最終更新日:2022年6月22日
歩けなくなる前に気付いて…股関節が発する「3つ」のSOSサイン【医師が警告】
こちらの記事の監修医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
塗山 正宏
股関節のクッション役を果たしている軟骨がすり減ってしまったことにより、股関節の痛みや可動域の減少などが起こる変形性股関節症。そのまま放置すると歩けなくなるリスクもあることから、治療は「先手必勝」が肝心と、世田谷人工関節・脊椎クリニックの塗山正宏先生はいいます。では、具体的にはどのような治療法があるのでしょうか。みていきます。
日常生活に大きな支障をきたす「股関節の不調」
加齢にともない、発症のリスクが高まる変形性股関節症。初期のころは、立ち上がるときや歩き始めに、脚の付け根に痛みを感じる程度ですが、徐々に進行すると、なにもしていなくても痛みが出るなど、日常生活に大きな支障をきたします。
変形性股関節症の治療には、大きく分けて「保存治療」と「手術治療」の2種類があります。
心当たりがあれば病院へ…変形性股関節症にみられる主な痛み・違和感
股関節の周辺に痛みや違和感を覚えたら、それは変形性股関節症の初期かもしれません。特に次の症状は要注意です。
・歩き始めに、股関節周辺に痛みを感じる
・長い時間歩くと、股関節が痛くなる
・階段の登り下りをすると、股関節のあたりが痛む
こんな症状がみられたら、変形性股関節症を発症しているかもしれません。変形性股関節症は自然に治癒することはありません。放置すると確実に症状が悪化してしまいます。早めに整形外科で診察を受けましょう。
初期と進行期は「保存治療」が基本
変形性股関節症は、初期・進行期と、それ以降の末期で治療法が異なります。
初期の場合は、保存治療が基本。手術など外科的な処置を行わず、股関節の状態を見極めながら、現状に適した運動方法や生活習慣の改善などを継続します。
「保存治療」にはいくつかの治療法があります。
(1)運動療法
股関節周辺の筋肉をトレーニングで鍛えることで、関節への負担や衝撃を和らげます。また、痛みを軽減させたり、進行を抑えたりする効果も期待できます。
特に理想的なのは、温水プールでの歩行です。水中では浮力を活用することができ、関節の負担を軽減することができるからです。
また、スポーツクラブなどでトレーニングをする場合は、負荷が大きすぎるとかえって関節に負担をかけることになるため注意しましょう。
(2)ダイエット
肥満は変形性股関節症の要因のひとつ。1kg体重が増えると、歩くときの股関節への負担は3~4倍になるといわれているため、3~4㎏も股関節にかかる負担が増えます。日常生活で股関節に負担をかけないよう、体重が標準より超過している場合はダイエットをするようにしましょう。
(3)歩行補助装具(つえ)の使用
変形性股関節症になると、股関節が不安定になり、歩行時に転倒のリスクが高まります。特に高齢者の場合、転倒は大きな危険になり、QOLを低下する原因に。無理せず、杖など歩行補助装具を活用するようにしましょう。
(4)生活様式の見直し
「畳に座る」「和式のトイレを使う」「布団を敷いて寝る」など、昔ながらの日本式の生活は股関節に負担をかける原因になります。「イスに座る」「洋式のトイレを使う」「ベッドに寝る」など洋式の生活にチェンジすることをお勧めします。
(5)痛みがある場合は薬物療法
痛みがある場合は我慢せず、消炎鎮痛剤を使うようにしましょう。痛みを我慢していると、他の関節に負担がかかったり、歩くこと自体が億劫になって運動量が減少したりします。整形外科を受診し、内服薬や湿布薬、外用薬などを処方してもらい、痛みを抑えるようにしましょう。
「保存治療」は、あくまでも急場を凌ぐ対症療法
すでに変形性股関節症を発症している、または、進行してしまっている人の場合は、さらなる進行を防止するために保存治療を行います。しかし保存治療は、変形性股関節症を根本から治癒する「根治療法」ではなく、痛みを軽減したり病状の進行を遅らせたりする「対症療法」です。
「手術をできるだけ先延ばしにしたい」「手術は受けたくない」という人で、「まだそれほど症状が進んでいない」という場合には、保存治療で対処できますが、結局のところ、手術を先延ばしにしているに過ぎず、「いつかは手術を受けなければならない」という状態になることも少なくないのです。
保存治療をして、痛みをコントロールできたり、動きに困難がなくなったりしたら、手術治療を行う必要はありません。しかし、「痛みがなかなかおさまらない」「歩きづらさが増している」という人は、進行期から末期へ移行していることが考えられます。この場合には、保存治療ではなく、手術治療が適用になります。
