最終更新日:2022年7月1日
医療の質を守れ…私大医学部の「学費値下げラッシュ」に見る、「これからの医学部受験」
こちらの記事の監修医師
高座渋谷つばさクリニック
武井 智昭

私大医学部というと、「高額な学費」「コネによる合格」などネガティブなイメージを持つ方が少なくありません。しかし、近年数々の私大医学部・医科大学が学費の値下げに踏み切っており、その実態が変化しつつあると高座渋谷つばさクリニックの武井院長はいいます。学費値下げの背景と私大を含む医学部・医科大学受験の今後の展望について見ていきましょう。
関西医科大学がさらなる「学費値下げ」を発表
2022年6月14日、私立大学医学部の学費のさらなる低下につながるニュースが発表されました。西日本の私立医科大学では最も安いとされていた関西医科大学が、次年度(2023年度)の入学生から学費をさらに大幅に引き下げ、6年間で計2100万円にすると発表したのです。
これまでの6年間の学費は2770万円程度でしたが、さらに670万円引き下がることになりました。それだけでなく、特待生の場合は6年間で1910万円に引き下げ、6年間で2000万円を割ることになるという画期的な発表でした。
長年高額だった私大医学部の学費
私立大学医学部の6年間の学費は総額3000万円前後、学校によっては4500万円程度と相当高額であることがネックとなり、家庭の経済状況などを鑑みて受験を諦めてしまう学生や家庭はこれまで多くいました。
このため、私立大学の医学部は、親や親族が医師・医学部教授や会社社長などの実力者でないと通学できず、一方でコネとカネさえあれば「とりあえず医師になれる」と揶揄され、医学部生の質が疑問視された面もありました。
しかし、2018年の東京医科大学の事例に端を発して、私大医学部において受験の不正が次々と明らかになり、医学部受験のさらなる透明性の担保が各大学に暗黙の了解で要求され始めています。質の高い医学部生の選抜・育成ができなければ、地域医療はもちろんのこと生活の重要なインフラの1つである「医療」の質が低下し、日本の未来に関わる重大な影響をもたらしかねません。
医学部・医科大学の存在意義は、自校の卒業生を医師として活躍させることであり、医師国家試験の合格率がその評価基準となっています。この医師国家試験合格率が一定基準を下回ると国からの補助金が打ち切られるため、医学部・医科大学にとっては死活問題となっています。
このため、近年では「医師の卵」をあらかじめ選抜しておき、質の高い医師を確実に養成しようと、多くの大学が「学費の値下げ」を開始しました。私立大学の医学部の学費と偏差値は、ほぼ反比例であるといっても過言ではありません。
順天堂大学を皮切りに“学費値下げラッシュ”…その「効果」は?
学費値下げの先頭を切ったのは、2008年の順天堂大学です。6年間で総額900万円程度の学費値下げを実施した結果受験倍率は増加傾向となり、合格偏差値も70を超えるようになりました。
その後、東海大学は2012年に414万円の値下げ(2015年にはさらに250万円の値下げを実施)、東邦大学は2013年に約600万円の値下げ、帝京大学は2014年に1170万円の値下げを実行しました。
2018年に不正入試が明るみとなった東京医科大学は、翌2019年に受験者数が約3割にまで落ち込んだ影響か、受験志望者改善や試験の透明性の担保など目的は不明ではありますが、2020年以降の入学生からは年間1000万円の値下げが行われました。
偏差値急上昇・受験倍率激化の背景
私大医学部の偏差値急上昇・受験倍率の増加の背景には、こうした「急激な値下げラッシュ」に乗じた、サラリーマン家庭からの私立医大受験への多数参入がありました。
同時に、前述の医学部受験不正が報道などにより明らかになってからは、コネとカネによるいわゆる「裏口入学」が厳しくなってきました。世界で例を見ないほど少子高齢化が進む日本において、ひとり息子・娘、ひとり孫のような家庭が急増しているいま、親族が結集して財産を捻出することも可能になりつつあります。
このように、今後は私大を含む医学部学生の質は向上が見込まれるため、本来医師としての適格がない「カネとコネ」などで不正合格したと推定される医学部生の比率はさらに減少していくことが想定できます。
さらに、現時点で医師国家試験の不合格が5回以上である「国家試験浪人」は、質の高い医学部生の増加に淘汰され、相当な改心をしなければ医師への道は到底たどり着けず、医師の道を諦めるという残酷な現実と選択を迫られることになるでしょう。
経済的な視点からは、医師を1人養成するには概算1億円の費用が必要といわれています。これらの資金の一部には国民の税金が投入されているため、国家試験受験の回数制限などを司法試験に類似した形で導入したほうが、国民は納得するのではないでしょうか。
“値下げラッシュ”に逆行して「学費を上げた医科大学」の末路
こうした潮流に反し、6年間の学費を1200万円増加させた医科大学もあります。
東京女子医科大学は2020年、新型コロナウイルス感染に伴う収益減少を理由に夏期賞与の不支給を発表しました。これにより退職者が続出したため翌7月には一転して支給になったものの、その財源補填のために同年7月末には6年間の学費を1200万円値上げすることを公表し、医学部受験界を震撼させました。
東京女子医大は、小児麻酔による死亡などいくつかの医療過誤により、厚生労働省から特定機能病院の承認取り消し処分を受けています。このことは医療機関としての信頼が損なわれ患者数の激減(他医療機関への転院)を引き起こすことは想像にかたくありません。
また、勤務する医師も条件改悪を宣告され退職者が続出しており、医療機関としての維持が困難となってきています。
こうした経営状態悪化のしわ寄せが受験生とその家族に来ており、結果的に受験人数は約6割に減少し、あわせて合格偏差値も低下した模様です。財力に余裕があれば合格のハードルが下がっているため狙い目であるとも言い換えられますが、医師として認められる「医師国家試験の合格」には直結しないはずです。
「コネ・カネ」の終焉か…これからの医学部受験
医学部受験はいま、一部の富裕層の「コネ・カネ」で回していくイメージは崩れてきており、受験生本人の学力・人間性に加え家族全体で資金・メンタル面を支えていく「家族総力戦」になりつつあります。「成績がよいから、とりあえず医師になっておけば安泰」という前近代的なモチベーションでは、入学試験の面接から医師国家試験合格のどこかでつまずいてしまう傾向があります。
受験生はもちろん家族も、医学部合格を晴れて勝ち取ったら終わりではありません。医師国家試験合格(6年)を経て一人前の医師として社会に貢献(10年)するまでの、約15年間の長いマラソンに耐えていく覚悟が、より必要となってきています。
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こちらの記事の監修医師
高座渋谷つばさクリニック
武井 智昭
小児科医・内科医・アレルギー科医
2002年、慶応義塾大学医学部卒業。多くの病院・クリニックで小児科医・内科としての経験を積み、現在は高座渋谷つばさクリニック院長を務める。
感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として地域医療に貢献している。
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