最終更新日:2022年6月25日
歯ブラシ1本でできる“究極の自己投資”…意外と知らない「歯磨き」の新常識【歯科医師が解説】

こちらの記事の監修医師
吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニック
吉田 格

自分の歯、きちんと「磨けて」いますか?
アメリカの歯科の先生と話していたとき「日本人は真面目で、手先が器用、キレイ好き。なのになぜ歯が悪い人が多いのか?」と訊かれたことがありました。
確かに多くの日本人の口の中の状況は、先進国としていかがなものか…と言わざるをえません。
「歯は1日3回磨いているから大丈夫です!」と言う人は多いのですが、「磨いている」と「磨けている」では、意味がまったく違います。
もしあなたが歯科医院で歯磨きチェックを定期的に受けていないのであれば、単に磨けている「つもり」になっているだけかもしれません。
意外に難しい、歯の磨き方の新常識に迫ります。
ヒトは歯を磨き続けなくては健康を維持できない不自然な存在
さてあなたは、なぜ歯を磨くのでしょう?
物心がついた頃から親が磨けと言うから、学校検診や歯科医院でムシ歯があると言われたから、よくわからないまま惰性で、あるいは仕方なく磨いている、という感じではありませんか?
けど「口が臭い!」と言われたくないから…というのは誰もがあるかもしれません。
そう、口の中は温度36℃・湿度100%ですから、食べ物が容易に腐敗する環境です。これは真夏の生ゴミ袋の中身と一緒! 大袈裟でも何でもありません。
ただし本当の生ゴミ袋はすぐにゴミ収集車が持っていってくれますので、あまり問題になりません。
しかし口の中ではこれが長期間放置されたまま熟成されます。それが動画1です。生ゴミというよりも、真夏の締め切った部屋の台所の排水管の中…いやそれ以上か?という感じですよね。
これでも痛くも痒くもありませんが、プラークがある限りムシ歯も歯周病も防げません。
人はやる意味がわからないことに興味を持ちませんし、強制したところで長続きしません。学校での勉強がそうでしたよね。ですから歯磨きの必要性、というよりは、「歯磨きしなかった場合の危険性」を理解することから始まります。
いろいろな言い方があるでしょうが、私は患者さんに「ヒトは歯を磨き続けなくては、健康を維持できない不自然な存在だから」と説明しています。
文明がもたらした、自然からかけ離れた環境でしか生きられないのが現代人。歯磨きとは、せめてもの自衛策という位置付けです。
何が不自然なのか、それは今私たちが口にするもののほとんどが加工食品だということです。農水畜産物というよりは、もはや工業製品に近いもの。柔らかくてネチャネチャしたものばかりで、歯への付着も強力です。これは自然の食物とは大きく異なります。
ペットのムシ歯や歯周病が増えているのも、この不自然さがもたらした現象と言っていいでしょう。
鏡を見ながら歯磨きしてみよう
発展途上国に行くと、街頭で髪の毛を切っている光景をよく見かけるそうです。どんな国に行っても、床屋さんは必ずあるのです。
しかし髪は切らなくても死にません。邪魔なら自分で切ればいいのに、なぜわざわざお金を払ってまでして、他人に切ってもらうのでしょう?
それはうまくいかない、つまりかっこ悪くなるからだと思います。
目は顔にあるので、頭部を直接見ることはできません。だからどう動かせばいいのか知りようがありません。
しかし私たちは良いものを持っています。それは鏡です。鏡を使えば、かなりいろいろなことが自力でできるようになります。
女性の中に、鏡を見ないで口紅を塗ったりアイメイクをしたりする人はいませんよね。だから、お口の中も同様です。
ということで、歯ブラシのチェックに鏡は必須です。さあ、さっそく鏡の前に行って練習してみましょう!
歯ブラシのスタートポジションを探そう
歯磨きで狙う「3つのポイント」
私はスポーツジムに通っているのですが、洗面所で歯を磨いている人をよく見かけます。するとほとんどの人が間違った磨き方をしていることに気が付きます。
男性は歯ブラシを元気よく横にガシャガシャ動かしている人が目立ちます。力を入れればキレイになると思っているのか、本人は磨けているつもりでしょうが、これはただの自己満足、肝心な部分はもれなくジャンプしています。
歯磨きで狙うポイントは、凹凸がある歯の凹の部分、すなわち「歯と歯の間」と「歯と歯肉の間」そして「歯の噛み合わせ面の溝」の3つです。まずそこに歯ブラシの毛先が入っていなければなりません。
歯磨きとは平面を磨くわけではないので力は不要、テクニック勝負の世界です。力強く磨くことは百害しかありません。
歯ブラシの「スタートポジション」を決める
たとえば奥歯の側面を磨くとき、口に入れたあなたの歯ブラシは、どのように当たっているでしょう。
ポイントは「歯と歯の間に毛先が挿入されている」ことです(写真1)。ここがスタートポジション(起点)となり、歯ブラシを動かして初めてプラークが除去できます。

