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最終更新日:2022年8月4日

心臓の手術だがメスは不要…不整脈を根治する驚きの最新治療【専門医が解説】

こちらの記事の監修医師
東京ハートリズムクリニック
桑原 大志

※画像はイメージです/PIXTA

かつて、不整脈の治療といえば薬物療法が主流でした。薬を使わない場合は外科手術により直接心臓の異常部分を治療していましたが、決して低くないリスクが……そこで登場したのが、メスを使わない手術「カテーテルアブレーション」です。今回は、カテーテルアブレーションの手術精度をさらに高める「3次元画像システム」の詳しい仕組みやカテーテルアブレーションの成功率などについて、東京ハートリズムクリニックの桑原大志院長が解説します。

「カテーテルアブレーション」の流れ

カテーテルアブレーションは、手術中に不整脈を誘発してその実態を把握し、すぐさま原因となっている心筋を焼灼するという手法を用います。時間が勝負となるこの治療は、いったいどのような流れで行われていくのでしょうか。

「磁場発生装置」で不整脈の位置を正確に認識

[図表1]は、カテーテルアブレーションを行う当院の手術室です。左下にある「磁場発生装置」の付いたベッドの上で行います。

[図表1]カテーテルアブレーションを行う手術室

GPSとまったく同じ原理で、ここに3つの磁場が発生するポイントがあります。そして、その真上のベッドに患者さんが横たわり、患者さんの心臓に「磁気センサー付きカテーテル」を挿入します。

[図表2]心臓のレントゲン写真

[図表2]が、患者さんの心臓のレントゲン写真です。心臓にカテーテルが入っていることがおわかりいただけるでしょうか。

このカテーテルには磁気センサーがあり、ベッドの真下には磁場発生装置があります。つまり、磁場発生装置により磁気センサー付きカテーテルを動かすことで、空間的な位置を正確に認識することができるのです。

手術精度をさらに高める「3次元画像システム」のしくみ

カテーテルアブレーションの手術では、正確性やスピード、効率性が求められます。それを支援するのが、手術中に診断から治療までをサポートする「3次元画像システム」です。

このシステムでは、心臓内に挿入された「多電極カテーテル」によって数百から数千ポイントにおよぶ心臓の位置情報と電位情報を取得。そのポイントをトレースすることで、心臓の3次元画像を作成します。

カテーテルアブレーションの技術や治療機器は、まさに日進月歩の勢いで進化しています。

本来、心臓は3次元の構造にも関わらず、以前は2次元のレントゲン画像を見ながら3次元の心臓をイメージし、カテーテルを細かく動かすことで焼灼していました。

しかし近年、このような3次元装置が開発されたことにより、手術の精度や安全性は驚くほど高まっています。

1.「心腔内エコー」で心臓内部を観察

3次元画像システムを使う際には、まず心臓のなかに磁気センサーがついた「心腔内エコー」を入れ、エコー越しに心臓の内部を観察します。

[図表3]3次元画像システム①

[図表3]は右心房にカテーテルを入れ、左心房を観察しているところです。この画像に基づき、臨床工学技士が左心房をトレースします。すると、次のような図([図表4])が完成します。

[図表4]3次元画像システム②

左右の図とも、右心房と左心房がきれいにトレースされています。

実際には大腿静脈からアプローチできるのは右心系のみです。しかし、右心系と左心系の間には「心房中隔」という壁があるため、左心房や左心室にアプローチするには、中隔に穴をあけなければなりません。

5~6年前までは、金属の針を使って心房中隔に穴を開け、左心房や左心室にアプローチするのが一般的でした。しかし、この心房中隔が非常に薄く、針を立てると伸びきってしまうことがあります。そうすると、穴が開いた瞬間に反対側の心臓の筋肉まで針が突き刺さってしまうリスクがありました。

しかし近年では、高周波で穴を空ける機器(高周波穿刺針)が開発され、針を押さずとも心房中隔にソフトに当てるだけで穴を開けることができ、左心系へ安全にアプローチできるようになったのです。

2.マッピングカテーテルで心臓の位置情報と電気情報を取得

対象となる心房や心室へアプローチしたあとは、マッピングカテーテルで心臓の電気情報と位置情報を取得します。[図表5]は、まさにいま、情報を取得している最中の画像です。

[図表5]3次元画像システム③

図表左の右下に、手のひらのように5本の指を持つ機器が見えます。これは「PENTARAY®」という電極カテーテルで、5本の枝が放射状に広がりながら心内膜に接すると、直径35mmの範囲を20の電極でマッピングしていきます。

コンピューターはカテーテルの先端位置を正確に把握し、まず心臓の立体構造を描写します。このとき位置情報のみならず、先端の電気情報も取得していきます。

電気情報とは、「何ミリボルトの電気でその心筋が興奮しているか」という数値のことです。健康的な心筋はボルテージが高くなり、反対に病的な心筋はボルテージが下がっています。つまり電気情報を視覚化することにより、「このあたりに不整脈の源がありそうだ」という見当がつき、迅速に治療をすることができます。

