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最終更新日:2022年5月17日

日本人に多い「胃がん」…予防・治療のために何ができる?最新の情報も含めて解説

こちらの記事の監修医師
仙台厚生病院
齋藤 宏章

(写真=PIXTA)

「胃がんを防ぐにはどうしたら良いのですか?」「ピロリ菌は退治したほうが良いのでしょうか」「新しい薬の開発は進んでいるのでしょうか?」…私は胃がんの治療に関わるなかで、患者さんからよくこのような胃がんの予防や治療に関する質問を受けます。日本人は年間で約12万人が胃がんに罹り、年間で約4万人が亡くなっています。いわば“胃がん大国”の日本ですが、私たちにできる対策はないのでしょうか? 胃がんに関して、最新の治療も含めて、少し詳しく紹介していこうと思います。

「胃がん」は世界的にも多いが、東アジアの罹患率は特に高い

胃がんは世界でも多いがんのうちの一つです。世界185ヵ国の36種の主要ながんをまとめた報告書(GLOBOCAN 2018)によると、2018年に胃がんは世界で103万人が罹患し、これは大腸がんや皮膚がんに次いで6番目に多いがん腫となっています。胃がんによって亡くなる人は78万人にのぼり、これは肺がんに次いで2番目に多い数でした。この数値は世界で、がんで亡くなる人の、12人に1人は胃がんで亡くなっていることになります。つまり、年間に発見される数も多く、亡くなる方も多いがんということです。

また、胃がんは地域によって、なりやすさに差があることが知られています。地域別にみると日本を含む東アジアは最も胃がんの罹患率が高いことが知られており、北米では10万人あたり、男女でそれぞれ5.6人、2.8人の発生件数であるのに対して、東アジアでは男女それぞれ32.1人、13.2人とおよそ6倍程度の発生件数であるとされています。

■胃がんの約9割に「ピロリ菌」が関与

胃がんに地域差があるのはなぜでしょうか。これは胃がんの主なリスクである、ピロリ菌の分布と対応すると言われています。日本を含む東アジアはピロリ菌を保有する人口の割合が高いのです。ピロリ菌は幼少期より胃に感染し、慢性胃炎を起こすことで、胃がんの発生リスクになることが知られています。およそ9割の胃がんにはピロリ菌が関与していると言われています。他にも、高塩分食や果物の摂取が少ないこと、アルコールや喫煙などが胃がんのリスクであることが知られています。

「ピロリ菌除菌」と「内視鏡技術」は胃がん予防に役立つ

実はピロリ菌ががんの原因であると認識され、対策が取られ始めたのはつい最近のことです。ピロリ菌は1982年に発見され、研究によって胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因であることが確かめられました。発見者のロビン・ウォーレンとバリー・マーシャルは2005年にノーベル生理医学賞を受賞しています。ピロリ菌が胃がんのリスクになることは判明していたものの、実際にピロリ菌を退治・除菌することが胃がんの発生を抑えるかどうかは分からなかったため、まずは胃潰瘍・十二指腸潰瘍の場合にピロリ菌を除菌することが現場に取り入れられました。これは日本では2000年のことです。その後日本から発信された、“早期の胃がんを内視鏡で治療した人にピロリ菌の除菌を行うと、その後胃がんが発生する割合を約3分の1に抑えられる”とした研究を足がかりに、ピロリ菌除菌による胃がんの予防が試みられ始めました。2013年からは、日本ではピロリ菌感染症と診断された場合には条件なくピロリ菌除菌が受けられるようになりました。

■実際、ピロリ菌除菌と内視鏡技術のおかげで「胃がんで死亡する日本人」は大きく減少

2021年に日本の研究機関から発表された論文によると、2013年から2019年に行われたピロリ菌除菌によって、将来的に約28万人の胃がんの発生が予防され、6万5千人の胃がんの死亡を防ぐだろうと推定されています。また、実は日本人の胃がんはすでに減少に転じています。がん登録データによると1970年代から年間で5万人前後が胃がんで亡くなっていましたが、2019年には約4万2千人と減少しています。内視鏡の精度の向上によって早期の段階で発見される胃がんが増えたことや、手術成績の向上などが考えられます。

