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最終更新日:2022年5月5日

男性の「胸のしこり」は病院に行くべき?乳がんの可能性はある?

こちらの記事の監修医師
常磐病院
尾崎 章彦

(写真=PIXTA)

胸にしこりがあると感じたとき、女性であれば真っ先に「乳がん」を思い浮かべ、医療機関を受診しなくてはいけないと考えるでしょう。一方で、男性も胸のしこりを自覚するケースがあります。この場合、医療機関を受診するべきなのでしょうか? 男性であっても、乳がんの可能性は考えられるのでしょうか。

男性に「乳がんの発症リスク」はある?

日頃から、女性の方々が胸にしこりを自覚した場合には、速やかに医療機関を受診することがすすめられます。その理由は、無論、そのような場合に乳がんが疑われるからです。では男性が胸にしこりを自覚した場合、同じように医療機関を受診すべきなのでしょうか。

この質問に答えるためには、まず「男性も乳がんを発症する可能性がある」ことについて、理解する必要があります。男性読者の多くは、乳がんを自分とは無縁の病気と捉えているでしょうから、意外に思われるでしょう。

そもそもなぜ男性が乳がんを発症するのでしょうか。女性には発達した乳房組織があり、その中でも特に乳腺組織が、乳がん発生の素地になることが知られています。一方で男性には、傍目には、女性と同様の構造があるようには思えません。しかし、解剖学的には、男性にも少量ながら乳腺組織が存在しています。少量でも乳腺組織が存在する以上、乳がんを発症する可能性があるのです。

ただ、乳腺組織の少なさのためか、男性における乳がんの発症は極めて稀です。たとえば、2019年、米国においては、新規で268,600例の乳がんが診断されましたが、男性乳がんはそのうち1%に満たない2,670例に過ぎなかったと報告されています。また、生涯における乳がんの発症割合は、女性では8人に1人と報告されていますが、男性では1,000人に1人と推測されています。

私自身の診療経験でも、男性で乳がんを発症する方々は、かなり少ない印象です。実際、乳がんを専門としてから、これまでに自身が担当した男性乳がん患者はわずか1例に過ぎません。これまでに筆者は数百例の乳がん患者の治療に携わってきていることを考えると、男性乳がんの経験については、おおよそ米国での統計通りの数値と言えるでしょう。

このように、頻度という観点においては、男性が胸にしこりを自覚した場合に、女性と同じように乳がんを心配する必要はないと言えそうです。実際、私の乳腺外来にも、乳房のしこりを気にされて、しばしば男性の患者さんが訪れるのですが、そのほとんどのケースにおいて、乳がんが発見されることはありません(ほとんどのケースが女性化乳房という良性の疾患です)。

男性乳がんは発見が遅れがちで、死亡率が高い

ただ、男性であれば乳がんについて気にしなくて良いとは言い切れません。

というのも、男性乳がんにおいては、しばしば発見が遅れる傾向があるからです。実際、過去の調査において、男性乳がんにおいては、女性の乳がんに比較して進行がんで見つかる傾向があり、また、その死亡率も高いことが明らかとなっています。

一つの理由は、男性を対象とした乳がん検診が存在せず、無症状の段階で見つける仕組みが存在しないことです。一般に自治体の検診は、大腸がんや女性の乳がんなど、ある程度の頻度で発生するがん腫を対象として構築されています。その点、頻度の少ない男性の乳がんはその対象となり得ません。ですから、早期で診断するには、一人一人の男性が、乳がんに対しての意識を向上させるしかありません。

なお、先ほど私が紹介した患者さんには、乳がんと診断された娘さんがいたものの、自身が乳がんになるなどとは露ほども考えていませんでした。治療中の前立腺がんに関して、定期検診で実施したPET検査において、偶然にも左胸に腫瘤を指摘され、乳腺外科の受診に繋がったのでした。そして、幸いにも、ステージⅠ(しこりの大きさが2cm以下、リンパ節転移がない状態)で診断されました。十分に根治が可能な状態であり、腫瘤を取り除くための手術は実施されたものの、抗がん剤や放射線治療などは必要ありませんでした。

乳がんの発症リスクが高いのは、どんな男性?

以上を踏まえて、どういった男性において、乳がんが多いかを知っていただければ、的を絞った啓発が可能になるように感じています。一つ参考になるのは年齢です。米国の調査においては、男性乳がんの発症年齢は、女性と比較して高かったことが知られており(男性:67歳、女性:62歳)、高齢男性は注意が必要です。日本においては、欧米と比較して女性の乳がんの発症年齢が若いことが知られており、この結果をそのまま当てはめて良いかは議論の余地があります。ただ、今回の男性患者も70歳であり、日本においても、男性乳がんが、比較的高齢の方々に起こりやすいことは間違いなさそうです。

もう一点、考えるべきが、遺伝的な影響です。過去の研究により、男性乳がんの発症と関連する遺伝子変異の存在が明らかにされています。たとえば、BRCA1/2遺伝子の変異は、一般に女性において乳がんや卵巣がんの発症に関連することで知られていますが、男性乳がんの発症にも関連することがわかっています。なお、筆者は、この患者さんにおいて、BRCA1/2遺伝子の変異が認められる可能性は十分にあると考えています。なぜならば、男性乳がんの発症に加え、乳がんの家族歴や前立腺がんの発症があったからです。乳がんの家族歴がある場合にBRCA1/2遺伝子の変異が認められるリスクが上昇することは言わずもがなですが、前立腺がんの発症とBRCA1/2遺伝子変異が関連することも明らかにされています。

 

以上、男性乳がんについて概説しました。男性の方々においては、過度にそのリスクを心配する必要はないと考えますが、その存在を心の片隅に留めていただければ幸いです。

こちらの記事の監修医師

常磐病院

尾崎 章彦

常磐病院 乳腺外科医。福島県いわき市在住。いわきと南相馬で地域医療に従事しながら、震災に伴う健康影響の調査のほか、製薬マネーが医療に及ぼす影響などを調査している。

【経歴】
平成22年3月 東京大学医学部医学科卒業
平成22年4月 国保旭中央病院初期研修プログラム
平成24年4月 竹田綜合病院外科
平成26年10月 南相馬市立総合病院外科外科
平成30年1月 大町病院
平成30年7月 ときわ会常磐病院

【保有資格等】
日本外科学会 専門医
日本乳癌学会 乳腺専門医
日本消化器外科学会 専門医
検診マンモグラフィ読影認定
乳房超音波読影認定
新リンパ浮腫研修修了
JOHBOC E-learning セミナー修了
医師臨床研修指導医