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最終更新日:2022年5月14日

いつ、どこでマスクを着用するべきか?米国民が「脱マスク化」で直面した難題

こちらの記事の監修医師
星槎グループ医療・教育未来創生研究所
大西 睦子

(写真=PIXTA)

米国で「公共交通機関でのマスク着用義務」が撤廃

米国では、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の対策として、公共交通機関でのマスク着用が義務化されていました。ところが2022年4月18日、トランプ前大統領が任命したフロリダ州のキャサリン・キンボール・ミゼル連邦地裁判事が「違法」と判断。この判決により、バイデン政権が計画していた「5月3日までマスク着用義務の延長」は覆されました。

これに対して、米疾病対策センター(CDC)は「現時点では、引き続き公共交通機関の屋内輸送通路でのマスク着用を推奨する」と表明。ところが、ユナイテッド航空、デルタ航空やアメリカン航空などの航空会社、リフト、ウーバーやアムトラックは次々に、マスク着用は旅客が自由に選択できると発表しました。

またこの判決により、地方自治体の交通機関は、旅行者にマスク着用を義務付けるかどうかをそれぞれ判断することになりました。ワシントンポストによると、たとえば、ワシントンDC地域の公共交通機関はマスク着用義務を取り消しました。一方、シカゴ、ニューヨーク、フィラデルフィアの空港は、マスク着用義務を継続することを発表しました。

 

※1 https://www.washingtonpost.com/travel/2022/04/20/question-travel-mask-mandate/

米国民の間でも「マスク着用義務の撤廃」は賛否両論

マスク着用義務化の終了について、米国民の意見は分かれています。

カイザー・ファミリー財団の世論調査(2022年3月15日〜22日)では、「成人の10人に6人が、新型コロナ感染の急増を避けるために公共の場でマスクの着用を続けるべき」と回答しました。

特に支持する党派によって答えが分裂しました。民主党支持者は続けるべきという考えが強く(感染拡大を最小限に抑え、患者の急増を避けるため、一部の公共の場ではマスクの着用を継続すべき=85% vs. 通常の生活に戻るために、ほとんどの公共の場でのマスク着用をやめるべき=14%)、共和党支持者ははるかに少ないという結果になりました(同30% vs. 69%)。

また、重篤な健康状態にある人のほとんどは、義務付けは維持されるべき(同65% vs. 34%)と考えています。ワクチン接種を受けた人、つまり重病や死亡のリスクが最も低い人は、義務化の延長を支持する傾向が高いです(同67% vs. 33%。ちなみにワクチン未接種では、同29% vs. 67%)。

このような中、私は日本への一時帰国を終えて、2022年4月21日に米ボストンへと戻りました。成田国際空港からニューアーク・リバティー国際空港行きのユナイテッド航空の機内に搭乗すると、「先日、米国では機内におけるマスクの着用義務がなくなりましたが、この飛行機は、東京発なので、東京・ニューアーク間ではマスクのご使用をお願いします。ニューアークでのご着用はご自由です」という放送が流れました。つまり「マスクの義務は終わり」は米国内での声明であり、国際線は出発する国や航空会社の規則が適応されるようです。

そして乗り継ぎのニューアーク・リバティー国際空港に到着すると、マスクをすぐに取った人、そのまま着けていた人は半々くらいの割合でした。ところがニューアークからボストンへの国内線に乗り換えると、マスクを着用している人はほとんどおらず、着用者は約5%くらいでした。カイザー・ファミリー財団の世論調査のときより、さらにマスク着用を支持する人が減ったように感じました。

着用義務の撤廃で「感染再拡大」より懸念されること

実は、今回のマスク義務の撤廃について、「公衆衛生上の影響より、撤廃方法がもたらす問題に懸念」が生じています。2022年4月20日のアトランティック誌にて、レイチェル・ガットマン氏は次のように述べました。

「ある意味、交通機関についてのマスク着用規則は、他のマスク着用義務よりも公衆衛生上重要でないはずです。交通機関以外で働く人の多くにとって、駅やバス、飛行機などで過ごす時間は、マスク着用義務のある職場と比べると比較的少ないと思われます」

「ハーバード大学ヘルシー・ビルディング・プログラムの責任者ジョセフ・アレン博士によると、一般に電車や飛行機は、レストラン、オフィス、家庭よりも換気が良いとのこと(ただしこれは空調システムが実際にオンになっている場合に限られ、飛行機が滑走路にいる間はオフになっている傾向にあります)。バスでは、運転手が空気循環モードにしているかどうかで換気量が変わります。アレン博士は『長い間、飛行機内の危険性に注目が集まりすぎていた』といいます。飛行機はスーパースプレッディング現象*が起こっている場所ではないのです」

