
厚生労働省、厚生労働行政推進調査によると、食中毒を除き、これまで食物を食べて具合が悪くなったことがある子どもは18.4%(食品数1,290品目)と、およそ5人に1人の子どもが食べ物をきっかけに、カラダに不調を感じた経験があります。また、食物アレルギーを持つ子どものうち、12.2%は強いアレルギー症状を起こしたとされています。今回、日本小児科学会専門医・指導医でありながら、日本アレルギー学会専門医・指導医としても活動する堀向健太先生が、時には命の危険にもつながる食物アレルギーの危険性と対処法を紹介します。
知っているようで意外と知らない「食物アレルギー」とは
『食物アレルギー』とはどんな病気でしょうか?⾷物アレルギーとは、ガイドラインに書いてある文章を少しかみ砕いて書くと
『その人にとって困ってしまう症状が、⾷物により免疫細胞のはたらきを通じて起こる現象』
のことです。
「免疫細胞のはたらきを通じて」というのは、例えば牛乳を飲むといつも下痢をしてしまうような『乳糖不耐症』や、夏に生卵を食べて食あたりをした、というような、「アレルギーではない現象」を除くためです。
食物アレルギーは以前と比べて増えている
東京で5年ごとに行われている、3歳のお子さんに対する統計『アレルギー疾患に関する3歳児全都調査』があります。
本調査によると、3歳までに食物アレルギー疾患と診断された子どもの割合は、平成11年の7.9%に比較して、令和元年度には14.9%と、2倍近く増えているという結果になっています。食物アレルギーは昔よりも増えているのです。
出典:アレルギー疾患に関する3歳児全都調査(概要版)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/10/22/02.html

そして、食物アレルギーと診断された子どものうち、12.2%は強いアレルギー症状(アナフィラキシーショック)を起こしたとされています。
これは海外でも問題になっており、例えば英国でも食物によるアナフィラキシーは増加しており、厳しいアナフィラキシーの要因として乳が増えているという研究結果があります。日本だけの問題ではないということですね。
出典:Food anaphylaxis in the United Kingdom: analysis of national data, 1998-2018
https://www.bmj.com/content/372/bmj.n733
アレルギーの原因になる食物は、卵(34.7%)、牛乳(22.0%)、小麦(10.6%)の3つが多いのですが、ピーナッツ(5.1%)、甲殻類(2.9%)、そば(1.8%)も無視できない数ですし、大人では魚や果物、大豆も少なくありません。
これほど多いのですから、アレルギーの対象物を間違えて食べた子どもや、はじめての食べ物で強い症状を起こし、救急外来を受診する子どもも一定数います。
食物アレルギーを発症した時の対処法は?
食物アレルギーの症状は、多くは皮膚の症状など軽い症状です。その場合は、(処方されているなら)薬を内服し、医療機関を受診しましょう。
しかし、頻度はけっして高くはありませんが、生命の危機が起こりうる強い症状を起こすこともあります。そのような強いアレルギー症状を『アナフィラキシー』といいます。
『アナフィラキシー』の診断は、実は少し難しい定義があり、『アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に機器を与え得る過敏症状』とのことです。
難しいので、ちょっとだけ簡単にすると、 アレルゲン等が体に入ってくることで、2つ以上の臓器に、そして全身にアレルギー症状が起こる、命に危険がおよぶ可能性のある過敏な反応のことです。

2つ以上の臓器、というのがわかりにくいですね。
臓器、というのは体のそれぞれのパーツと考えるといいでしょう。そして、
1.皮膚(じんましん、赤くなるなど)

2.呼吸器(咳やぜいぜい、呼吸が苦しくなるなど)

3.循環器の症状(血圧が下がったり、意識障害を起こす)

4.消化器(何度も吐く、強い腹痛など)

といった、症状のうち、2つの臓器にわたり、症状が急に広がるのがアナフィラキシーです。
実は、定義はさらにややこしく、3つあるのですが、ここでは難しく考えずに『特に強いアレルギー症状』として覚えておけばいいでしょう。
アナフィラキシーを起こしたときは、アドレナリンという緊急薬を太ももの外側に筋肉注射をします。
しかし、そんな薬がない場合も多いですよね。薬がない場合は、吐物がのどにつまらないように気をつけながら横に寝かせて、周囲の助けを求めつつ救急車を呼ぶのが無難でしょう。
なお、急に起き上がらせると、血圧が下がるなどリスクがあるため注意が必要です。
普段の生活で食物アレルギーから身を守るために
食物アレルギーは、近年医学が急速に進歩している分野です。
よって、もし受診する場合は、可能であれば『日本アレルギー学会専門医』に相談するのが良いでしょう。
しかし、『アレルギー科』と掲げられていても、専門医とは限らないことに注意が必要です。
2014年に実施された全国調査では、アレルギー科を標榜している医師のうち、アレルギー専門医資格を有する医師は3割程度とされています。
もし専門医が近くに見つからなければ、『食物アレルギー研究会』のホームページから、食物経口負荷試験の実施施設を検索するのもいいかもしれません。
そして、適切な診断を受け、対策を尋ねるのが良いでしょう。 この記事が皆さんのお役にたち、医療機関への受診につながることを願っています。