最終更新日:2021年8月24日
腎盂腎炎の症状を解説|腎盂腎炎は女性がなりやすい命に関わる感染症?腎盂腎炎の検査方法や治療法もご紹介

こちらの記事の監修医師
医療法人菁莱軒田中医院
鈴木歩

腎盂腎炎は膀胱炎と同じ尿路感染症で、腎臓と尿路のつなぎ目である「腎盂」に炎症を起します。
膀胱炎と間違われやすい病気ですが、腎盂腎炎は尿道に入り込んだ細菌が膀胱にとどまらず腎臓に達しているのが特徴です。
体の構造から男性よりも女性の罹患率が高く、この点も膀胱炎によく似ています。
急性腎盂腎炎の場合は進行が早く、ときには命に関わる合併症を起すこともあるため、特徴的な症状を確認して早期発見につなげましょう。
腎盂腎炎の症状や検査方法、治療法などを幅広くご紹介します。
腎盂腎炎の主な症状

腎盂腎炎はそれほど珍しい病気ではありません。初期症状は膀胱炎に似ていてそれほど強い症状が出ないため放置しがちです。
しかし腎盂腎炎は進行が早く、治療開始が遅れると症状が一気に悪化する可能性があります。
主な症状を確認して見逃さないようにしましょう。
膀胱炎に似た症状
腎盂腎炎と膀胱炎に共通する症状として排尿痛が挙げられます。またトイレが近くなる頻尿や残尿感も類似の症状です。
細菌に感染すると免疫システムが働き、細菌と戦うために白血球が炎症部位に集まります。
尿路感染症では尿が白っぽく濁って見えることがありますが、これは細菌のせいではなく白血球によるものです。
このような症状に加えて頻尿・残尿感・血尿といった症状が現れることもあります。
こうした症状は腎盂腎炎でも膀胱炎でも見られるため、これだけでどちらの疾患か断定することはできません。
発熱・高熱
腎盂腎炎と膀胱炎の症状の大きな違いとして挙げられるのが「高熱」です。一般的に膀胱炎では高熱が出ません。
腎盂腎炎は膀胱炎よりも炎症の程度が強いため、ときに38度以上の発熱症状が見られます。発熱は2~3日程度続き、悪寒や震えが出るほどの症状も珍しくありません。
完全に熱が下るまでに時間を要することもありますが、あまりにも熱が下がらない場合は腎盂腎炎から「腎膿瘍」や「腎周囲膿瘍」への移行が疑われます。
全身のだるさ・痛み
腎盂腎炎の特徴的な症状としては全身のだるさや痛みが挙げられます。
腎臓は体の背面、腰から背中にかけての位置に左右一つずつ存在する臓器です。腎盂に炎症が起きるとこの部位に痛みが生じます。
また何もしなければ痛みを感じない場合でも体の外側から叩くと痛みを強く感じることがあり、これを「叩打痛」と呼びます。
叩打痛の確認は腎盂腎炎の診断方法の一つです。
吐き気や嘔吐
吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
腎盂の炎症が悪化するとともに腹部側にある腸に炎症の影響が出始め、腸の動きが鈍化することが原因です。
腎盂腎炎の原因と女性に多い理由

腎盂腎炎は男性よりも圧倒的に女性の罹患が多く、その比率は1:30ともいわれます。
なぜ女性の方が腎盂腎炎にかかりやすいのでしょうか。
身体的構造が原因
男性に比べて女性の尿道は短く、男性の5分の1程度です。そのため細菌が膀胱や腎臓に到達しやすい構造だといえます。
さらに尿道と膣・肛門が近いのも原因です。
腎盂腎炎の原因菌としては大腸菌が最も多く検出されており、これは尿道と肛門の近さによるものだと考えられています。
トイレを我慢するのが原因

