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最終更新日:2022年7月17日

不整脈は「電流」で根絶可能…「メスを使わない」最新の心臓手術【専門医が解説】

こちらの記事の監修医師
東京ハートリズムクリニック
桑原 大志

※画像はイメージです/PIXTA

不整脈には多くの種類があり、なかには放置すると命に危険がおよぶケースも……その場合、早急に的確な治療が必要になります。さまざまな治療法のなかで、不整脈の根治が期待できるのが「カテーテルアブレーション」だと、東京ハートリズムクリニックの桑原大志院長はいいます。いったい、どのようにして治療を行うのでしょうか。みていきます。

不正な電気回路を遮断する「カテーテルアブレーション」

カテーテルアブレーションとは、簡単にいうと「不整脈を引き起こす異常な心臓内の局所をカテーテルで焼灼して、正常の脈を取り戻す治療のこと」をいいます。

カテーテルは医療用として用いられる、細くて柔らかい管のこと。アブレーションとは高周波や直流通電、マイクロ波、レーザーなどによるエネルギーを加えて組織を破壊除去する治療法です。つまり、心臓の局所に高周波の電流を当てることで細胞を壊死させ、不整脈を消失させるのです。

カテーテルアブレーションは不整脈に対する治療法のひとつで、正式には「経皮的カテーテル心筋焼灼術」といい、1982年にアメリカで初めて臨床応用されました。日本で保険適応となったのは1994年のこと。その後急速に普及が進み、2020年には国内で10万件以上もカテーテルアブレーションが行われています。

※ 循環器疾患診療実態調査報告書(2020 年実施・公表) JROAD(The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Diseases)
https://www.j-circ.or.jp/jittai_chosa/media/jittai_chosa2019web.pdf

[図表1]カテーテルアプレーションの様子

不整脈には3つのタイプ…治療の対象になるのは「頻脈」

不整脈のなかには、脈がゆっくり打つタイプ(=徐脈)、速く打つタイプ(=頻脈)、不規則に打つタイプ(=期外収縮)の3つがあります。

不整脈のタイプが異なれば、治療法も変わってきます。これらのなかで、カテーテルアブレーションの対象となるのは、「頻脈」の不整脈です。ほぼすべての頻脈性不整脈が、カテーテルアブレーションの対象になります。また、「期外収縮」もカテーテルアブレーションの対象になります。

以下は、カテーテルアブレーションによる治療を行う、代表的な不整脈です。

・心房細動
・心房頻拍
・発作性上室性頻拍症
・心室頻拍
・ブルガダ症候群
・心室性期外収縮
・心房性期外収縮

一方、脈がゆっくり打つ徐脈は、ペースメーカーを私用します。ペースメーカーは体内に機器を留置して心臓の動きを監視し、心筋に電気刺激を与えることで必要な心収縮を発生させる医療機器のこと。つまり、体内に機器を埋め込んで、心臓の動きをサポートするのです。


しかし、これは対症療法となり、不整脈の根治を期待する治療法ではありません。

カテーテルアブレーションの原理とは?

カテーテルアブレーションとは、メスを使わない心臓手術の一種。メスを使わないために低侵襲で、身体への負担が少ないとされています。いったい、どのような原理で治療を行うのでしょうか。

スタート地点は「太ももの付け根」

カテーテルアブレーションの“主役”を務めるのが、高周波発生装置という機械。これは文字通り、高周波の電流を発生させる機械です。

高周波発生装置に繋げられている2本の線は、それぞれ違う役割を果たします。まず、1本は対極板として心臓の裏側(背中側や臀部)に貼ります。そして、もう1本にはカテーテルを接続。カテーテルは患者の太ももから挿入し、下大静脈を通して心臓につなぎます。

下大静脈は直接、右心房や右心室につながっているため、スムーズに心臓へカテーテルを到達させることができます。

[図表2]カテーテルアプレーションの仕組み

そして、カテーテルが心臓へ到達したら不整脈の原因を詳細に突き止め、異常な電気興奮の発生箇所を認識し、そこにカテーテルの先端を当て、対局板に向かって高周波の電流を流します。

カテーテルの先端の大きさは約3mmと非常に小さく、先端から心筋に電気が流れる際は、電流密度が非常に高くなります。そのため、電気が心筋へ移動するときに摩擦が発生し、それにより心筋が80〜100度と温められ、直径5mm、深さ5mmくらいの範囲で心筋が焼灼されます。

心筋が焼灼されると細胞が壊死し、これにより異常な電気信号が心臓全体に伝わらなくなって不整脈が治る、というのがカテーテルアブレーションの基本的な原理です。

冷やしながら焼灼する

アブレーションカテーテルの先端には、水が出る穴が空いています。

[図表3]カテーテルの先端

心筋が80度くらいまで熱せられると、カテーテルの先端も60〜70度くらいまで上昇してしまいます。この先端は血流のなかで“丸見え”の状態であり、血流に温かいものがあると、血液がそこで凝固し、血栓として固まってしまいます。

そのため現在では、カテーテルを冷やすために先端の穴から水を出し、「冷やしながら焼灼する」方法が主流になっています。

実は、以前はこのように先端から水が出るカテーテルはありませんでした。そのため治療のあと、ここで作られてしまった血栓が血流にのって脳に流れ、脳梗塞を引き起こす危険性がありました。

そうしたリスクを踏まえ、安全管理の観点から、「カテーテルの先端を冷やしながらアブレーションを行う」という方法が普及したのです。

「心臓のなかに水が入っても大丈夫なのだろうか?」と疑問に感じる人もいると思いますが、少量であれば問題ありません。ただし、焼灼時間が長くなると、1リットルほどの水が心臓のなかに入ってしまうケースもあります。その場合、心臓の働きが弱まってしまうため、強心剤を使い、心臓の中に入った水を尿として排出するように促します。

焼灼のターゲットは?