3.不整脈を人工的に誘発

マッピングが完了したら、不整脈を2つの方法のいずれかで誘発します。ひとつは薬を使う方法、もうひとつはカテーテルで心筋を電気刺激する方法です。

これらの方法を用いることにより、ほとんどの不整脈が誘発できます。たとえば心房細胞の場合、90%の確率で不整脈を誘発することができますし、発作性上室性頻拍症はほぼ100%の確率で誘発できます。

しかし、なかには不整脈を誘発できないケースもあります。たとえば、「心室性期外収縮」は全身麻酔を使うと消えてしまうタイプの不整脈です。これは非常に“気分屋な不整脈”で、ちょっとした環境の変化で消えてしまいます。いったん不整脈が消えてしまうと、薬や電気刺激を使っても、誘発することは困難です。

こういったケースの場合は、局所麻酔を使いながら自然に不整脈が起きるのを待ち、カテーテルアブレーションを行います。

“継承”なしで正確にデータがわかる「コンタクトフォース」

カテーテルアブレーションをするときに当院で使用するのは、「コンタクトフォースアブレーション」です。これは「カテーテルの先端からどれくらいの圧が、どちらの方向にかかっているか」が的確にわかるカテーテルです。

[図表6]「コンタクトフォースアブレーション」で手術を行う様子

これは、ちょうどカテーテルアブレーションを行っている最中の画像です。左上に向かっている矢印は圧のかかっている方向を意味し、中央の数字は圧力の数値やすでに焼灼した心筋の深さを示しています。

ちなみに、この手術は全身麻酔をしているため、心臓がほとんど動いていない状態です。治療前の検査により、心房細動の原因が左肺静脈にあることがわかったため、左肺静脈の周りを取り囲むようにして隔離手術をしています。

こうしたコンタクトフォースが開発される以前、医師はレントゲンを見ながら各々の技術と経験をもとに手術を行うしかありませんでした。通電時間や出力の目安は、病院ごとに師匠から弟子へ継承されるかたちです。

しかし、コンタクトフォースが開発されたことで、圧力の方向と焼灼範囲が明確に視覚化され、手術の精度は極めて高くなり安全性も大きく向上したのです。

確実に根治を目指せる安定した成功率

カテーテルアブレーションは、頻脈性の不整脈にとって非常に有効な治療法です。そこで気になるのが、成功率。いったいどれくらいの確率で治療が成功しているのでしょうか。

薬物治療と回避率を比較すると…

[図表7]は、発作性心房細動の回避率を調べたデータです。つまり治療後、心房細動の再発をどれくらい防げたかを示すものです。

薬物とアブレーションの効果を比較するために、8つの大規模治験が行われました。青線で示しているのがアブレーションによる治療、赤線で示しているのが薬物を使用した治療です。

[図表7]カテーテルアブレーションの成功率:薬物との比較

これをみると、心房細動の人に対してカテーテルアブレーションを1回行うと、だいたい70〜80%の人はよくなることがわかります。一方薬物を使用した場合は、平均すると30%程度の回避率です。

したがって、薬物と比較して、不整脈の治療成功率はカテーテルアブレーションのほうがはるかに高いことがわかります。こうした結果は心房細動のみならず、他のタイプの不整脈も同様です。

カテーテルアブレーションは根治療法ですが、薬物治療は対症療法であり、目指す先が違います。そのため、同じ土俵で比較すること自体ナンセンスかもしれませんが、このグラフからカテーテルアブレーションの有効性が十分ご理解いただけると思います。

不整脈のタイプによっては成功率にばらつき…主治医とよく相談を

[図表8]は、カテーテルアブレーションの成功率を示したものです。

[図表8]カテーテルアブレーションの成功率

これをみると、カテーテルアブレーションの成功率は、高ければ95%、低ければ50%程度ということになります。

不整脈の種類によって成功率にばらつきがあるのは、患者の状態や条件が均一ではないからです。たとえば、「慢性心房細動」は、1年以上心房細動が続いている長期持続性のものをいいますが、どれくらいの期間心房細動が持続しているかによって治療の成功率が変わるため、成功率は50%~80%とばらつきがあります。

10年以上というように、長期間心房細動が続いている場合には成功率が50%程度に落ちてしまいますが、3〜5年の持続期間であれば、80%程度の確率で心房細動を治すことができます。

また心室頻拍も成功率が50%~80%とばらつきがありますが、これは心機能の良し悪しによって変わるためです。心室頻拍は心筋梗塞のあとに発生することが多いのですが、心筋梗塞を発生する前の心機能が良かったのか、あるいは悪かったのかによってもアブレーションの成功率は変わってきます。

