最終更新日:2022年9月15日
認知症リスク1.7倍…放置してはならない「膝の違和感」【専門医が解説】

こちらの記事の監修医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
塗山 正宏

日々の生活のなかで、膝の違和感や痛みをおぼえたことのある人は少なくないでしょう。ただしその違和感は一瞬であることが多く、気にしていない人が多いのではないでしょうか。しかし、世田谷人工関節・脊椎クリニックの塗山正宏先生は「放置すると認知症のリスクが高まる」といいます。それはなぜか、詳しくみていきましょう。
「がん」や「糖尿病」よりも多い…変形性膝関節症の患者数
歩き始めや、階段の昇り降りなど、日常生活のなにげないシーンで膝に違和感を覚えた経験がある人は少なくないでしょう。「膝が重い感じ」「ズキっとした痛み」「ピンと張る感じ」など違和感も人によって異なりますが、多くの場合一瞬で消え去るため、特に気にしていない人が多いのではないでしょうか。
しかし、その違和感は「早めに整形外科を受診し解消したほうがいい」サイン。意外にも、すでに膝がSOSを発している証拠なのです。
「40歳以上で、膝の痛みで悩んでいる人」は、全国で約800万人いると推定されています。そして、そのほとんどが変形性膝関節症です。
変形性膝関節症を発症していてもまったく自覚がなかったり、多少の痛みや違和感があっても気にしていない人もいるため、実は変形性膝関節症の患者数はもっと多く、50歳以上の国民で(レントゲンの初見上)変形性膝関節症を発症している人は「2,400万人」いるとされています。これは実に、「50歳以上の2人に1人」という割合です。
「2人に1人」という数字は、「変形性膝関節症は国民病である」といっても過言ではないレベルです。たとえば国民病とされる「がん」は「日本人男性の2人に1人、女性の3人に1人ががんになる」※1といわれていますし、「糖尿病」は、「成人の5〜6人に1人が糖尿病あるいはその予備軍」※2といわれています。
※1 厚生労働省 令和元年 国民健康・栄養調査(https://www.mhlw.go.jp/seisaku/24.html)
※2 厚生労働省 令和元年 国民健康・栄養調査(https://www.mhlw.go.jp/content/000681180.pdf)
つまり、変形性膝関節症の患者数(潜在的な患者も含めて)は、これらよりも多いのです。それにもかかわらず、変形性膝関節症についてあまり知識がないために、症状を放置してしまっている人も少なくありません。
決して自然治癒しない…「レベル別」膝の痛み
一体、変形性膝関節症の兆候には、どのようなものがあるのでしょうか。軽症から重症まで、レベル別にみてみましょう。ひとつでも思い当たるものがあれば、注意が必要です。
【軽症】
・立ち上がる瞬間、歩き始めなど膝に違和感がある(痛みとまではいかない。「膝が重く感じる」などの違和感)
【中等症】
・立ち上がる瞬間や歩き始めなどに痛みがある。だが、しばらく歩いていると痛みがおさまってくる
・膝を深く曲げられない。正座やあぐらの姿勢がとれない
・膝をまっすぐ伸ばすことができない
・和式の生活が辛い
・脚の形がO脚になる
・膝を曲げ伸ばしするときに「ポキっ」などと音がする。または膝関節が擦れる感じがする
・歩くとき、膝関節が不安定な感じがする
・階段の昇り降りが難しくなる
・膝に水がたまる
【重症】
・安静にしていても膝が痛む
・O脚がますますひどくなる
・夜間、膝の痛みで目が覚めることがある
・膝がまっすぐ伸びず、歩行が困難になる
特に気をつけたいのは、歩いているときに痛みが出るケースです。たとえば、じっとしていると痛くはないけれど、歩き始めると痛み、しばらくすると痛みが消えていく場合は、症状が長く続かないことから「大したことじゃない」と安易に考えてしまいがちです。
しかし、変形性膝関節症は知らないあいだにどんどん進行していきます。そして、決して自然治癒することはありません。痛みや違和感を感じたら、すぐに整形外科を診察するようにしましょう。
変形性膝関節症を招く最大の要因は「肥満」
いったい、どのような人が変形性膝関節症になりやすいのでしょうか。最大のリスク要因として挙げられるのが「肥満」です。
膝の痛みの原因には、体重が大きく影響します。なぜなら体重が増えれば増えるほど、膝にかかる負担が大きくなるからです。一般的に平らな道を歩くとき、膝には体重の約2〜3倍の負担がかかり、階段の上り下りでは約6〜7倍の負荷がかかるといわれています。
つまり、体重60kgの人が平らな道を歩くときには、膝には180kg程度、階段を下るときには420kgもの負担が膝にかかっているということです。
これだけの重みが絶えず膝にのしかかっているのですから、膝の関節がダメージを受けるのは当然です。

