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最終更新日:2022年8月3日

年々増える「変形性股関節症」…日本人を股関節の痛みから救う「待望の治療法」【専門医が解説】

こちらの記事の監修医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
塗山 正宏

※画像はイメージです/PIXTA

変形性股関節症の治療法として、大きな注目を集めている「人工股関節置換術」。この治療は股関節のトラブルに悩む人たちにとって待望の解決法だと、世田谷人工関節・脊椎クリニックの塗山正宏先生はいいます。社会復帰もスムーズな注目の治療法について、塗山先生が詳しく解説します。

進化が著しい人工股関節置換術

脚の付け根が痛くなったり、階段の昇り降りが不自由になったり、しゃがむのが億劫になったり…。そんな不調を自覚したら、「変形性股関節症」の前触れかもしれません。変形性股関節症の症状が進行すると、人工股関節を埋め込む手術が必要になる場合があります。近年、「人工股関節置換術」の術式は非常に進化しています。細かく解説していきましょう。

最小侵襲手術(MIS)が主流になりつつある

人工股関節置換術とは、簡単に言えば、損傷している股関節を人工股関節(インプラント)に置き換える手術のこと。減量を目的とした生活指導や、筋力を高める運動療法を行ってもあまり効果が見られず、症状が進行している場合は人工股関節置換術を行う適応となります。

近年、人工股関節置換術の術式はめざましく発展しています。これまでは、手術の際に15〜20cmほど股関節の部位を切るのが一般的でした。

しかし、皮膚の切開が大きければ大きいほど回復が遅くなり、術後の痛みも大きくなります。そのため現在では、切開する部分を約10cm以内にとどめる最小侵襲手術(MIS)を行う病院が増えています。

これにより、スムーズな社会復帰が可能になり、多くの患者さんに安心して手術を受けていただけるようになりました。

[図表1]人工股関節置換術をした股関節

切開方法(アプローチ)は4種類

人工股関節置換術を行うにあたり、まず考えなければならないのが、どこから切開して股関節に到達するかということです。現在、人工股関節置換術の切開方法は主に4種類あります。

(1)前方進入法 股関節の前面の皮膚を切開して股関節にアプローチする

(2)前外側進入法 股関節の前外側の皮膚を切開して股関節にアプローチする

(3)側方進入法 股関節の横側から皮膚を切開して股関節にアプローチする

(4)後方進入法 股関節のやや後ろ側から皮膚を切開して股関節にアプローチする

[図表2]人工股関節置換術の切開方法

ひと昔前までは、人工股関節の手術は後方進入法しかありませんでした。後方進入法は約15~20cm皮膚を切開して行うので視野が広くなり、手術を安全に行えるという利点がありますが、その反面、後方にある短外旋筋という筋肉を切らなければなりません。

筋肉を切ってしまうと、手術後、股関節を深く曲げたときに後ろ側へ脱臼するリスクが高くなります。人工股関節置換術にとって、脱臼は非常に注意しなければならない合併症であり、何度も繰り返す場合は手術をもう一度やり直さなければならないこともあります。

そのため、後方進入法で手術を行った場合は、脱臼しないよう正座やしゃがむのを禁止にするなど、日常の行動が制限されるのが一般的でした。

また、側方からの進入も筋肉を切離する必要があるため、後方進入法と同様に股関節周囲の筋肉へのダメージを避けることができません。

[図表3]後方進入法のリスク

脱臼リスクが少なく、筋肉も切らない「前方進入法」

そこで誕生したのが、前方や前外側からの進入法です。この前方進入法と前外側進入法は、ひとまとめにして「前方系」と呼ばれるアプローチで、その名の通り股関節の前側の皮膚を切って手術を行う方法です。

これらの「前方系」人工股関節の手術の特徴は、筋肉や靭帯などを切離せず、筋肉の隙間を分けるようにして人工股関節を挿入していくということ。手術時間は早い場合には片足約30分程度、手術時間が短くなれば、それに合わせ麻酔の使用時間も短いため、体にかかる負担を軽減できるというメリットもあります。また、筋肉や靭帯などの損傷も最小限に抑えられるため、術後の社会復帰もスムーズに進みやすくなります。

なにより、筋肉を温存することができるので、関節の安定性が高まることで、術後の脱臼リスクを大幅に軽減することができ、日常生活で制限される動きもほとんどありません。スポーツや野外活動など、たいてい患者さんの希望通りの生活を目指すことが可能です。

ますます体への負荷が軽くなる、「真のMIS」とは?

低侵襲手術に対するニーズが高まったことで、開発が進んだ前方系の股関節置換術。術後の脱臼リスクを軽減でき、社会復帰もスムーズということから、とても期待される手術法です。一体、どのようにして手術が行われるのか、もう少し詳しくみてみます。

医師の技量差が「前方系」の壁に

股関節の前方や前外側からアプローチする「前方系」は、皮膚の切離が少なくてすむうえ、筋肉や腱を切らずに行えるという点で、真のMISといえるでしょう。しかしながら、現在、日本で行われる人工股関節置換術の約半分は、後方からのアプローチで行われています。

通常、手術を行う際には、関節の変形の度合いや合併症のリスクなどを考慮しながら、どこからアプローチするのが最適か決めますが、なぜ、現在でも後方からのアプローチが主流であるのかといえば、前方系のアプローチは手術の難易度が高く、医師の技量に左右されるためです。筋肉と筋肉の隙間から人工股関節を設置するため、医師の技術や経験値が大きく成否を分けるのです。