*スーパースプレッディング現象…平均を大きく超えた二次感染を引き起こす現象のこと。スーパースプレッディング事例とも。

 

「広い意味では、交通網のマスクの義務をやめても、パンデミックにそれほど大きな影響はないでしょう。ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院の疫学者デビッド・ダウディ博士は、『仮にアメリカの主要都市で地下鉄やバスのマスク着用率が突然10%に低下しても、患者や入院の増加はおそらくわずかで、現在の監視システムでは検出できないレベルでしょう』と教えてくれました」

「私が話を聞いた専門家は皆、政策の変更そのものより、その変更がどのように行われたかのほうが重要であると述べました。マスク着用義務以外のパンデミック規制は一般に、それを制定した当局が期限切れを許容するか、廃止を行ってきました。ところが公共交通機関におけるマスク着用の義務化は、CDCによって実施され、フロリダ州の連邦判事によって廃止されたのです。これに対して、アレン博士は『次に何か予測不可能なことが起きて、CDCによる義務付けが必要になったとき、その権限に疑問符がつく』と語っています。司法省はフロリダ連邦地裁の判決を不服として控訴しましたが、もし敗れた場合――特にこの訴訟が最高裁まで持ち込まれたとしたら、連邦政府による規制制定はこの夏以降もずっと制限されることになるでしょう」

 

※2  https://www.theatlantic.com/health/archive/2022/04/cdc-mask-mandate-transportation-planes/629614/

バイデン大統領、公共交通機関でのマスク着用は「乗客の判断に委ねる」

ワシントンポストによると、ホワイトハウスはマスク義務化が撤廃されてから2日間、法的戦略に関する質問を先送りしました。政府関係者は、「特に中間選挙の年、多くのアメリカ人がパンデミックを乗り越えたいと言う中で、マスク着用義務化を支持する裁判が政治的・政策的にどのような意味を持つのか」に頭を悩ませていたようです。そして議論が続く中、米当局は「交通機関でのマスク着用に関しては自己責任である」と、そしてバイデン大統領は、4月19日、公共交通機関でマスクを着用するかどうかは「乗客の判断に委ねる」と発表しました。

※3 https://www.washingtonpost.com/health/2022/04/20/cdc-seeks-mask-mandate/

 

公衆衛生関係者は、この判決によって「致命的な病気の広がりを抑え、公衆衛生を守るための予防策を講じるCDCの権限が危うくなる」ことを懸念し、外部の専門家はバイデン政権に行動を起こすことを促していました。ジョージタウン大学国際保健法ローレンス・ゴスティン教授は、「CDCは常に肩身の狭い思いをすることになり、権限を行使することに常に臆病になる」と言います。教授はホワイトハウスの顧問であり、政権に控訴するよう促しています。

実際、新型コロナの感染リスクはどうなのか?

いずれにしても米国では、感染者数が再び増加し始め、より多くの感染が報告されなくなったとしても、今後、その責任は個々に委ねられます。自分や周囲の人が、新型コロナウイルスに対してどれほどのリスクに直面しているか、そして、もしリスクあるとすれば、どうすべきかを自分で決めていかなければなりません。

そこで、実際、新型コロナの感染の危険はどうなのか?というのが気になるところです。とはいえ、パンデミックから2年以上経ったものの新型コロナはまだ新しく、感染によってもたらされる脅威を測定するのは非常に難しいというのが現状です。テキサス大学健康科学センター公衆衛生学部疫学部門助教授ケイトリン・ジェテリーナ博士は、自身のニュースレター「Your Local Epidemiologist」で次のように語ります。

「(感染の)波の終わりに近づいています。CDCは指針を変えています。学校はマスクの義務付けを撤廃しつつあります。2億5,300万人以上が少なくとも1回分のワクチンを接種しています。多くのことが変化していて、今日と2020年3月とでは状況がまったく違います。多くの人々は自分自身のリスク許容度を振り返り、再調整をしています」

「パンデミックを通じて、(私を含む)公衆衛生の専門家は、リスクを正確に伝えるという点で、ひどい仕事をしてきました。先週のニューヨーク・マガジンの記事には『公衆衛生には、米国人が“この人ならリスクについて考えてくれる”と思えるような声は一つもない…このような官僚的な臆病さと慎重さは…かなりの損害を与えている』とまで書かれていました」

