最終更新日:2022年9月3日
部下や同僚がうつ病っぽい…受診を促すには?メンタル不調者への対応方法【メンタル産業医が解説】

こちらの記事の監修医師
合同会社パラゴン
櫻澤 博文

夏バテ、燃え尽き、冬季うつ…。夏場から冬にかけては、負の連鎖が起こりやすい時期です。前回の記事『メンタル不調でダウンする前に気づいて…頑張りすぎな人に現れる「危険信号」【メンタル産業医が解説】』では、メンタル不調がもたらす症状を紹介しました。それらの症状を示している同僚や部下がいた場合、どのように対応すればよいのでしょうか? メンタル不調をテーマとする“3Gシリーズ”、第2弾。本稿では「メンタル不調者への通院支援(Guide)」を解説します。
毎年9月10日~9月16日は「自殺予防週間」
9月10日の「世界自殺予防デー」からの一週間は、2006年10月28日に施行された「自殺対策基本法」と2007年6月に閣議で決定された「自殺総合対策大綱」にて、「自殺予防週間」と定められています。そこでは自殺に関する誤解や偏見をなくすために、行政と市民とは連携して、啓発活動を強力に推進することとなっています。
また「誰も自殺に追い込まれることのない社会」の実現に向け、相談事業及び啓発活動を実施することになっています。コロナ禍は3年間も続いていますが、自死はコロナ死より5.8倍も多いのです(詳細は前回記事をご覧ください)。自殺防止に向けて、一人ひとりの市民も、自殺対策に直結する支援が求められています。
メンタル不調を抱える人にできる「具体的な支援」
前回紹介した“頑張りすぎな人に現れる「危険信号」”がある方は、相当な苦悩だと思い至りませんでしょうか。本人は外出することさえ辛く、病院に行くことさえおっくうに感じているものです。しかも困ったことに、TVで報じられているようにコロナ禍で医療崩壊にある中では、通院させようと電話をしてもすぐに予約が取れるところばかりではありません。
予約なしに通院した場合でも、その日のうちにすぐ診てくれないクリニックさえあります。診てくれる場合でも何時間も待たされるのは当たり前です。何しろコロナ前でさえ、抑うつ性障がいなどの「気分[感情]障害(躁うつ病を含む)」の総患者数は127万人にのぼり、「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」の総患者数も79万人でした(厚生労働省『平成29年 患者調査』より)。対して、精神科医の数は平成30年度12月31日時点で約1万6000人、令和2年12月31日時点でも約1万6500人しかいません。しかも精神科医が対象としている病気は、認知症、依存症、自死未遂者…と多岐にわたります。現実の大変さはおわかりになりましょう。
従って、前回紹介した「把握可能な変調」が出た段階で、読者の皆様は当サイト・イシャチョクから把握可能な医療機関につなげる必要があります。
また、就労されている方でしたら、お勤めの会社に産業医がいるか確認するという方法もあります。産業医は医師ですから、紹介可能な医療機関を知っているもの。お勤め先の産業医に、どうしたらよいのか対応方法をご相談されてみてください。
しかしながら、産業医は毎日勤務しているわけではありません。中には、以下にあるように、産業医ではなく保健師に産業医の業務を代替するようなブラック企業さえあります。
その場合には、同僚や部下に対して以下の対応をとると大丈夫です。
会社であれば緊急連絡先や身元保証人を確認しているものです。そして、その緊急連絡先や身元保証人はご家族や友人といった親しい方が記載されているものです。その方々に連絡してみてください(9月1日の防災の日も近いので、この際、これら緊急連絡先や身元保証人が存在しているのかの確認もおすすめです)。
家族に通知するときは「伝え方」に注意
なお、ご家族に通知する場合に気をつけることがあります。産業医を始めとした医師に相談していない限り、“病気が疑われるので…”という話はしないでください。病気かどうかの判断は医師にしかできません。医師資格のない方が判断すると、“病人扱いされた!”との不満感を与え、しこりを残してしまう場合があります。
では、どのように通知すればよいのでしょうか?
ここで、前回ご紹介した“頑張りすぎな人に現れる「危険信号」”のうち、定量化しやすい15項目を取り上げます。
これらをより具体的に把握し、たとえば「全15項目のうち8項目も当てはまっている」というように、数値で表現してもらうようアレンジしてください。
□仕事の能率が低下した
□仕事のミスが増えた
□イライラしがちで、ちょっとしたことでも腹を立てている状況にある
□決断力が低下している
□物事を悪いほうに考えたり、捉えたりする傾向に陥っている
□自分を責める、あるいは他人に責任転嫁しがちになっている
□仕事中の居眠りがみとめられる
□整容(洗顔や整髪、髭剃りなどの身だしなみ)が不足するようになった
□新聞や社内回覧雑誌、書類が停滞している
□机の上や作業場が散乱している
□“眠い”、“疲れた”といった発言に代表される意欲の低下がみられる
□声をかけると“心配ない”、“大丈夫だ”と、か弱い声で答えるので、かえって心配を募らせている現実がある
□他人が心配すると、“休むと、かえって仕事がたまる”、“私がやらないと誰もやってくれない”と、無理に出勤しようとする困った状況にある
□遅刻や早退しがちな現実がある
□無断欠勤する
また、数値で定量化した内容を根拠にすると、話は通じやすいものです。
最後の2つは、合わせ技にすることが可能です。たとえば所定労働日数を分母に、欠勤は1、遅刻か早退は0.5としたうえで、分子には所定労働日数からこれら欠勤や遅刻、または早退した日数を減じた数で示す勤怠率を求め、それを折れ線グラフや棒グラフにする、という手法もわかりやすい表記方法です。
こういった数字は、会社であれば人事労務担当者が把握しています。その人事労務担当者や産業医、産業医がいない場合には、「衛生管理者」や「安全衛生推進者」(いずれも会社で安全衛生を担う、労働安全衛生法で定められた資格です)より「会社として当人の体調を心配していて、無理に仕事をさせられる状況にない」という旨を、ご家族を筆頭とした緊急連絡先や身元保証人に伝えてもらうよう提案してみてください。
こういった配慮や支援があると、身元保証人であるご家族からも、主治医に相談しやすくなります(何しろ辛さを抱えるご本人は、自身の状況について、理路整然と根気よく説明するだけの気力も体力もありません)。
なおご家族主導で、以下の【生活記録表】をつけてもらう方法もあります。通院先の医師に提示することで、その医師も、当人の体調を個別具体的に把握しやすくなります。毎日、その日の体調や気分、熟睡度、食欲といった項目について、一番良いときをプラス10、一番悪いときはマイナス10として、記録し始めてもらいましょう。

