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最終更新日:2022年3月24日

「医師免許をとれば一生安泰」は幻想…コロナ禍で激変した「医師の現実」

こちらの記事の監修医師
高座渋谷つばさクリニック
武井 智昭

※画像はイメージです/PIXTA

医師といえば、「高学歴・高収入・将来安泰」のイメージがあります。しかし新型コロナの流行拡大によって、その基盤に変化が生まれていると、高座渋谷つばさクリニックの武井智昭氏はいいます。本記事では、コロナ禍で生まれた「路頭に迷う医師」の現状と実態についてみていきます。

「ゴールドライセンス」をもってしても…医師が直面する”向かい風”

国の政策誘導にもありますが、国家資格を持つ歯科医・弁護士でも能力・人柄による格差が拡大し、ワーキングプアとなっている方の割合が増加しています。

医師はこれまで「食いっぱぐれのない職業」であり、婚活・出会いの場所でも「医師は高学歴・高収入で社会的な地位が高く、結婚相手としても良好」というゴールドライセンスの1つでした。

しかし、2020年3月から新型コロナウイルスの流行拡大により、受診抑制にともない医療機関の医師採用基準や勤務の待遇が見直され、収入・待遇が悪化した医師が増加しました。こうした状況から、医師の「医学部を卒業し、医師国家試験に合格すれば生涯は安泰」という流れではなくなりました。

コロナ前から変化していた医師の「キャリアパス」

医師は生涯にわたって勉強を必要とする職業です。日進月歩で進化している医学に対して新しい知識・技術を常に学習し、その内容を患者・家族に対して日々フィードバックする責務の高い業種です。

患者家族から一人前の医師として認められるには個人差はありますが、10年程度の長い年月を要すると考えられています。医師国家試験に合格して2年間の初期臨床研修医のあと、診療科を決め、4年程度の臨床経験を積んでから各科学会が定める専門医試験を受験して合格します。

このあとにも各科の専門性を高めたり研究をしたり、職業人としての医師像をブラッシュアップさせるのに4~5年間。このあいだに診療報酬などの医療経済、他職種との連携、患者家族とのコミュニケーション技術なども学ぶ必要があります。

従来であれば、ほとんどの医師は大学病院の医局(〇〇大学△△科教室)に入局、あるいは自ら大規模な医療機関に就職することにより、キャリアパスを歩むことが一般的でした。

ところが、心身の状態悪化、家庭的な理由、また苦行をしたくないという風潮などから研修をドロップアウトし、比較的負担がない勤務内容や診療科を選択する医師が増加しました。

新型コロナウイルス流行前では、医師不足の風潮があり就職は「売り手市場」でした。この流れをビジネスチャンスと考え、医師求人を取り扱う人材紹介会社は筍のように増加し、一部の善良な企業を除き「先生のキャリアのため」という大義名分のもと、こうした医師を比較的楽に成約させ、医療機関から仲介手数料を比較的容易に得ている内実がありました。

増える解雇・雇い止め…医師界は完全な「買い手市場」に

しかし、新型コロナウイルスの流行が始まった2020年からは、患者の「受診控え」による収益減少で経営状態が悪化し、「医師の解雇・雇い止め」が増加しました。

その一方で新型コロナウイルス感染症を対応する医療機関においては、業務負荷の増大にともない常勤医師の転職希望者も増加しました。受診控えが続いたため、医療機関の求人数も減少傾向となり、常勤ポストでも数割程度、非常勤(週1回などのレギュラー、あるいはスポット)では5割程度にまで減少し、これまでの「売り手市場」から完全に「買い手市場」となりました。

診療科でみると、小児科・耳鼻科・整形外科など、患者数の減少幅が大きい診療科ではその傾向が顕著であり、都心部でもこの傾向は強くありました。こうした状況から医療機関では採用のハードルを大幅に上げました。

例をあげると、東京から電車で90分の地方都市の小児科求人では、募集をかけたところ、1時間で23人の応募がありました。都心部における小児科求人では、時給を10,000円の相場から半額にしても、応募が続きました。

これはつまり、「医師側の希望条件がとおりにくくなった」といえます。採用されるにはこれまで以上のアピールできるスキルと人間性が要求されますが、採用後では比較的厚遇となっており、この少ないポストを巡って火花を散らしています。

一方で、これまでの売り手市場からのモードチェンジができず、路頭に迷い求人をさまよい歩く医師も多くいました。なかには都心でタワーマンションを購入したものの大幅な収入減で泣く泣く手放した医師や、18ヵ所に応募して2日以内にすべて断られた医師もおりました。

路頭に迷った医師は「ワクチン接種」に殺到

2021年5月より全国で、国策として新型コロナウイルスワクチンの接種が開始されました。集団接種も同時期から開始となりましたが、短期間で大人数のワクチン接種を実施するため、接種の担い手が不足しました。

また、ワクチン接種促進が「国策」であるために、手厚い補助金が支給されました。例として休日に多数の方を接種した場合、「1人あたり7000円強」の委託料が収入となりました(ワクチンの薬価は国が負担します)。

このような高額報酬の案件が多数出たため、金銭面で困窮していた医師の応募も殺到しました。ただ、ワクチン接種後のアナフィラキシー・迷走神経反射、そのほか予測し得ない事態に対して適切な対応ができた医師は少なかったという現場報告もありました。

開業しても待ち受ける「いばらの道」

勤務医を続け、崇高な意思をもって地域に診療所を開設するというのも医師のキャリア形成の1つです。しかし、「ポストがない」、「どこの医療機関も採用してもらえない」、「病院の激務から逃げたい」、「お金が欲しい」等のネガティブな理由で開業をすると、その大方は失敗する傾向があります。

特に都心部では診療所は増加傾向にあり、相当数な競合が存在する「レッドオーシャン」です。コンセプトや戦略性がなければ生き残りは難しく、365日診療・時間外診療など利便性に基づくクリニック運営が必要となる場合もあります。これに加えて、人口が多い地区では後から開業となり患者数が低下するなど過酷な競争となる傾向があります。

実際、専門医資格やコンセプトなしに安易に開業し、患者数が1日20人にも到達せず月100~200万円の赤字となり、休診日も他の医療機関で日直・当直アルバイトによってクリニック経営を維持しているというような、本末転倒な医師も存在します。

患者の求める医師になる…ウィズコロナを生き抜くキャリアプラン

上に挙げたような「路頭に迷う医師」にならないためには、大学医局や大規模医療機関に就職するにしても、研究職に進むにしても、自分が5年後や10年後にどのようになりたいか、具体的なビジョンを持つことが重要となります。そこから逆算してどのようなキャリア(修行)をするか深く考えたうえで、自分自身で考え切り拓いていく「開拓者」としての能力がいま、医師に試されています。

キャリアに裏打ちされた専門医資格と確かな知識・技術に加え、人間性があふれ安心して相談できる医師に巡り合いたい……というのが受診者の本音です。

担当する地域で受診者である住民の声に耳を傾け安心を届けられるように日々精進することは必須であり、崇高なキャリアビジョン、高い倫理観と医療経済概念のバランス感覚こそが、最終的には受診者の心をつかみます。

その信頼の積み重ねが地域住民と所属する医療機関への貢献となり、医師自身の待遇向上にもつながっていくのです。

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こちらの記事の監修医師

高座渋谷つばさクリニック

武井 智昭

小児科医・内科医・アレルギー科医 2002年、慶応義塾大学医学部卒業。多くの病院・クリニックで小児科医・内科としての経験を積み、現在は高座渋谷つばさクリニック院長を務める。
感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として地域医療に貢献している。

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