女性は男性に比べて尿意を我慢する傾向です。
特に他者の目が気になる職場や集団生活の場では、恥ずかしさからトイレに行く回数が減る方が多くいます。
このことから水分摂取も控えるため、膀胱内の尿は濃縮された状態です。
万が一膀胱内や尿道に細菌が侵入しても排尿によって除去できますが、尿意を我慢する状況が長く続くと細菌が徐々に増殖していきます。
腎盂腎炎の感染経路

腎盂腎炎には3つの感染経路があり、そのほとんどが尿道付近からの感染です。これを「上行性感染」と呼びます。
上行性感染
腎盂腎炎の上行性感染は尿道口から侵入した細菌が尿道を逆行して膀胱に至り、そこから更に尿路をさかのぼって腎盂に至ることで成立します。
細菌が入り込んだ初期段階では排尿によって細菌を洗い流すことが可能です。
血行性感染
別の感染症によって血液に入り込んだ細菌が腎盂で炎症を起こす「血行性感染」もまれに起こります。
腎臓は体内のろ過装置としての機能を持っており、血液の中にある不要物をろ過して尿を作る臓器です。
尿はすぐに流れていかず一旦腎盂に溜められます。ここで細菌が増殖し腎盂に炎症を起こす可能性があるのです。
腎盂の炎症だけでなく、原因となった感染症や感染部位を特定して治療を実施します。
リンパ行性感染
リンパ管は全身に張り巡らされており、血液と同様常にリンパ液が流れています。
リンパ液に侵入した細菌が腎盂に達することで起きるのが「リンパ行性感染」です。
重症化して命に関わるケース

腎盂腎炎は症状が軽ければ抗菌剤の服用で治療が可能です。
しかし症状が悪化してから治療を開始すると重症化し、場合によっては命にかかわることもあります。
菌血症・敗血症
ろ過装置である腎臓には全身の血液が集まり、ろ過後のきれいな血液は再び体の各場所へと戻っていきます。
腎盂腎炎が悪化した場合は細菌増殖が加速して血液中に細菌が侵入しやすく、血流に乗って全身に拡散されてしまうのです。
血液に細菌が侵入した状態は菌血症と呼ばれています。
免疫が正常に機能すれば血中の菌は排除され、菌が増殖することはありません。
しかし抵抗力が弱まっている状況では菌が増殖し、全身に重篤な症状が出る「敗血症」に移行することがあります。
敗血症はあらゆる臓器の機能を破壊していくため、非常に危険な状態です。
DIC(播種性血管内凝固症候群)
腎盂腎炎から菌血症に移行すると、更にDICを併発することがあります。
全身の血管で血液の塊=血栓ができ、多くの臓器に血液が届かなくなる病気です。この結果多臓器不全となり死に至るケースもあります。
腎盂腎炎の検査の流れ

腎盂腎炎が疑われる場合、どのような検査をするのでしょうか。
腎盂腎炎は診断がおりた後にも状態把握のために検査を実施します。
基本的な検査
腎盂腎炎の可能性があって受診した場合、まずは問診とバイタルサイン測定、身体診察を実施します。
問診では現在の症状を把握するだけでなく、その症状から腎盂腎炎以外の病気の可能性を考えるためにも非常に重要です。
また腎盂腎炎の特徴である背中の痛み「叩打痛」の確認も実施します。
腎盂腎炎の可能性が高い場合、診断上欠かせないのが「尿検査」です。
腎盂腎炎になると白血球数が増加します。尿検査ではその白血球の数に加え、たんぱく質、潜血の有無を調べるのです。
重症化している場合の検査
腎盂腎炎の発見が遅れて重症化した場合、基本的な検査に加えて血液検査も実施します。
炎症の程度や腎臓・肝臓といった臓器の状態、脱水症状の有無などを把握することが目的です。
また菌血症や敗血症が疑われるときは血小板や凝固因子の異常を確認し、治療方針を決定します。
腎臓の機能が低下している場合の検査