また、普段から重労働や激しいスポーツをしている人も、膝関節にダメージを与えやすいため、変形性膝関節症を発症するリスクが高くなります。
変形性膝関節症は「老化」の一種
変形性膝関節症の発症率が上がるのは、50代。このころに、なんとなく違和感や痛みを感じ始め、70代になってますます痛みが強くなる、というケースが少なくありません。いったい、変形性膝関節症はどのようにして発症するのでしょうか。発症のしくみをみてみましょう。
「変形性膝関節症」発症のしくみ
膝は、太ももの骨である「大腿骨」、すねの骨である「脛骨」、一般に“お皿”といわれる「膝蓋骨」の3つの骨が組み合わさって作られている関節です。
健康な膝関節では、これらの骨の表面はクッション性があり、やわらかな軟骨によって覆われています。そのため、3つの骨がぶつかってこすれあっても、関節にダメージはありません。
また、大腿骨と脛骨のあいだにある半月板も関節の衝撃を吸収する役割を果たしています。しかし、加齢が進むと軟骨や半月板がすり減ってしまい、直接、骨と骨がぶつかるようになってしまいます。そのため骨が損傷し、膝が変形したり、痛みが出たり、曲げ伸ばしができなくなったり、膝をとりまくさまざまな不都合が生じるのです。

つまり、変形性膝関節症とは「老化」の一種であり、誰もがリスクを抱えているといえます。
また、女性の場合は更年期が原因で、変形性膝関節症のリスクが高まることもわかっています。女性ホルモンのひとつ「エストロゲン」は、軟骨の成分であるコラーゲンの生成に関与しているからです。
更年期になってエストロゲンの分泌量が減少するとコラーゲンが生成されにくくなり、関節の軟骨が不足し、痛みを引き起こす原因となります。
さらに、男性に比べて筋肉量が少ないため軟骨に負担がかかりやすく、すり減りが激しくなります。そのため、変形性膝関節症の患者で痛みがある人たちの男女比率をみてみると、男性1対女性3の割合で女性が多くなっています※。
※ https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/12/dl/s1210-5d.pdf
変形性膝関節症がますます悪化する「負のサイクル」
変形性膝関節症を放置すると、どのようなリスクがあるのでしょうか。
1.歩く距離や運動量が減少し、活動範囲が狭くなる
膝の痛みが原因で歩くことが負担に感じ、活動範囲は狭くなり、おのずと運動量が減少します。
2.1日の消費カロリーが減り、肥満が進む
運動量が減れば、当然1日の消費カロリーも減少します。そのため肥満傾向が強まり、ますます膝に負担がかかります。
3.高血圧や高脂血症のリスクが高まる
運動量が減ることで、高血圧や高脂血症など生活習慣病のリスクも上昇します。
変形性膝関節症を招く重大な要素は、肥満です。特にコロナ禍、外出自粛など行動範囲が狭まる生活スタイルが定着したことにより、いわゆる「コロナ太り」に悩まされている人も多いのではないでしょうか。そういう方は、「変形性膝関節症」に要注意です。「太る→膝が悪くなる→動きたくない→ますます太る」という、負のサイクルに陥ってしまいます。
膝の痛みがある人は、認知症リスクが1.7倍以上…なぜ?
さらに怖いのは、変形性膝関節症を放置すると「認知症のリスクが高まる」ということです。
大阪大学の研究によれば、65~79歳で「膝の痛みがある」という人は、痛みがない人に比べて、認知症発症リスクが1.7倍高まることがわかっています※。
※ https://www.jages.net/library/pressrelease/?action=cabinet_action_main_download&block_id=2652&room_id=549&cabinet_id=174&file_id=6368&upload_id=7351
さらに、「65~79歳で膝の痛みがあり、毎日30分以上の歩行習慣がない」という人はもっと認知症の発症率が高く、膝の痛みがなく、歩行習慣がある人に比べて、「1.91倍」もリスクが高くなることがわかりました。
体を動かすと、脳の神経を成長させる「BDNF(脳由来神経栄養因子)」というタンパク質が海馬で多く分泌されます。海馬は記憶を司る部位ですから、BDNFがたくさん分泌されることで海馬の機能は維持され、海馬そのものも肥大します。
さらに、運動をして体を動かすことで血流が活発になり、海馬などでの血流量も増加します。血流量が増加すれば、脳に酸素や栄養素が行き届くようになりますから、認知症予防には効果的といえるでしょう。
しかし、膝の痛みがあればこうした運動を積極的に行うことができません。脳に刺激が行き届かなくなり、脳血流量も低下して、認知症を招きやすくなってしまうのです。
変形性膝関節症は、単純に膝の痛みだけの問題ではありません。高血圧や高脂血症、認知症などを招きやすくなりますし、また、症状が進めば日常生活もままならなくなり、要介護の状態になることも……。
さらに、痛みや違和感を放置していると、最初は片足にしか症状がなかったとしても、無意識にその足をかばうことにより、逆の足にも症状が出ることがあります。
「膝の違和感」に心当たりのある人は、一度近くの病院を受診することをおすすめします。
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こちらの記事の監修医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
塗山 正宏
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会運動器リハビリテーション専門医
日本スポーツ協会公認スポーツドクター
2005年北里大学医学部卒業。北里大学病院、北里大学東病院、同救急救命センターを経て、北里大学メディカルセンターにて人工関節置換術の研鑽を積む。
現在は世田谷人工関節・脊椎クリニックにて股関節、膝関節の人工関節手術を専門とする。
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