一般的に通院を促しやすくする言葉かけは以下になります。
「一緒についていくから」
「医者から“心配ない”と言ってもらったら、あなたも、みんなも、安心するよ」
こうした声かけをしながら、一緒に通院(同伴通院といいます)してください。
いわゆるうつ病(専門用語では抑うつ性障がい)になると判断力や決断力が低下します。そのため、支援者が意識するポイントは、調子が悪くても決められた日時に通院できるような支援を提供することです。具体的には、調子が悪いのであればタクシーを呼ぶなど、早め早めの支援が大切です。
今回のワンポイント:同伴通院のメリットとは?
(1)同伴通院のメリットの1つは、病気で落ちてしまった考える力や表現力を補えることです。
ご本人は、いつから・どんな症状が出ているのかを整理するのが辛かったり、特定の症状に敏感になったり、逆に鈍感になっている症状については主治医に伝えられません。同伴通院することで、それらをより客観的に伝えることが可能になります。
(2)2つ目は、治療内容や方針、回復に要する期間を正確に把握しておくことで、理解力が低下した労働者本人の支援が可能になります。どのような支援が必要なのか、適切なアドバイスが得られます。
(3)3つ目は通院しづらさの解消です。行き慣れていない道を歩くだけでも不安になりますし、待合室で独りで待っているだけでも心細くなります。本当に治るのだろうかといった恐れが、心を苦しめます。同伴通院はそういうときの支えになれるのです。
(4)最後は、医師からの治療内容をより良いものにする場合があるということです。何しろ医師は、忙しい外来の中、限られた診察時間において判断を下さないといけません。患者さん本人からの断面写真的な情報だけではなく、家族や企業からのより多い情報があったほうが、より的確に状況を確認できます。このように主治医側の苦悶をも解消できるメリットがあるのです。
同伴通院には、ご家族やご友人だけでなく、たまには企業の人事労務担当者か上司も同行してもらうと良いでしょう。
メンタル不調は長期戦です。支援者が多いほど、一人当たりの負担は少なくなります。
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こちらの記事の監修医師
合同会社パラゴン
櫻澤 博文
医師、労働衛生コンサルタント、日本産業衛生学会指導医、メンタル産業医学の創設者。
産業医科大学医学部卒業、京都大学大学院社会健康医学修士号や医学博士号を取得。
その後世界的ITコンサルタント会社にて、時給10万円もの経営コンサルタントから把握し得たハイパフォーマンスの実現方法を分析。
うち「早寝・早起き・朝ご飯」という滋養作用には、確かにストレス耐性を向上させる効果が把握し得たので、複数の英文学術誌が紹介。
「運動」による強壮効果については指導員資格取得やスキーレース大会出走と自身の肉体を通じて検証中。
2013年プロフェッショナル産業医のみを集めた職能集団 合同会社パラゴンを設立し、企業に対して「ストレスをプログレスに」「正しいことを正しく」「best among the best」を主是とした「健幸経営」という労務、人的資産(人財)管理を産業医として提供中。
広く市民にもアンチエイジング効果ある認知症支援方法を以下の書籍、メディアや講演などを通じて提供中。
【主要書籍】
『働きやすい職場づくりのヒント』(金剛出版、監修・共著)
『もう職場から“うつ”を出さない』(労働調査会)
『メンタル不調者のための復職・セルフケアガイドブック』(金剛出版)
『「メンタル」産業医入門』(日本医事新報社)
遺言作成時の立会や不動産譲渡時の認知機能評価サービスも展開し、相続の争族化防止という公益性ある支援にも邁進している。
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