最終更新日:2022年2月22日
紫外線は敵!…美意識の高まりがもたらした「不妊」の弊害【医師が警鐘】

こちらの記事の監修医師
新百合ヶ丘総合病院
袴田 拓(はかまだ・たく)

晩婚化や働き方の多様化から「不妊」に悩むカップルは多くいます。不妊の要因はさまざまですが、そのひとつに「栄養不足」が挙げられると、新百合ヶ丘総合病院の袴田拓氏はいいます。また、袴田氏は現代女性の「美意識の過剰な高まり」が、栄養不足の一端にあると警鐘を鳴らしています。不妊解決のカギを握る要素について、「栄養」の観点から詳しくみていきましょう。
目次
不妊解決に重要なカギとなる「ビタミンD」の効果
前回は、不妊の大きな要因と考えられる女性の鉄欠乏問題について、日本ではまだあまり普及していない「分子栄養学」の視点から解説しました。
妊娠成立に重要なカギを握る栄養素は他にもあります。日光の紫外線を浴びることで体内に合成されるビタミンDもその代表格です。
もともと腸のカルシウム吸収を促し骨を丈夫にする栄養素として有名でしたが、近年は研究がさらに進み、より多くの機能性(免疫向上など)を発揮することが判ってきています。
ビタミンDは卵巣の機能を向上させ、子宮内膜の状態を改善することで、女性を妊娠体質へ導いてくれることが数多くの論文で述べられています。
“紫外線は敵!”美意識の高まりがもたらした現代女性の「ビタミンD不足」
血液検査で「25(OH)ビタミンD」を測定すれば、ビタミンD血中濃度を評価できます。20ng/ml未満ではビタミンD欠乏と評価されますが、残念ながら現在日本の出産適齢期女性の大半はビタミンD欠乏です。
戦後の日本人女性は美意識の高まりから紫外線を避ける習慣をエスカレートさせてきました。その風潮を作り出し商品開発を進めてきた美容業界、さらにコロナ感染防止のためとはいえ無批判にステイホームを強調し続ける政府・自治体関係者には、日光が人体にもたらす重要な効果について再検討いただく必要がありそうです。
またビタミンDは実はコレステロールを原料として合成されます。コレステロールは動脈硬化に関連するとしてやもすると悪者扱いですが、悪者どころか女性ホルモンの原料でさえあります。妊活中の女性にとって極めて重要な栄養素ですから、過剰な抑制対策は慎む必要があります。
ビタミンDを増やす方法…効率的に摂取したい場合はサプリメントを
ビタミンDを増やす方策として、適度に紫外線を浴びることのほかに食材から摂取することもできます。主に魚類やキノコ類が推奨されますが、かなりの量を摂取しないと必要量をまかなうことはできません。妊活中など、ある程度速やかにビタミンD濃度を増やしたい場合はサプリメントを用いるのが現実的です。
日常的なエネルギー危機…妊娠に悪影響な「低血糖」
不妊でお悩みの女性を内科的に診察していて次に目立つのは、低血糖体質の方です。血糖値、すなわち血液中のブドウ糖濃度が低くなるということは、身体がエネルギー源不足に陥り生存の危機に向かうということです。身体はその危機に反応してアドレナリンを緊急分泌させることで血糖値を上昇させます。
アドレナリンとは緊張ホルモンですから、発汗、動機、口渇、手の震えなどをともに引き起こし、就寝中では中途覚醒、悪夢、歯ぎしりなどにつながります。
低血糖体質の女性は日常的にエネルギー危機に瀕しているわけですから、当然卵子も同様の危機にさらされ妊娠に悪影響が出ます。
低血糖体質かどうかを判断するには、血液検査による単発の血糖値測定ではその推移が評価できませんので、むしろエネルギー貯蔵状態を表す中性脂肪(空腹時)の異常低値(<50mg/dlなど)に着目する方が実践的なようです。
低血糖体質が増えている背景は「ストレス」
しかしいったいなぜ低血糖体質の人が増えているのでしょうか?
