている免疫の働きを利用しますので、体への負担も少ないことが大きなメリットです。これは、免疫細胞の働きを強化することでがんを撃退する力を強め、がん細胞を消失させたり、縮小へと導いたりするという免疫のアクセルを踏む治療法といえます。 免疫細胞には、直接がん細胞を攻撃するリンパ球を採取し、サイトカインで活性化して数も増やしたあと、患者の体内に戻して免疫力を強化する「NK細胞療法」「活性化自己リンパ球療法」や、患者の体内に敵であるがん細胞の目印(抗原)を樹状細胞に教え込んで投与する「樹状細胞療法」、抗原そのものを投与する「がんペプチドワクチン療法」、そして次世代型の「CAR‐T療法」などがあります。
免疫システムでキラーとなる「NKT細胞」とは?
免疫システムは、自然免疫と獲得免疫という2段構えで構成されているセキュリティー システムです。この免疫システムにおいて極めて重要な働きをしている免疫細胞が「NKT細胞」(ナチュラルキラーT細胞) だったのです。
NKT細胞は、その名が示すように自然免疫の殺し屋であるNK細胞と、獲得免疫の中心的存在であるT細胞の両方の性質を併せ持っている細胞です。NKT細胞が活性化して参戦すれば、これまでの免疫療法とはまったく 違った様相を呈し、かなり有利な戦いを展開できるようになります。
NKT細胞はほかの免疫細胞に比べて極端に数が少なく、血液中には0.05%、個人差があって多い人でも0.1%程度を占めるに過ぎません。少な過ぎるためにあまり研究が進んでこなかったのが現状です。NKT細胞は、1986年に発見され、T細胞、B細胞、NK細胞に続く「第4のリンパ球」と呼ばれています。
しかし、NKT細胞は残念ながらそのままでは、がんに対して十分な働きをすることができません。がん治療にNKT細胞を利用するには、人工的に覚醒(活性化)させる必要があります。ここが、NKT細胞による免疫療法を行う場合の大きなポイントとなってきます。
NKT細胞のがんに対する6つの働き
NKT細胞が優れているのは、NKT細胞自体ががん細胞を攻撃するばかりか、がんを攻撃するほかのリンパ球、例えばキラーT細胞やNK細胞を活性化したり、樹状細胞を成熟させたりするなど、免疫に関わる細胞も総動員させる「アジュバント作用」と呼ばれる機能ももっていることです。 NKT細胞を覚醒させると、果たしてがんに対してどのように働くのか。主たる働きとしては次の6つがあります。
①樹状細胞を成熟させる働き
樹状細胞は、その名のとおり樹木のように枝分かれした突起をもった免疫細胞で、特殊部隊を構成するT細胞に、自身が食べて得たがんの目印であるがん抗原を提示する役割を担っています。 樹状細胞は、単球という赤ちゃんのような前駆細胞が分化(成長)したもので、未成熟と成熟の2段階があります。がん患者の場合は、がん細胞が細工した免疫を抑制する細胞や物質によって妨害され、 樹状細胞が成熟できない状態に陥っています。そのために抗原提示ができず、獲得免疫の 特殊部隊は活動できない状態になっています。 ところが活性化したNKT細胞は、がん細胞によって成長を抑えられていた未熟な樹状細胞への妨害を解除することができるので、体内の未熟な樹状細胞も成熟していきます。これによって抗原提示がなされ、T細胞をはじめとする獲得免疫が起動して本来の働きを取り戻すようになります。
②アジュバント作用
NKT細胞が活性化すると、さまざまな種類のサイトカインを産生して周囲の免疫細胞に向けて放出するようになります。このように、免疫システムを活性化する作用のことを「アジュバント作用」といいます。 なかでも注目されているのが、IFN‐γ(インターフェロン・ガンマ)というサイトカインです。この物質が活性化したNKT細胞から産生されており、その刺激によって働きが鈍かったキラーT細胞、NK細胞、マクロファージなどさまざまな免疫細胞が活性化し、それらを次々と増殖させてがんに立ち向かうようになります。 本来もっている免疫システムを強化したり、病気によって機能不全に陥っていた免疫の力を回復させたりしていますので、無駄がなくすべてのがん種に対して有効となります。
③がん細胞を直接攻撃する働き