カテーテルアブレーションは異常な電気信号を起こしている心筋を焼くことで、不整脈が起きないようにする治療法ですが、アブレーションするターゲットは2種類あります。

1つめは、「不整脈が発生する源」をピンポイントに焼灼するケースです。

たとえば、心房細動は心臓の中に異常な心筋細胞ができてしまい、そこが1分間に500〜600回という頻度で電気刺激を出すため、心臓が痙攣したような状態になることがあります。

そのため、不整脈の原因となっている心筋を焼灼して治療します。

2つめは、「電気回路の一部」をターゲットにして焼灼するケースです。症例によっては、どこかが局所的に問題になっているのではなく、心臓のなかに異常な電気回路が作られており、電気がその回路をぐるぐる回っているために不整脈が起きていることがあります。

その場合、電気回路の一部を焼灼することで、不整脈が発生を防ぎます。

手術は「全身麻酔」か「局所麻酔」

カテーテルアブレーションの手術をする際、麻酔は「全身麻酔」と「局所麻酔」のどちらも使われています。しかし、筆者のクリニックでは、ほとんど「全身麻酔」で手術を行っています。

なぜ筆者が全身麻酔で行うかというと、全身麻酔を使用し、落ち着かせた状態でアブレーションをしたほうが、治療成績がいいからです。

[図表4]心房細動回避率(2011年)

これは、2011年に発表されたデータです。縦軸は成功率、横軸は経過日数です。

鎮静麻酔(=ただ単に眠らせただけ)をかけて治療を行った場合と、全身麻酔をかけて治療を行った場合を比較すると、全身麻酔を行ったほうが、明らかに治療成績がいいことがわかるでしょう。

なぜかというと、心臓は呼吸と共に細かな上下運動を繰り返しているから。焼灼するポイントはミリ単位であり、とても繊細な技量が求められる治療です。しかし、呼吸とともに心臓が上下運動を繰り返すと、焼灼場所がずれてしまう可能性もあります。

そのため、全身麻酔をかけ、呼吸器を使用して完全に呼吸をコントロールすれば、心臓の動きが極めて小さくなるため成功率が上がり、また安全性も高くなります。

しかし、全国の医療機関のうち、全身麻酔でカテーテルアブレーションを行っているところは10%に満たないのが現状です。その背景には、設備や人員の問題、医師の考え方の違いなどさまざまあります。

また、一概に「全身麻酔がいい」とはいえない場合もあります。たとえば心室性期外収縮のケースです。

この不整脈の患者さんのなかには、夜間就寝時に不整脈が消えてしまっているようなことがあります。そういう患者さんでは、全身麻酔を実施すると不整脈がなくなるため、局所麻酔のほうが成功率は高くなります。

このように、必ずしも「全身麻酔がいい」「局所麻酔ではダメ」というわけではなく、症例や状況を見ながら決定する柔軟性が必要です。

カテーテルアブレーションは「チーム医療」

カテーテルアブレーションの特徴は、チームで行うということです。

[図表5]カテーテルアプレーションが行われている手術室

これは、当院でカテーテルアブレーションを行う、手術室の写真です。ガラス越しに見える2人の背中が、医師と看護師です。その奥にベッドがあり、患者さんが寝ています。

まずは医師がカテーテルを心臓までつなぎ、操作します。すると情報はすべてコンピュータに送られます。

その情報を解析するのは、写真では手前に座っている臨床工学技師たちです。彼らはコンピュータに送られたデータを記録・解析し、不整脈の発生場所や回路を分析してその情報を医師へ伝える役割を担っています。

また、写真には写っていませんが、左端にはもう1人看護師がいて、麻酔の効き具合や薬の投与など、手術中にさまざまなサポートをしてくれます。

このように、カテーテルアブレーションは医師1人で行えるものではなく、チーム医療が重要です。そして、全体の総合力が手術の成否に大きく影響しています。

そのため、「カテーテルアブレーションの治療を受けたいけれど、どの医療機関がいいかわからない」という場合は、医師のみならず臨床工学技士、臨床検査技師、看護師など、治療に関わるスタッフが「不整脈の専門資格を有している」「不整脈を専門としている」ということを目安にするといいのではないでしょうか。

こちらの記事の監修医師

東京ハートリズムクリニック

桑原 大志

医学博士。

1984年愛媛大学医学部入学。1991年愛媛大学医学部第2内科入局、1992年愛媛県立中央病院勤務、愛媛大学医学部附属病院、愛媛県立新居浜病院、国立循環器病研究センター研修、2004年横須賀共済病院循環器センター勤務。2016年東京ハートリズムクリニック院長に就任。

不整脈治療を専門とし、カテーテルアブレーション治療では、世界トップクラスの実績を持つ。同クリニックでの2021年12月末現在の治療実績は2,000件以上。