最終更新日:2025年4月11日
ストレスからくる便通異常…「過敏性腸症候群」の症状と治療

こちらの記事の監修医師
山科駅前おかだクリニック
岡田雄介

検査では異常がみつからないにも関わらず、下痢や便秘などの便通異常が続くことを過敏性腸症候群(IBS)といいます。時には日常生活に支障を来すほどの不調が出ることも。ストレスによって引き起こされる過敏性腸症候群の具体的な症状や治療法を解説します。
過敏性腸症候群(IBS)とは

「過敏性腸症候群(IBS)」とは、腸には何も異常がないのに、下痢や便秘などの便通異常が続く病気です。
直近3ヵ月間で、1ヵ月中3日以上下痢や便秘などの便通異常が続いていて、よくなったり悪くなったりを繰り返すようなら、過敏性腸症候群の可能性があります。便通異常の他に、下腹部の痛みや不快感を伴うこともあります。
下痢型・便秘型・混合型がある
過敏性腸症候群で起こる便通異常には下痢型、便秘型、混合型(下痢と便秘が交互に起こる)があります。そのような明確な分類ができない場合もあります。
- 下痢型:腸の運動が過剰になり、腹痛や下痢が起きるタイプの過敏性腸症候群です。「試験や会議のような緊張する場面でよく腹痛が起こる」「通勤や通学時中に突然トイレに行きたくなってしまう」などがこのタイプです。
- 便秘型:大腸の蠕動運動が減少することで、便秘が起こるタイプの過敏性腸症候群です。「旅行中に便秘になりやすい」などのように、環境の変化が便秘につながりやすい方はこのタイプに分類されます。
- 混合型:下痢と便秘の症状が繰り返し起こる場合は、混合型に分類されます。
原因は日常のストレス

過敏性腸症候群の原因は、まだはっきりと解明されているわけではありませんが、心理社会的な要因、すなわちストレスから引き起こされると言われています(腸の不調の原因としては胆汁による胆汁性下痢や、FODMAPという食物によるもの、腸の形状によるものなどあり、それらも広義の過敏性腸症候群とされることもありますが、ここではストレスによる病態を中心に述べます)。
自律神経と消化機能の関わり
自律神経は、手足など自分たちの意志で動かすことのできる随意神経とは違い、自分の意志で作用させることはできません。生命維持に必要な臓器である、心臓や胃腸などを、脳から直接自動的に動かすための神経です。
自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があります。腸への作用としては、交感神経が動きを抑え、副交感神経が動きを活発にする働きを担っています。この2つの神経がバランスを取りあって、腸の動きは正常にコントロールされています。
ストレスが加わると、交感神経と副交感神経のバランスが崩れます。腸の動きが速くなれば下痢に、腸の動きが遅くなれば便秘になります。過敏性腸症候群は、男性では下痢型が多く、女性では便秘型が多い傾向にあるのですが、最近では女性の方にも下痢型が増えている印象です。
刺激に対して過敏になった状態が過敏性腸症候群
このように、腸と脳には密接な関係があります。最近の研究では、ストレスが加わるとストレスホルモンが脳下垂体から放出され、信号となって腸に伝わり、その刺激によって腸の動きに悪影響がもたらされることが指摘されています。
過敏性腸症候群の方は、この刺激に敏感になっており、腸が反応しやすい状態になっていると言われています。そして、お腹の痛みや「また下痢になってしまうのではないか」といったストレスが、更なる刺激となり、症状を悪化させてしまう悪循環に陥ってしまいます。
過敏性腸症候群の診断