最近では、胃がんは内視鏡治療が可能な状態で発見されれば、9割以上の人が完治することが可能になっています。ピロリ菌除菌をした方や、慢性胃炎がある方は定期的な内視鏡検査を受けることで胃がんによって命を落とすリスクをしっかりと下げられるワケです。

さらに最近では、全国のいくつかの自治体で、さらに若い世代、中高生のピロリ菌検査と除菌治療が取り組まれています。若い世代で除菌を行うことの効果ははっきりと分かっていないことも多いですが、2021年に国際誌に発表された研究では日本を含む9ヵ国で青少年に対してピロリ菌の検診の取り組みが行われていました。胃炎が進行すると除菌をしても胃がんを発症するリスクが高く残るために、早い段階で網羅的に除菌を行うことが将来の胃がんの発生を予防できるという観点です。中学生2年生のピロリ菌検診を行なっている横須賀市医師会の水野靖大医師は、今の検診制度の対象となっていない若い世代にも検診の機会を広げていきたいと取り組まれています。

抗がん剤の開発も進む…ここ数年で新薬が次々登場

胃がんに対する抗がん剤の開発はここ十数年で目覚ましいものがあります。胃がんの抗がん剤治療は長らく、5-FUとシスプラチンという薬剤やあるいはこれらを内服薬や他の薬剤に切り替えた治療薬が中心でした。これらの薬剤はいずれも1980年代以前に開発されたもので、長きにわたって初回選択の治療薬に大きな変化はありませんでした。それがここ数年で劇的に変化しています。

まず、2011年に分子標的薬のトラスツズマブが初回治療の選択肢に加わりました。これはHER2遺伝子というがん細胞の増殖に関わる遺伝子をターゲットとした薬剤で、治療前にHER2の発現が高いことを確かめた上で投与します。2010年に行われた臨床試験の結果では従来の薬剤に加えて投与することで、生存期間を約5ヵ月延長させる効果が認められています。

2021年には、皮膚がんや肺がんなどにすでに用いられていた免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブが、従来の抗がん剤と組み合わせる形で初回治療に用いられるようになりました。これはいわゆるがん免疫療法とされる薬剤で、これまでの抗がん剤とは異なる仕組みの薬剤です。

また、次に期待される薬剤も登場しています。たとえば、バイオテクノロジー企業のFive Prime社が開発したFGF受容体2B阻害薬のベマリツズマブは、将来有望な薬剤として関心が寄せられています。2021年に報告されたアジアや欧州、米国で行われた第2相試験の結果では従来の化学療法のみに比べると生存期間を6ヵ月延長させ、特にFGF受容体2Bを過剰に発現している患者では14ヵ月も上回っていました。まだ臨床試験の段階ですが、この結果を有望視したAmgen社はFive Prime社を19億ドルで買収しています。今後も胃がんを取り巻く抗がん剤治療の選択肢はより増えていくものと思われます。

病気は「生活習慣の積み重ね」。健康に気を配ることも大切

日本人は胃がんの多い集団ですが、ピロリ菌の除菌や、定期的な内視鏡検査によって胃がんの発病を減らしたり、早い段階で見つけたりすることが可能になっています。加えて、胃がんの他のリスクである高塩分食や果物の摂取が少ないこと、アルコールや喫煙などは、日々の生活習慣の積み重ねでもあり、これらを改善することも立派な予防になると言えるでしょう。

こちらの記事の監修医師

仙台厚生病院

齋藤 宏章

仙台厚生病院消化器内科

福岡県福岡市出身。福岡県立修猷館高校、東京大学医学部医学科卒業。
現在は宮城県仙台厚生病院消化器内科に勤務し、内視鏡をはじめとする消化器内科疾患全般の診療に従事。2019年より福島県立医科大学医学部博士課程にも所属している。

AIをはじめとする、内視鏡診断・治療に関わる研究や、消化器系のがん検診の実態と課題の解明に関わる研究、製薬企業の医師に対する謝礼金の実態を分析する研究など、医学領域の研究に広く取り組む。