その背景には慢性的な「ストレス増加」があるようです。人間関係や過重労働など社会的ストレスばかりでなく、アトピーなどの慢性疾患や化学物質などもそれに該当します。
ヒトはストレスに対して副腎という臓器で戦っています。コルチゾールというホルモンを分泌することで、エネルギー源たる血糖値を維持し、血圧を保つことで臨戦態勢を整えます。しかし戦いがあまりに長期化すると次第に副腎の反応が弱くなり、コルチゾール分泌の低下とともに血糖値は地盤沈下しやすくなるのです。
これはアメリカのJames Wilsonという医師が提唱した「副腎疲労」という現象ですが、日本の医学界ではまだ標準的知見となっていませんので、相談に乗ってくれる医師がほとんどいないのが実情です。ダイエットのため食事制限するとかえって体調が悪くなる方は、「副腎疲労」かもしれません。
低血糖対応策…適度な糖質補給を
適切な対応策としては、とりあえず糖質の補給を少量ずつ頻繁に行うことです。一度にたくさん食べることは控えましょう。寝る前にも、長時間血糖値を維持しやすいでんぷん、ハチミツなどを少量摂取すると有効です。
ヒトは肝臓などでアミノ酸から糖を作り出す能力(糖新生)がありますので、日ごろからお肉や卵などタンパク源からアミノ酸をしっかり摂っておくことも重要です。さらに疲れた副腎を癒すためには、ビタミンCやマグネシウムといった栄養素も有用です。
そしてなによりも、過剰なストレスの緩和、あるいはストレスに対する受け止め方の改善などが重要となります。
栄養改善で妊娠促進に成功した例
栄養改善で体調不良を克服し、妊娠を促すことにも成功した症例をご紹介します。
34歳女性、初めからお子さんは3人ご希望で、2人はスムーズに授かったものの以後5年間妊娠せず、それどころか1年半前から「うつ」症状で心療内科に通院するようになってしまいました。
頭痛、肩こり、気が滅入る、不安感、ひどい寝汗と悪夢を訴えていました。家族が残したものを適当に食べる食生活だったそうです。
血液検査はヘモグロビン:11.0g/dl、フェリチン:7ng/ml、空腹時中性脂肪:40mg/dl、ビタミンD:15ng/ml。重度の鉄欠乏性貧血、低血糖傾向、ビタミンD欠乏と判断されました。
そこで、経口鉄剤とビタミンDサプリメント、並びに食事アドバイスを行うと、5か月後にはすっかり元気になり9か月後には妊娠することができました。
近年多い「栄養型うつ・栄養型不妊」…食生活の見直しを
「分子栄養学」ではこのような栄養の質的アンバランスと関連する「栄養型うつ」の存在が、女性においてより多いことを問題視しています。
戦後、日本は資本主義経済のもと経済を大いに発展させてきました。しかし一方で大量生産・大量消費などあくなき利潤追求を重ねてきた結果、私たちは食や栄養の価値、ヒトの本来あるべき姿を見失い、気付いてみれば「命のバトン」さえも売り渡そうとしているのではないでしょうか。
「少子化問題」には色々な議論があり、持続可能な定常人口に向かっているとする肯定的意見もあります。しかし望んでも授からない「不妊問題」の深刻化は、過剰な人口減少に対するブレーキ故障を意味するかもしれません。
不妊でお悩みの方のなかには「栄養型不妊」が一定の割合で含まれています。現行の不妊治療に加えてさらに効果的な対策が求められるなか、「栄養」という古くて新しい視点からのアプローチは事態改善へ向けての切り札として期待されます。
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こちらの記事の監修医師
新百合ヶ丘総合病院
袴田 拓(はかまだ・たく)
新百合ヶ丘総合病院 予防医学センター・消化器内科部門部長
医学博士
<略歴>
1967年生まれ。茨城県つくば市出身。医学博士。薬物治療や技術先行の医学界に漠然と問題意識を感じるなか、テレビ番組のニーズに応えて医師があまり重視しない栄養分野のコメントを繰り返すうち、栄養医学の真の重要性に気付く。
<経歴>
平成4年 筑波大学医学専門学群 卒
平成10年 筑波大学附属病院研修医 修了
平成16年 筑波大学大学院卒
同年 つくば双愛病院 消化器内科勤務
平成20年 霞ヶ浦研究事業団健診センター 勤務
平成26年 現職
<指導医または専門医資格>
総合内科指導医、人間ドック健診指導医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本抗加齢学会専門医、臨床分子栄養学研究会認定医
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