歯ブラシの毛先が「歯と歯の間」に挿入されている状態。ここがスタートポジションになります。
理屈は誰にでもわかると思いますが、私たちが初診で診てきた患者さんで、最初からこれができていた人は一人もおられません。それもそのはずで、世の中ではこのような歯ブラシ指導がほとんどされていないからです。
私たちはいつも患者さんに「とにかくスタートポジションが大切」と説明しています。これがずれていては、その後どう歯ブラシを動かしても歯垢が取れるはずがありません。これは電動歯ブラシでも同じです。
そしてこの位置で「いいな」と思ってから初めて歯ブラシを動かせば良いわけです。
毛先が歯と歯の間を通過するように動かす
では、どう動かすかです。
いろいろな考え方があるのですが、私たちはまず、歯と歯の間を毛束が通過するようにお伝えします。
上の歯では上から下に(写真2の赤い矢印)・下の歯は下から上に(写真2の青い矢印)動かすように歯ブラシの柄を軸に回転させます。これで歯と歯の間のプラークが除去できます。

毛束が上の歯は上から下に(赤い矢印)・下の歯は下から上に(青い矢印)、歯間を通過するように動かす
その後は歯と歯肉の間を磨くなどの工程を辿るわけですが、それらを上下左右前後とまんべんなく磨き切るのは、そこそこ練習をしないとできません。もちろん自己流で会得できるものではありません。
詳しくはとてもここには書き切れませんので、ぜひ以下をご参照ください。
歯磨きの常識・非常識
歯磨きには、この他にも意外に知られていない要点がたくさんあります。その中からいくつかご紹介いたしましょう。
歯ブラシは小細工のないまっすぐなものを
歯ブラシはとにかくまっすぐな、当たり前のものを選んでください。しかし世の中にはおかしな形をした歯ブラシもたくさんあります。
歯ブラシは単価が安く、薄利多売をしなくてはなりません。そこでメーカーは目新しい形状を考案し差別化を図ろうとします。
その結果生まれるのがいわゆる変形歯ブラシです。柄を曲げたり毛先を加工したり、いろいろな理由をつけて売ろうとします。しかしこれが困るのです。
人によってはその形態が合い、よく磨けるようになるのかもしれません。
しかしその人は次もまた同じ製品を買うのでしょうか? そして10年後にも売っているのでしょうか? なかなかそうも行かないと思います。
鏡を見ながら歯磨きを練習していただき、慣れたら鏡は不要になります。しかし変形歯ブラシに変えるなどで歯ブラシの柄と毛の位置関係が変わると、また鏡を見て練習し直しになります。そんな手間を強いるのでしょうか?
まっすぐな歯ブラシならいつでもどこでも手に入るので、メーカーが変わっても問題は起こりません。
毛先はとにかく普通のものを
毛先を細く加工した歯ブラシは、「突き刺さり感」があるのでよく磨けるような気がします。
しかし実際に歯ブラシを動かしても細すぎて毛が「しなる」だけで、擦掃効果はむしろ落ちてしまいます。
形も硬さも、特別な理由がない限りは普通のものを選んで構いません。以下もご参照ください。
ご参考:日本歯科医師会『それは思い込みかも? どんどん進化する歯磨き』
電動歯ブラシは「自動歯ブラシ」ではない
学生の頃、参考書やよくできる同級生のノートのコピーを手にしただけで、試験はもうバッチリと思ったことはありませんか?
また、良いゴルフクラブやテニスラケットを買っただけで、うまくできるようになるはずと思ったことはないでしょうか?
それと同じで、電動歯ブラシを買っただけで、もう歯周病が治った気になる人が多いのです。
歯ブラシ指導をしようとすると「電動を使っているから、やらなくていいです」と断る人が多いのですが、大きな勘違いです。
電動はあくまで電動で、自動歯ブラシではありません。
電動歯ブラシといえども、スタートポジションは同じ。これを歯科衛生士に確認してもらう必要があります。
私は電動歯ブラシとは、手が不自由な人や、介護のヘルパーさんが使うもので、健康な人が手抜きのために使うものではないと考えています。また今回は説明できませんが、歯間ブラシやフロスも当然必要で、トータルで見ればたいした時短になりませんし、持ち運びも不便です。
毛先が届かない部分にまで効果があると謳う製品もありますが、顕微鏡で観察するとそのような力は決してないことが誰にでもわかります。派手な広告にはくれぐれもご注意ください。
高圧水流洗浄機は無効
高圧(といってもたいしたことないのですが)で水を噴出させる機械が有効と言う人もいるのですが、まったく信用できない話です。
なぜならどんな歯科医院にも昔からそのような装置があるのですが、それでプラークが取れることはないのをみんな知っているからです。
実際顕微鏡で粘着したプラークを観察すると、高圧水流ごときではビクともしないことがよくわかります。
やはり、プラークは擦って落とすしかないのです。
歯磨剤(歯磨き粉)はあくまで“補助”程度
意外に思うかもしれませんが、歯磨剤(歯磨き粉)は基本的に不要です。洗口剤(マウスウォッシュ)も気休め程度に考えてください。
まず、配合されている殺菌剤の効果が期待できるのは、基本的に唾液中の浮遊菌で、バイオフィルムという歯に付着した細菌層の中には入りません。
薬効はあくまで歯ブラシが正しく当たってから発揮されるものです。いかにもよく効きそうな広告を目にしますが、それでは磨かなくても塗るだけで効果があることになってしまいます。
一方、2017年にムシ歯予防のためにフッ素を高濃度に配合した歯磨剤が認可されました。これを歯ブラシの植毛部の2/3以上に盛り、磨いた後のウガイはほぼしないで放置することが推奨されています。
しかしその薬効も、上記の歯ブラシの取り扱いができていなければたいしたことありません。
高濃度フッ素があるから歯ブラシは適当でいい、ということではありません。また多すぎる歯磨剤は、鏡で確認しつつ歯ブラシで磨くことを難しくします。
必ず歯科衛生士がいる歯科医院で、個人に合わせた磨き方を探してもらうことが最優先です。
使用中の歯ブラシをスマホで撮ってみよう
今お使いの歯ブラシをスマホのカメラで撮って、拡大して見てみましょう。そこには驚愕の事実が写っていませんか?
古くて毛先がバラバラになっているとか、汚れが詰まっているとか、カンジダなどのカビが検出されてもおかしくない状態の人が多いと思います。