腎盂腎炎の所見とともに腎機能の低下が確認された場合、腎盂腎炎以外の病気が隠れている可能性もあります。
こうしたケースでは腹部超音波検査やCT検査が必要です。腎盂だけでなく腎臓や肝臓など周囲の臓器に影響が及んでいないか、腎盂の形状変化や尿路の閉塞などがないか確認します。
腎盂腎炎の治療方法

腎盂腎炎の初期に治療が開始できれば症状が軽く、抗菌薬の投与だけで治療できます。抗菌剤は内服か点滴による投与がほとんどです。
治療の期間の目安は1~2週間程度で、再発のリスクを考慮して1~2週間後に病院で再び尿検査を行います。
抗菌剤の内服で治療を行う場合、処方された薬は必ず飲み切ってください。
抗菌剤の効果で一気に症状が良くなると「完治した」と思いがちですが、体内にはまだ細菌が残っています。
再発のリスクが高くなりますので必ず最後まで飲み切りましょう。
また治療中は安静を心がけ、水分を十分摂取してください。
水分を多く摂ることで尿が生成され、頻繁に排尿すれば膀胱内や尿路の細菌を洗い流すことができます。
腎盂腎炎の症状が強く出ている場合、あるいは合併症がみられる場合は入院が必要です。
原因菌を特定して適切な抗菌剤を選択・投与しながら、腎臓だけでなく他の臓器への影響を食い止める治療が実施されます。
重症化する前に速やかに医療機関を受診

腎盂腎炎は急速に悪化するケースが少なくありません。
重症化を防ぐためには早期発見・早期治療が重要です。
医療機関を受診するタイミング
過去に腎盂腎炎を罹患したことがある方はすぐに医療機関を受診してください。
腎盂腎炎にかかったことがない方は膀胱炎と間違えてしまい、受診のタイミングを逃すことがあります。
腎盂腎炎と膀胱炎の症状で大きく違うのが発熱や悪寒、そして腰背部の痛みです。
膀胱炎のような症状とともに上記の症状が出ていたら、迷わず医療機関を受診しましょう。
腎盂腎炎は進行が早い病気
腎盂腎炎は自然治癒せず、発症の初期段階では多少の熱っぽさを感じる程度でも、早ければ数時間後には強い症状が出ることもあります。
腎盂腎炎は進行が早い病気なのです。
急速に症状が悪化する場合は細菌の増殖力が強いことが予想されるため、菌血症や敗血症に移行する恐れもあります。
できるだけ早く医療機関を受診して治療を開始することが大切です。
まとめ

腎盂腎炎は膀胱炎と間違えやすく、初期の段階で気付かなければ急速に症状が悪化していく可能性があります。
女性は体の構造上腎盂腎炎にかかりやすいため、膀胱炎のような症状が出たら熱がないか、腰のあたりにおかしな痛みがないか確認しましょう。
また尿意を我慢する傾向が強いのも女性です。
万が一細菌感染を起した場合でも排尿によって菌を取り除くことができるため、尿意は我慢せず、水分摂取も積極的におこなってください。
日頃から体を清潔に保つことを意識し、膀胱へ細菌が侵入しないように気をつけながら生活しましょう。

こちらの記事の監修医師
医療法人菁莱軒田中医院
鈴木歩
〇病院名 :医療法人菁莱軒田中医院
〇医師 :鈴木歩
〇アクセス:青森県三戸郡五戸町鍛冶屋窪上ミ33-2
〇診療科 :内科 / 在宅療養支援診療所
〇経歴:平成13年 自治医科大学卒業
平成13年 青森県立中央病院
平成15年 田子病院
平成17年 むつ総合病院
平成19年 八戸赤十字病院
平成20年 大間病院 副院長
平成22年 八戸赤十字病院 内科副部長
平成26年 八戸赤十字病院 内科部長
平成29年 医療法人菁莱軒田中医院院長
日本内科学会認定医
消化器内視鏡学会専門医
消化器病学会専門医
消化管学会専門医
日本プライマリ・ケア連合学会認定医
日本がん治療認定医機構認定医
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