がん細胞を直接攻撃する免疫細胞はというと、目印を失ったがん細胞には自然免疫のNK 細胞が、一方、目印を出しているがん細胞には獲得免疫のキラーT細胞が攻撃しています。しかし、免疫不全に陥っているがん患者の体内では、両者ともに機能していません。
こうした状況のなか、NK細胞とT細胞の性質を併せ持っているNKT細胞が活性化していると当然、がん抗原の有無にかかわらず攻撃することができるようになります。
④免疫抑制を解除する働き
私たちの体には免疫が暴走して自己免疫疾患にならないように、ブレーキ役となる免疫を抑制する細胞が存在していますが、これを悪用してがん細胞は免疫が働けないようにブレーキをかけて自己防衛して増殖しています。 ここで力を発揮するのが、活性化したNKT細胞です。NKT細胞には、がん細胞が作る免疫を抑制する物質をキャッチする受容体がないので、動きが封じられることはありま せん。 そのうえ、がん細胞が免疫細胞の攻撃から自身を守るために細工した免疫を抑制する細胞などを、逆に殺傷する働きもしています。これによって、さまざまな免疫の抑制が解除されることで、自由になった免疫細胞たち が本来の仕事を全うし、免疫機能が高まります。
⑤血管新生を阻害する作用
がんは死なない細胞ですから際限なく増殖していきますが、大きくなればなるほど自分自身が生き延びるために酸素や栄養がたくさん必要になります。 そこで、がん細胞は近くの血管から自分のところまで専用の血管を引いてくるという能力を発揮します。この現象を「血管新生」といい、こうして作られた血管を「新生血管」といいます。これによって、がん細胞はしっかりと酸素と栄養を確保し、ますます増殖するようになります。 しかし、活性化したNKT細胞は、がん細胞が血管内皮増殖因子(VEGF) などのサイトカインを放出できないように邪魔をするのです。これによってがん細胞は新生血管を作れなくなり、酸素と栄養の供給源が断たれてしまいます。結果としてがん細胞は餓死することとなります。
⑥長期の免疫記憶作用
獲得免疫の特徴は、一度出会った抗原の情報を記憶する機能が備わっていることです。 キラーT細胞や、病原体の抗原にピタリとくっついて排除する抗体を作るB細胞は、体内に病原体が侵入すると攻撃をしますが、排除したあとは多くの細胞が死んでしまいます。けれども一部のT細胞やB細胞は、リンパ節などで記憶細胞(記憶B細胞や記憶T細胞) として生き続けます。 このような免疫記憶がもともと備わっていますが、がんの巧みな細工によってがん患者は免疫不全に陥っているため、うまく機能しなくなっています。 それが、NKT細胞を活性化すると、NKT細胞が産生するIFN‐γのアジュバント作用によって強力に活性化された免疫細胞の一部(記憶T細胞)が体内に残存し、長期の免疫記憶が形成されるようになります。 これらの働きがNKT細胞に備わっていることが、理研の谷口先生らの研究で分かってきました。ただし、これはNKT細胞が活性化しているときに発揮される能力であって、 通常は眠った状態にあります。 したがって、がん治療に活用するには人工的にNKT細胞を活性化するしか方法はありません。NKT細胞をいかに目覚めさせるかが、がん治療においては重要な鍵になってく るというわけです。
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こちらの記事の監修医師
伊東くりにっく
伊東 信久
医師。大阪大学国際医工情報センター招聘教授。 神戸大学医学部卒業後、大阪市立大学大学院医学研究科に入学。修 了後、大阪市立大学医学部形成外科を経て、麻酔科、脳神経外科、 整形外科など多岐にわたる医療現場で活躍する。「腰痛の悩みを抱え る患者が、原因や病名を正しく認知し適切な治療に臨めるように」 と椎間板ヘルニアをレーザーで治療する PLDD(経皮的レーザー椎 間板減圧術)専門クリニックの開院やがんの最先端治療の一つであ る NKT 細胞がん治療にいち早く着目するなど、「人生 120 年時代」 を見据えた最前線の医療の提供に尽力する。主な著書『椎間板ヘル ニア治療のウソ・ホント』など多数。
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