このように、不整脈のタイプによって成功率にばらつきが出るため、事前に主治医と相談し、どれくらいの成功率を見込めるのかを確認しておくといいでしょう。

慢性心房細動に悩んでいた79歳男性の症例

実際の症例をみてみましょう。この[図表9]のレントゲン画像は79歳男性、慢性心房細動の患者さんです。

慢性心房細動に対する治療としてペースメーカーを入れ、薬剤による治療を継続していましたが、やはり心房細動が治らないということで、2017年2月にカテーテルアブレーションによる治療を行いました。

[図表9]心房細動アブレーションの効果:79歳、男性、慢性心房細動

左画像が手術前、右画像が手術後のレントゲンです。「心胸郭比(しんきょうかくひ)」とは、心臓の横幅が胸郭の横幅に比べてどれくらいあるかというもので、心臓の大きさを把握するための指標です。数値をみると、カテーテルアブレーションを行う前の心胸郭比が手術後わずか4ヵ月で9%も減少していることがわかります。

また、心臓の大きさが明らかに小さくなっているため、心臓への負担が減っているともいえます。慢性心房細動の場合、大半の患者がこのような結果を得ています。

0.1%だが…合併症のリスクには注意

ひとつ注意してほしいのが、カテーテルアブレーションによる合併症のリスクです。

2019年、J-ABデータ(カテーテルアブレーション全国症例登録研究)に掲載された情報によると、カテーテルアブレーションによる死亡率は0.1%でした。つまり、1000人にひとりが亡くなられていることになります。この数字を高いと捉えるか、低いと捉えるかは人それぞれかもしれません。

実際のところ、他の手術と比べると、0.1%というのはそれほど高い数値ではありません。たとえば、心臓外科で行う手術に「冠動脈のバイパス手術」がありますが、この死亡率は2%程度です。また、腹腔鏡による胃や胆嚢の手術は、死亡率が0.5%ほどです。

しかしながら、死亡率は決してゼロではありませんので、いかに安全性を追求するかということが重要になってきます。

最もリスクの高い「心タンポナーデ」

もっともリスクの高い合併症が、「心タンポナーデ」です。

これは簡単にいうと、カテーテルが心筋を破ってしまう状態のことです。心筋を破ると、心臓を包んでいる心膜のあいだに血液や心嚢液が貯留し、心臓が圧迫されてしまいます。

その結果、心臓のポンプ機能が失われ、全身に血液を送り出せなくなり、血圧の低下や頻脈が起こり、ショック状態に陥ることもあります。

カテーテルアブレーションの治療中に心タンポナーデを発症する場合、カテーテルの圧が一定以上になり、心筋を突き破ってしまうというカテーテルの過度なコンタクトが原因です。心タンポナーデが起こった場合、短時間で致命的な状態に陥りかねません。

こうした事態を防ぐため、先述した「コンタクトフォース」のように現在の圧を視覚化できるカテーテルを使うことや、また、心臓のなかではゆっくりとカテーテルを動かすことが大切です。

カテーテルアブレーションを受けたい…病院選びのコツ

「カテーテルアブレーションの治療を受けたいけれど、どの医療機関でお願いしたらいいかわからない」。そう悩んでいる方も多いと思います。

これまでみてきたように、カテーテルアブレーションは近年、めざましい勢いで進化している治療法です。また、医師の技量や、治療に関わるスタッフのチーム力なども、成否に大きく関係しています。

そのため、医療機関を選ぶ際にはまず「年間あるいは開院以来の症例数」を確かめてください。必ずしも「多ければいい」というものではありませんが、症例数が多いことは信頼度の目安になります。

また、身近でカテーテルアブレーションを受けた人がいる場合は、どの医療機関で行ったか、対応はどうだったかなど、率直に尋ねてみるのがおすすめです。身近な人がおすすめするなら、病院に対する信頼度が高まります。その際には、スタッフの対応や回復の具合などもあわせて確認するとよいでしょう。

近年、カテーテルアブレーションは技術革新が進んだことに伴い、症例数も増えています。今後はもっと新しい機器が開発され、より安全で効率的な治療が可能になるかもしれません。

頻脈性の不整脈で悩んでいる人にとっては、まさに救世主といっていいほどの治療法です。ぜひ、迷っている方は治療を検討してみてはいかがでしょうか。

こちらの記事の監修医師

東京ハートリズムクリニック

桑原 大志

医学博士。

1984年愛媛大学医学部入学。1991年愛媛大学医学部第2内科入局、1992年愛媛県立中央病院勤務、愛媛大学医学部附属病院、愛媛県立新居浜病院、国立循環器病研究センター研修、2004年横須賀共済病院循環器センター勤務。2016年東京ハートリズムクリニック院長に就任。

不整脈治療を専門とし、カテーテルアブレーション治療では、世界トップクラスの実績を持つ。同クリニックでの2021年12月末現在の治療実績は2,000件以上。