過敏性腸症候群は、腸には異常がないのにも関わらず、月に3日以上、3ヵ月以上にわたって持続・あるいは繰り返し便通異常が認められること、排便と腹痛が関連して起きていることなどから診断されます。
過敏性腸症候群に似ている胃腸の病気
過敏性腸症候群と似た症状が出る病気としては、次のようなものがあります。
- 潰瘍性大腸炎
- クローン病
- 大腸のがん
これらの病気と過敏性腸症候群を見分けるには、臨床的な検査(血液検査や便の検査、レントゲン検査、胃カメラ・大腸カメラなど)を行う必要があります。
ストレスが原因となる胃腸の不調
ストレスから引き起こされる胃腸の症状は、過敏性腸症候群だけではありません。たとえば、ストレスで胃酸が過剰に出て胃の粘膜が障害されるストレス潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)もその一つです。
現代社会では何かにつけてストレスが意図せず付きまとってきます。ストレスは心だけでなく体にも影響を及ぼします。ストレスから身体に何らかの症状を呈する病気の総称を「心身症」と呼びます。
過敏性腸症候群ではどんな不調で受診する人が多いの?
過敏性腸症候群では、例えば「下痢が長く続いている」、「下痢と普通の便を繰り返している」、「朝からトイレの回数が増えて柔らかい便が出る」、「今まで便秘をしたことがないのに便秘になっている」といった訴えが多く見られます。
単純に「ストレスを感じていますか?」のような質問をしても、患者さんは否定することがあります。そこで、「環境の変化などがありましたか?」と質問を変えると、「入社して数ヵ月目で慣れなくて」、「繁忙期で忙しくなった」、「大事なプレゼンが決まって準備が大変だ」等の答えが出てくることがあります。
患者さんのお話しをよく聞いてみると、症状が始まる前から、受験や卒業論文の追い込みや就活の時期であったり、職場の異動や転職があったりと、緊張や不安で「ストレスがいっぱい」の状態だったことがわかることがあります。
過敏性腸症候群の治療

過敏性腸症候群の治療は、根本的にはストレスを取り除くことが一番です。忙しすぎることや、不規則な生活がストレスになっていると考えられる場合には、生活習慣の改善によって症状が改善する場合もあります。
しかし、ストレスの感じ方は人それぞれです。他の人にとってはなんともないことでも、自分にとってはストレスに感じることもあり、自身ですら気付いていないストレスにさらされていることもあります。過敏性腸症候群になる方はストレスを感じやすいともいわれています。ストレスを取り除くことはなかなか難しいため、内服薬での治療を行います。
症状をおさえる内服薬
具体的には、主に便の性状を整える薬、腸の動きを調節する薬が使われます。
- 便の性状を整える薬:体に吸収されず便に混ざって作用します。保水作用のある細かい繊維のようなお薬で、便の水分が多ければ水分を吸収して硬めにし、少なければ飲水や食べ物から水分を吸収し保水することで便を軟らかくします。
- 腸の動きを整える薬:腸の過剰な動き・緩慢な動きをどちらも正常化する作用があります。
その他に、腸の動きを抑えるだけの下痢型に特化した薬もあります。また、小腸から水分の分泌を促して便を軟らかくする便秘型に特化した薬も出ています。
抗不安薬を併用することも
上記の薬で効果が不十分な場合に、ストレスによる緊張や不安を抑えるために抗不安薬を必要時に処方することもあります。
健康なのに便通異常が続く場合は医療機関に相談を

普段から健康で、健康診断でも異常がないのに、下痢や便秘などの便通異常が続いている場合は、心理的負担がないか思い返してみてください。下痢や便秘がある、下痢と便秘が交互に続く、排便回数が多くて軟便が続くといった症状があるようなら、消化器内科の受診をお勧めします。
年1回の健康診断でも、大腸の異常をみる便潜血検査も含めて異常はなく、念のための大腸内視鏡検査でも異常は認められない場合、ストレスが腸の働きに影響を及ぼしているかもしれません。ぜひ一度消化器内科に相談してください。
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こちらの記事の監修医師
山科駅前おかだクリニック
岡田雄介
おかだ ゆうすけ
≪プロフィール≫
京都出身。金沢大学医学部卒業後、京都第二赤十字病院で研修。
消化器内科を専門とした理由は内視鏡による検査や手術などの技術を磨くことに魅力を感じたため。そのまま同病院に勤務し、消化管腫瘍に対する内視鏡治療を中心に、臨床経験を積んだ。2023年5月、検査や治療に通いやすい消化器内科を作ろうと、3路線が乗り入れる山科駅前に開業した。
≪資格≫
日本内科学会認定医
日本消化器内視鏡学会専門医、近畿支部評議員
日本消化器病学会専門医
日本肝臓学会専門医
≪所属学会≫
日本内科学会
日本消化器病学会
日本消化器内視鏡学会
日本肝臓学会