で、その歯ブラシはいつから使い始めたものか覚えていますか? 交換時期の判断はいろいろありますが、いつから使っているのかくらいは控えておきましょう。
ちなみに私はコンタクトレンズと一緒に、歯ブラシも2週間ごとに交換するようにしています。
赤染でプラークをチェック
小学生の頃、歯垢を赤く染めて友達同士で見せ合い、キャーキャー騒いでいた経験をお持ちの方も多いでしょう。
プラークは汚れといっても白いので、白い歯に着いても保護色でわかりません。これを食紅のようなもので染めると、あらあら、真っ赤っか!
この赤染、大人にも必要です。最近はマスク生活が長く続き、口で呼吸していたためプラークが固まる傾向が強いと感じています。
プラークが残った状態では、ムシ歯も歯周病も治療に入れません。何でもそうですが、原因が取れてないまま進めても、うまくいくはずありません。
しかし歯を100%磨き切れる人などおりません。ですから定期的に歯科衛生士に磨いてもらうことが必要になり、これをPMTCと称し多くの歯科医院で実施されています。特に矯正治療中の方には強くおすすめいたします(動画4)。
なお歯ブラシの練習は必ずしも歯科医院に赴く必要はなく、オンラインでもできる部分もあるので、積極的に利用したいものです。
ノーリスク・ハイリターン!?歯磨きは「究極の投資先」
2022年5月、政府は骨太の方針の中に「国民皆歯科検診」の導入を盛り込む方針と表明しました。
歯科検診を義務化することで、特に全身疾患との関連が深い歯周病の早期発見を促し、長期的に歯科疾患の減少を、さらには総医療費の抑制が目標であるとしています。
厚生労働省の「平成28年歯科疾患実態調査」によると、毎日2回以上歯を磨く人の割合は増加しているものの、4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は増加しています。
政府はその抑制に積極的に取り組むということで、おおむね歓迎される政策です。
しかし私はこの目標が達成されるためには、ここまで書いてきたことを、国民が理解することが条件だと思っています。検診は義務だから仕方がなく…ではまず効果は見込めません。
近年、見逃されてきた「歯の病気と全身疾患との関係」がどんどん明らかになってきました。糖尿病・動脈硬化・心内膜炎・早産などが有名ですが、私は副腎疲労(HPA軸機能障害)・リーキーガット(腸管壁浸漏症候群)・SIBO(小腸内細菌過増殖症)なども大きく関与していると考えています。
そしてそれらは、たった1本の歯ブラシで治療も予防も可能です。
健康への投資は多くのレバレッジが期待できます。特に歯磨きは相場が外れるようなことはありませんから、ノーリスクでありながらハイリターンが約束された、金融商品ではあり得ない効果を持っています。
そう、 歯磨きとは究極の投資先、金融だけが資本ではありません。それ以前に存在する健康こそ、資本の本質ではないでしょうか。
自分磨きは歯磨きから、まず投資すべきは自分自身であってほしいものですね。
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こちらの記事の監修医師
吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニック
吉田 格
幅広い知識・技術を中立的な立場から提供する、歯科自由診療専門医。
レーザー・顕微鏡・栄養療法を歯科医療に取り入れ、健康保険だけでは解決困難な治療を手がける。
1985年 日本歯科大学新潟歯学部卒
1997年 吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニック開設(東京都中央区)
【所属】
日本レーザー歯学会 (認定医 理事)
日本顕微鏡歯科学会 (認定指導医 理事)
日本抗加齢医学会(指導医)
臨床分子栄養医学研究会(認定指導医)
他
【著書】
インプラントのすべてがわかる本(保健同人社)
仮想待合室型オンライン診療対応の医療機関募集中
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