神経障害のリスクも低減できる、前外側進入法

ちなみに当院では、ほぼすべての患者さんに前外側進入法で手術を行っています。なぜなら、前方進入法の場合、「外側大腿皮神経」という神経を痛めてしまう患者さんが約30%程度いるからです。

外側大腿皮神経とは、太腿の前や外側の筋肉に繋がっており、感覚を司る神経です。前方から進入するとこの神経がダメージを受けることがあり、術後、感覚の鈍麻や痺れなどが起きる場合があります。

しかし、前外側から進入すればそうしたリスクを避けることができます。

当院で手術を行う患者さんは、特別な理由がない限りこの術式で手術を行っていますが、その他の術式に比べて回復が早いように思います。早ければ、手術当日から立って歩くなどリハビリを開始することができ、スムーズな社会復帰を期待できます。

仰向け?横向き?…体位でも手術の精度が変わる

切開位置のほか、手術の精度を分ける要素に患者さんの体位があります。すなわち、仰向けで手術を行うか、横向けで行うか、という違いです。

たとえば、前外側アプローチには、仰向けに寝て行う方法と、横向きに寝て行う方法がありますが、一般に、仰向けで行うものを仰臥位前外側アプローチ(ALS THA)といいます。

私がクリニックで採用しているのも、この術式です。その理由は下記の通りです。

(1)仰向けで寝て行うので骨盤の位置が安定し、人工股関節のカップを設置する際にズレが生じにくい

(2)脚の長さを調整しやすい

まず(1)についてですが、カップを安定して設置できれば、術後、脱臼のリスクを軽減することができます。

また、(2)については、仰向けだと脚の長さの違いが一目瞭然になるので、手術中に脚の長さを調整しやすくなります。もともと、変形がある股関節は軟骨や骨がすり減っていることが多いために、もう片方の脚に比べて短いことが少なくありません。

脚の長さのズレは、腰痛や膝痛などの原因になるうえ、跛行の原因となり、歩行障害につながります。そのため、人工股関節置換術を行う際に脚の長さを正確に調整できるというのは、患者さんのQOLを向上させるために大きなメリットになります。

変形性関節症は新たな国民病…万が一に備えて

高齢化が進むにつれて、日本における変形性股関節症の患者数は年々増加しています。潜在的な変形性股関節症の患者を含めれば、さらに多くなるでしょう。

もしも、変形性股関節症の手術が必要になったら……と不安に思うのであれば、健康なうちに、知識を備えておくことはとても大切です。一体、どのような基準で病院を選び、治療を進めたら良いのでしょうか。

医師選びの基準は「手術実績」と「手術時間」

変形性股関節症の手術は、決してまれなものではありません。その一方、急速に術式が進化しており、特にここ数年は患者数の急増に伴い、新しく侵襲が少ない術式がどんどん開発されています。

患者さんにとっては、術式を細かく理解することは難しいかもしれませんし、医師の技量を見極めるのも困難かもしれません。しかし、医師選びは手術の成否を分ける大事な一歩。同じ病院でも、医師によって手術の精度は大きく異なる場合もあるでしょう。

もし、変形性股関節症の手術を行うことになった場合、医師を選ぶときに何を考慮したら良いのでしょうか。

ひとつめは、手術実績です。単純に数字だけを比較するのではなく、「前方」「前外側」「後方」など、「どの術式で、どれくらい手術を行っているか」も確かめましょう。医療機関のウエブサイトや広報誌などで確認できる場合があります。

また、手術時間も医師を選ぶ際の大きな目安。いってみれば、手術時間は医師の習熟度を示す大きな基準となり、手術時間は患者さんの体に対する負荷を考慮すると、短いにこしたことはありません。手術時間も確認しましょう。

手術がうまい医師ほど、入念に準備する

最後に、手術を行う前にどれだけ丁寧に準備をするかということも、手術の成否を分ける大きなポイントです。

手術の前には、さまざまな準備が必要です。人工股関節には色々なタイプが存在するため、症例によって最適なインプラントを選択しなければなりませんし、術式も一人一人に合わせて考えなければなりません。

また、患者さんの年齢やライフスタイル、職業、趣味なども把握し、さらに「術後、やりたいこと(スポーツ、屋外活動)」などもしっかりヒアリングしたうえで、それを叶えるために必要な手術を行わなければなりません。

現在では、「3分診療」という言葉もあるとおり、「受付で散々待たされたのに、診察はわずか3分だった」ということも少なくありません。しかしそれでは、本当に満足度の高い手術を行うことは不可能です。

患者さんの悩みや希望を丁寧にヒアリングし、決して手術を無理強いせず、患者さんの気持ちに寄り添ってくれる医師を選ぶことをおすすめします。

変形性股関節症は決して珍しい病気ではありませんが、いざ手術となると、不安に感じたり、怖くなったりする人も多いかもしれません。しかし、現在は手術の術式も非常に洗練され、人工股関節のクオリティも大きく向上しています。股関節の悩みを解消し、満足のいく生活を謳歌するためにも、一度、専門医に相談してみるとよいでしょう。

塗山正宏

世田谷人工関節・脊椎クリニック

こちらの記事の監修医師

世田谷人工関節・脊椎クリニック

塗山 正宏

世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会運動器リハビリテーション専門医
日本スポーツ協会公認スポーツドクター

2005年北里大学医学部卒業。北里大学病院、北里大学東病院、同救急救命センターを経て、北里大学メディカルセンターにて人工関節置換術の研鑽を積む。

現在は世田谷人工関節・脊椎クリニックにて股関節、膝関節の人工関節手術を専門とする。