痛みがなかなかひかない「進行期」以降は手術治療
変形性股関節症は、初期、進行期、末期と進んでいきます。末期になると、関節の軟骨がほとんどなくなくっている状態で、関節の隙間がなくなるため、股関節の著しい変形が起こります。
その結果、極度の痛みに襲われるだけでなく、筋力が低下したり、左右の脚の長さが違ってしまったりすることもあります。この時期になると、「手術治療」が標準的に行われます。
年齢や進行具合によって手術の方法が異なる
変形性股関節症の手術治療には、主に2つの方法があります。それぞれ適用となるケースや特徴が異なりますが、現在では、人工股関節置換術が多く行われています。
(1)骨盤骨切り術
骨の一部を切り取って関節の構造を変化させることで、症状の改善を目指す手術です。骨盤の骨を切る方法は症例によって異なりますが、多くの場合、寛骨臼の骨をドーム状に切ってスライドさせ、大腿骨頭を正常におおう手術が行われます。これにより、関節の荷重面が増え、負担を軽減するのが狙いです。
(2)人工股関節置換術
人工の股関節に置き替える手術を人工股関節置換術といいます。人工股関節は、金属製のカップ、骨頭ボール、ステムで構成されており、カップの内側には、軟骨の代わりをするライナーをはめこみます。つまり、骨頭ボールがライナーにすっぽりはまることで、滑らかな股関節の動きが再現できるという仕組みです。
このように、変形性股関節症の場合に行われる手術には2通りの方法がありますが、現在、主流となっているのは人工股関節置換術です。
2通りの手術…それぞれの「メリットとデメリット」
骨切り術と人工股関節置換術には、それぞれ、次のようなメリットとデメリットがあります。
骨切り術のメリットとデメリット
【メリット】
・自分の股関節を温存できるため、基本的に脱臼する心配がない
・日常生活に制限がなく、スポーツも自由に行える
【デメリット】
・入院期間が長く、1〜2か月は必要
・リハビリ期間も長い。社会復帰まで3~6か月程度かかる
・手術後の痛みが強い
人工股関節置換術のメリットとデメリット
【メリット】
・入院期間が短く、1〜3週間で退院できる(病院により入院期間が異なる)
・リハビリ期間も短く、1~3か月くらいで社会復帰できる(ただし、運動療法は継続する必要がある)
・股関節の可動域が手術前よりも増え、生活レベルが上がる
・手術後の痛みが少ない
・両脚の長さに差異がある場合はそろえることができる
・左右の股関節に異常がある場合は、両脚同時に手術を行える
【デメリット】
・人工股関節の寿命により、将来的に再手術の可能性がある
・激しい運動や労働など、股関節に負荷のかかる動きはNG(重労働やコンタクトスポーツなど)
人工関節の「寿命」…医療技術の進歩とともに長寿化
骨切り術は、自分の股関節を温存することができるというメリットがあり、20代や30代の若い患者で、症状が初期の場合にはこの術式が採用されることがあります。しかし、社会復帰までの時間が長く、体に対する侵襲性を考えると、人工股関節置換術に軍配が上がります。
かつては、人工股関節の寿命は10~15年程度といわれており、40代や50代で手術をすると、将来的に再手術が必要になることも少なくありませんでした。
しかし近年では、人工股関節の技術も進化し、耐久性の優れたものも増えており、人工股関節が20~30年以上機能する可能性が期待できます。50歳程度で人工股関節へ置換すれば、生涯、再手術をしなくてもずっと使用できるというケースも少なくありません。
人工股関節置換術は、非常に高度な技術を必要とする手術ですが、整形外科で行われる手術のなかでも、患者さんからの満足度が高い手術のひとつといわれており、実際、9割以上の方が術後に満足していると回答されています。
塗山 正宏
世田谷人工関節・脊椎クリニック
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こちらの記事の監修医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
塗山 正宏
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会運動器リハビリテーション専門医
日本スポーツ協会公認スポーツドクター
2005年北里大学医学部卒業。北里大学病院、北里大学東病院、同救急救命センターを経て、北里大学メディカルセンターにて人工関節置換術の研鑽を積む。
現在は世田谷人工関節・脊椎クリニックにて股関節、膝関節の人工関節手術を専門とする。
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