「人間の脳にとって、非常に小さな数と非常に大きな数を関連付けることは不可能に近い。ですから、リスクを正確に、偏りなく伝えることが重要です。ただし、リスクコミュニケーションの欠如は、官僚が臆病だからというわけではありません。リスクは多面的であり、定量化が難しく、さらに伝達が難しいからです。特に感染症では、リスクは時間とともに変化し、人によっても異なるため、個人レベルのリスクと集団レベルのリスクを比較検討する必要があるのです」

「それでも、この投稿はその課題に答える試みです。新型コロナの定量的、平均的なリスクを多面的に考える一助になればと思います」

そして、ジェテリーナ博士は、マイクロモルト(MM)と呼ばれるリスクの標準単位を使いてリスクを測定しました。1MMは、100万分の1の確率で死亡すると推定されることを表しています。

 

※4  https://yourlocalepidemiologist.substack.com/p/understanding-risk?s=r

18-49歳のワクチン接種者が「オミクロン感染で死亡するリスク」は、年内に路上で死ぬリスクより低い

MMは標準化されているので、ある活動を別の活動と比較することができます。たとえば、米国で2人の子供を出産するリスク(420MM)は、バイクで2800マイル(米国内横断)走るリスク(448MM)とほぼ同じです(図表1)。

[図表1]リスクの見積もり
『Your Local Epidemiologist』、2022年4月17日発行の『The New York Times』を参考に筆者作成

 

※5 https://yourlocalepidemiologist.substack.com/p/understanding-risk?s=r

※6 https://www.nytimes.com/2022/04/17/science/covid-risks.html

 

新型コロナの感染が確認された後のMMもおおまかに計算することができます。たとえば、ジェテリーナ博士が、2022年1月第1週の年齢別、ワクチン接種率別の症例と死亡率のCDCデータを引っ張り出して何度も計算した結果、図表2のようになりました。

[図表2]新型コロナ感染後のMM(年齢別、ワクチン接種状況別)
筆者が「Your Local Epidemiologist」を参考に表を作成

結局、マスクは着用するべきか否か?

新型コロナが米国で増加する中、「マスクを着用すべきかどうか、いつ・どこで着用すべきか」について多くの混乱が生じています。

ニューヨークタイムズ(NYT)で議論されているように、混み合ったコンサートやスポーツ会場以外は「歩道や公園など、屋外の空間では、フェイスカバーの保護効果を示す科学的根拠はほとんどありません」。確かに私が住んでいるボストンでも、屋外ではマスクを着用している人はほとんど見かけなくなりました。

※7 https://www.nytimes.com/article/mask-mandates-guidelines.html

 

CDCは「住んでいる地域の新型コロナの感染状況に応じて」マスクの着用についてのガイドラインを公表しています。具体的には、CDCの以下のサイトに州と郡を入れると、住んでいる地域の感染状況がわかります。

※8 https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/your-health/covid-by-county.html

※9 https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/prevent-getting-sick/about-face-coverings.html

 

たとえば、私が住んでいるマサチューセッツ州ミドルセックス郡では、今日のコミュニティレベルは「中」です。そこで「重症化するリスクの高い人と一緒に住んでいる、または社会的に接触する場合は、集まる前に検査すること、屋内で一緒にいるときはマスクを着用することを検討してください」と示されます。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の医学部教授兼学科長であるロバート・ワクテル博士は、マスクを着用すべきかどうか、またいつ着用すべきかについて、上記のNYTに、「これは最も難しいこと。なぜならば、自分にとってのリスクとメリットだけではないからです。あなたの周りの人々にとってのリスクと利益なのです」と語ります。

この問題を考える上で良い方法となるのが、「自分の身近にいる最も弱い人は誰か?」という問いです。

たとえば、免疫力が低下している人、あるいはそのような人と同居している場合、特にウイルスが集まってくるような空気のある屋内では、マスクを着用し、知らない人とは社会的距離を保つことを続けるのがよいでしょう。また、ワクチン未接種の人や、ワクチン未接種の人と一緒に過ごす場合にもマスクは重要です。ワクチン未接種の人は、新型コロナで入院や死亡するリスクが圧倒的に高くなります。弱者が多い病院内でもマスクは必須です。

しかし、それ以外の健康な人で、ワクチン接種とブースター接種を受けていれば、新型コロナで重症化するリスクは極めて小さいのです。車の運転など、人々が日常的に冒す他のリスクとほぼ変わりません。

以上のように、米国ではマスクの着用について、空間、人混み、空気の流れ、地域の感染状況、身近にいる人と自分の健康状態などを考慮し、各自が判断することになったのです。

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こちらの記事の監修医師

星槎グループ医療・教育未来創生研究所

大西 睦子

内科医師
医学博士
星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

米国ボストン在住。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年から13年まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。

【主な著書】
『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)
『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)
『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)

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